相手のミスを見逃さなかったインテル
「彼らはハイプレスとブロックを築く時間帯を使い分けてくる。そしてカウンター攻撃で我々を打ち砕こうとするだろう」
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試合前の会見でアントニオ・コンテ監督はシャフタール・ドネツクの戦いをそう予想している。結果的にシャフタールはインテルより263本も多くのパスをつないだが、90分間で放ったシュートは5本で、インテルは決定機と呼べるようなチャンスを作らせなかった。
自陣でボールを持つシャフタールに対して、インテルは高い位置から奪うような守備はしていない。2トップは相手の両センターバックの前に立ってパスコースを限定させ、3人のMFとWBのところでボールを奪い続けた。
先制点のシーンは相手GKのパスミスをバレッラが拾い、クロスをラウタロ・マルティネスが頭で合わせた。アンドリー・ピアトフがパスの出しどころに迷ったところで生まれたキックミスだった。
64分にCKから2点目を奪ったインテルは、前掛かりになったシャフタールの裏を突いた。一瞬のトラップミスをブルゾビッチが奪い去り、74分にラウタロが2点目のゴールを決める。ロメル・ルカクは78分に相手のパスミスを拾ったラウタロからパスを受けてゴールに流し込み、84分には縦パスを受けて前を向き、自らドリブルで突破して5点目を入れた。
シャフタールの強みを消す戦略
国内リーグに比べると、コンテはCLで結果を残せていない。ユベントスではセリエA3連覇、チェルシーでも1年目に優勝し、今季就任したインテルでもユベントスに肉薄した。一方のCLでは今季も含めてグループステージ敗退が2度、ラウンド16と準々決勝で1度ずつ敗退していて、ベスト4に駒を進めたことはない。11勝9敗8分という戦績も、率いてきたクラブの規模を考えれば物足りない。
コンテは慎重すぎるのかもしれない。自力で勝る相手に対して勝ちを取りこぼすことは少ないので、リーグ戦では強さを見せる。しかし、相手をリスペクトする戦いを選ぶので、互角以上の力を持つ相手に対しては分が悪いかもしれない。
ブラジル人を中心とした攻撃陣の破壊力がシャフタールの大きな武器になっている。決勝ラウンド5試合で14得点を挙げたが、その多くをカウンターから奪っている。両サイドハーフがインサイドにポジションを取り、中央での連携から崩すシーンも多かった。
インテルは相手にボールを持たせることで、相手のカウンターを封じた。さらに、3バックと3人のMFがサイドに流れず中央を固めることで、中央で崩そうとする相手の攻撃を無力化している。シャフタールはボールを持ててもチャンスにつなげられず、じれたところでミスが生じた。
完璧主義のコンテ
5得点のうち3得点は相手のミスから生まれた。シャフタールにミスがなければもっと拮抗した展開になっていたかもしれないが、少なくともインテルが失点する気配はなかった。
力関係から言えば、インテルはボールをつないで主導権を握ることもできたはずだ。対等に討ち合えば、インテルが勝利する可能性が高かっただろう。しかし、コンテは万が一を恐れ、よりリスクが低く、確実に勝利できる方法を選んだ。
相手のストロングポイントを消して失点の危険を最小限にした上で、2トップの個人能力を活かしたリスクの少ない攻撃に勝機を見つけている。用意周到ともいえるこの選択が、5-0という圧勝劇を生んだと言っていいだろう。
インテルの戦い方は、15/16シーズンのCL決勝のレアル・マドリードに似ていた。守備が武器のアトレティコ・マドリードに敢えてボールを持たせることで相手の強みを消した。お互いの長所を打ち消し合うことでジネディーヌ・ジダン監督は優位に戦いを進めていた。アトレティコとシャフタールのスタイルは大きく異なるが、相手の長所を消す狙いはコンテもジダンも同じだった。
完璧主義なのか、用意周到なのか。コンテは抜け目ないプランでシャフタールを撃破した。決勝で待つのはローマ、ウォルバーハンプトン、マンチェスター・ユナイテッドとの接戦をものにしてきたセビージャ。決勝ラウンドではフレン・ロペテギ監督の采配が光った試合も多かっただけに、両指揮官の戦略が注目されるだろう。
インテルが倒したヘタフェ、レバークーゼン、シャフタールはどちらかといえば格下の部類に入る。決勝でセビージャを倒し、タイトル獲得をして初めて、コンテはカップ戦の苦手を克服したと言えるだろう。
(文:加藤健一)
【了】