PSGが悲願の決勝進出
パリ・サンジェルマン(PSG)にとっては忘れられない夜になったはずだ。近年の躍進ぶりが著しいRBライプツィヒを3-0で退け、初のチャンピオンズリーグ(CL)決勝進出を果たしたのだから。
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準々決勝のアタランタ戦はかなり苦しんだ。後半ATに逆転したが、負けていても不思議ではない内容だった。しかし、このライプツィヒ戦はまったく逆のパフォーマンス。相手をほとんど寄せ付けることなく、勝つべくして勝った。
振り返ると、前半から動きのあるゲームだった。PSGは4-1-4-1で守るライプツィヒのハーフウェーラインをスタート地点としたプレスに序盤は苦戦したが、すぐにリズムを取り返すと、13分に先制。アンヘル・ディ・マリアの蹴ったフリーキックをマルキーニョスが頭で合わせて生まれたものだった。
1点をリードしたことで、ペースはPSGに傾いた。ビルドアップ時はマルキーニョスとレアンドロ・パレデスが下がり目、アンデル・エレーラが少し上がり、下がってくるネイマールの近くに位置することでアンカーのケビン・カンプルに対して数的優位な状況を作っている。実際、カンプルの脇でネイマールが縦パスを引き出したシーンは前半から何度か見られた。
プレスがハマらなかったライプツィヒは、途中からシステムを4-4-2へ変更。中盤底を2枚に増やしたことで、相手にライン間で数的優位な状況を作らせなかった。実際、PSGもゴール前までボールを運ぶのに相当苦労していた。
しかし、42分に再び得点が生まれる。GKペテル・グラーチが痛恨のパスミス。PSGはこれを見逃さず、最後はディ・マリアが冷静にゴールネットを揺らした。
守備で少し安定感を取り戻しつつあったライプツィヒにとっては、まさに大打撃であった。この失点にはさすがのユリアン・ナーゲルスマン監督も厳しい表情を浮かべざるを得なかった。
再び動くライプツィヒ。しかし…
45分間で2点を失ったライプツィヒ。ナーゲルスマン監督はこの状況をどうにか打開しようと、後半に入り再び動いてきた。
ダニ・オルモとクリストファー・ヌクンクを下げ、エミル・フォルスベリとパトリック・シックを投入。システムを今度は3-4-3に変更したのだ。
長身のユスフ・ポウルセンとシックが3トップに入っていることで、前線で起点を作りやすくなった。また、PSGのシステム上アンヘリーニョとコンラート・ライマーという両ウイングバックもフリーとなることができる。ライプツィヒがボールを握る時間が必然的に増えた。
守備時はフォルスベリを下げた5-3-2のような形で対応。相手の中盤3枚には3枚をぶつけ、5バックで縦の各レーンを的確に埋めることで攻撃の歯車を狂わせようと試みた。試合の状況、相手のストロングポイントを見極めてシステムを動かすナーゲルスマン監督の柔軟性というものが、よく表れていた。
しかし、PSGはそれでも止まらなかった。56分にファン・ベルナトがディ・マリアのクロスを頭で合わせてダメ押しとなる3点目を奪ったのだ。
ゴール直前にノルディ・ムキエレがA・エレーラに倒され、ファウルと思い込んだライプツィヒの選手数人が足を止めてしまった。結局VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)でもノーファウルの判定は覆らず、0-3と厳しい状況に追い込まれてしまったのだ。
その後はライプツィヒがボールを動かして1点を奪いに来たが、PSGが大きく崩れることはなかった。高い位置からプレスを与えるが、そこを外されると今度はリトリートに切り替え。ボールの位置によって対応を柔軟に変えることで、ライプツィヒに一切の隙を許さなかった。
