バイエルンの機能美
バイエルン・ミュンヘンに隙はなかった。序盤に先制して主導権を握り、前半のうちに追加点を挙げた。交代カードを切りながら時計の針を進め、終盤に3点目を決めてリヨンの息の根を止めた。チェルシー戦、バルセロナ戦に続く完勝で、危なげなく決勝へと駒を進めている。
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集中開催となったラウンド16・2ndレグ以降の3試合で15得点。バルセロナ戦の8得点は異常だったにせよ、3試合すべてで3点差以上をつけて勝利している。
圧倒的な得点力を誇る攻撃陣だが、破壊力というよりは機能美という言葉の方がしっくりくる。個人に依存せず、ユニットとして崩していく。得点者はあくまで最後にボールに触った人であって、その過程には多くの選手の貢献が存在している。
1点目のシーンでは、カットインするニャブリと交差するようにトーマス・ミュラーが右サイドに、レバンドフスキは左サイドに流れている。イバン・ペリシッチの動きが重要で、バスケットボールでいうスクリーンのように中央に留まり、DFの対応を困らせている。
2点目もニャブリのドリブルから生まれた。中央のニャブリからパスを受けた左サイドのペリシッチが中央に折り返す。レバンドフスキはゴールに押し込めなかったが、こぼれたところをニャブリが詰めている。このシーンではミュラーがニアでつぶれ役となり、レバンドフスキがフリーになっている。
レバンドフスキだけではない
この試合ではリヨンの左ウイングバックを務めたマクスウェル・コルネの守備対応が甘かった。コルネと対面するニャブリへのパスをスタート合図に、他の3人が流動的にポジションを移動してリヨンの守備陣を幻惑した。2点ともにDFの枚数は揃っていたが、完璧なまでに崩されている。
アルフォンソ・デイビスが上がった後ろのスペースを埋めるペリシッチの献身的な動きは重要だ。ミュラーは空いたスペースを嗅ぎつける感覚が鋭く、レバンドフスキはサイドに流れると相手DFも引き連れていける。ニャブリや途中出場のキングスレイ・コマンには相手のDFラインを乱すことができるドリブルがある。
バイエルンは誰かがポジションを移せば、それを見て他の選手も取るべきポジションに移る。全員が絶妙なバランスで機転を利かせることで、フリーの選手が生まれる。レバンドフスキにそれが回ってくることが多いのは事実だが、決して彼に依存しているわけではない。
レバンドフスキは今大会ここまで、出場した9試合すべてでゴールを奪っている。しかし、チームが挙げた直近3試合の15得点を振り返ると、レバンドフスキが4得点、ニャブリが3得点、ペリシッチ、ミュラー、コウチーニョが2得点ずつと続いている。レバンドフスキの得点数が注目されるが、他の選手も得点を重ねていることがわかる。
レバンドフスキとミュラーはファーストディフェンダーとしての守備を怠らない。両サイドハーフはそれに追従し、自陣に押し込まれればサイドバックのサポートのために深い位置まで戻るタスクが与えられている。彼らの個のクオリティが高いのは言うまでもないが、こうしたハードワークがチームとしての強さを引き立たせている。
弱点を見せない工夫
実力のある選手が揃うバイエルンにこれほどまで完成されたコンビネーションを見せられると、つけ入る隙は無いように見える。弱点がないわけではないが、それを出さないような工夫をしている。
1つはディフェンスライン。ジェローム・ボアテングとダビド・アラバのセンターバックは配球能力に優れる一方で、ボアテングサイドのスピードでは分が悪い。右サイドバックに入るヨシュア・キミッヒやボランチのレオン・ゴレツカのカバーリングでなんとか対応していたが、リヨンの2トップにそこを突かれるシーンは何度かあった。
ただ、ハンス=ディーター・フリック監督もそれは織り込み済みで、リスクを減らす仕組みを作っている。両サイドバックは絞ってサイドにつり出されないようにし、サイドハーフにはプレスバックを義務付けた。ニアゾーンを埋めることで、センターバックがつり出されないようにしている。クロスを入れられる場面は増えるかもしれないが、バルセロナもリヨンも前線にストロングヘッダーがいなかったので、ボアテングやゴレツカが中央にいれば十分に守れる設計だった。
前半にボアテングが負傷したため、ニクラス・ズーレを後半開始から入れている。ズーレは昨年10月に負った前十字靭帯断裂の怪我から先月末に実践復帰をしたばかりだが、ボアテングよりはスピードがある。チェルシー戦では約30分、バルセロナ戦では約15分、そしてこの日は45分プレーした。仮にボアテングが決勝で起用できないとしても、そこまで大きな穴にはならないはずだ。
試合終盤にはキミッヒを中盤に移し、怪我から戻ってきたバンジャマン・パバールをプレーさせている。決勝に向けて最後までぬかりない準備を続けたバイエルンに、今のところ大きな欠点は見当たらない。
(文:加藤健一)
【了】