PSGはシュート数14本を浴びたが、枠内シュートはわずか3本しか与えていない。システム変更等の「動き」が活発だったライプツィヒに対し、大きく揺れることのなかった試合運びの上手さは、決勝進出への架け橋になったと言える。
番人マルキーニョスの存在感
準々決勝では堅守を誇るアトレティコ・マドリードから2点を奪ったライプツィヒだが、この日はまったく得点の匂いが感じられなかった。もちろん軽率なミスの多さも目立ったのだが、PSGの見事な守備組織を前に完全に無力化されてしまったと言えるだろう。
とくにライプツィヒにとって厄介だったのはマルキーニョスではないだろうか。ブラジル代表DFのパフォーマンスは目を見張るものがあった。
まず、攻撃面では2試合続けて決定的な仕事を果たした。準々決勝のアタランタ戦ではチームを救う同点弾、そしてこの日はセットプレーから貴重な先制ゴールを奪っている。大舞台での勝負強さと言っていいかもしれない。
本職の守備面では攻守の切り替えを素早く行ってボールホルダーに隙を与えず。ピンチの芽を摘み取って最終ラインに落ち着きをもたらした。また、チームとして前からのプレスを外された際には、幅広いエリアを的確にカバーして相手の勢いをストップ。一切隙がなかった。最終ラインの選手からしても、これほどの存在がアンカーにいるのは非常に心強いだろう。
マルキーニョスは熱いプレーが光る選手で、とくにセットプレー時の迫力などは凄まじいものがある。その一方で頭は常に冷静、という強みも持っている。
良い意味で動きすぎることがない。下手な飛び込み、飛び出しを行うことはほとんどなく、常に的確なポジショニングとプレーを発揮し続けている。だからこそ、大きな穴にならない。マルコ・ヴェラッティやイドリッサ・ゲイェ、A・エレーラなど、人に強いMFがより能力を示すのに、マルキーニョスのようなバランサーは不可欠と言える。
身長183cmと他の並み居るCBと比べると小柄だが、それを感じさせないパワフルなプレーとここぞの勝負強さ。そして何よりクレバーな守備。マルキーニョスはライプツィヒ戦で改めて「ワールドクラス」を証明したと言っていい。
崩壊へ導いた鬼のような3トップ
そしてもう一つ忘れてはならないのが、やはりPSGの3トップと言えるだろう。この日もそのクオリティーの高さは健在。3点を奪ってライプツィヒを崩壊へと導いた。
ネイマールはキレキレだ。ドリブルで相手を剥がすシーンはこの日も何度か見られ、テクニックの高さを活かしたタメで攻撃のリズムを変えた。キリアン・ムバッペと流動的にポジションを入れ替えながらライプツィヒ守備陣をかき乱すなど、活発なプレーを継続している。あとは得点が欲しいところだ。
ムバッペは負傷の影響を感じさせないパフォーマンス。持ち味のスピードで相手の脅威となり、ネイマールと同じくテクニックの高さを活かしたキープ力も目立った。背番号10とのコンビネーションも相変わらず抜群である。
そしてディ・マリア。ネイマールやムバッペとは違いほぼ右サイドに張りながらのプレーとなったが、3得点に絡む素晴らしい活躍ぶり。終盤は疲労の色も出ていたが、ボールを受けた際の技術と創造性でチームの攻撃のグレードを一気に高めた。前回のアタランタ戦は出場停止となっていたが、存在感の大きさというものを改めて証明したと言えるだろう。
アタランタもライプツィヒもアグレッシブな守備でPSGを襲ってきたが、そこを剥がしたのは個の力だった。人数をかけずとも、3人でゴールをこじ開けてしまうのはPSG最大の強みと言える。とくに「一発勝負」では。もちろん、彼らが前線で違いを作るのに欠かせないのは組織的な守備であることを忘れてはならないが、戦術をぶち壊す鬼のような3トップがいなければ、ここまで辿り着くのは不可能だったはずだ。
悲願の優勝まであと一勝に迫ったPSG。この勢いのまま、ビッグイヤーを掲げることになるだろうか。
(文:小澤祐作)
【了】