三度目の正直ならず
今季のマンチェスター・ユナイテッドは二度、ベスト4での敗退を余儀なくされている。FAカップではチェルシーに、カラバオカップではマンチェスター・シティにそれぞれ敗北を喫した。
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ユナイテッドを率いるオーレ・グンナー・スールシャール監督は、その経験こそが重要になると、ヨーロッパリーグ(EL)準決勝、セビージャ戦を前にコメントしていた。
「私自身も、何かに負けたときはその悔しい思いを二度と味わいたくないと思う。きっと選手たちも日曜には万全の状態で臨むことだろう」。
しかし、三度目の正直とはならなかった。ユナイテッドはELを“得意”としているセビージャに1-2と逆転負け。欧州主要大会における最後のイングランド勢となっていたが、残念ながら大会から姿を消すこととなった。
序盤の戦いぶりを見る限り、ユナイテッドがファイナルに進出する可能性は十分高かったと言える。120分間を戦い抜いた準々決勝のコペンハーゲン戦による疲労の影響を感じさせず、アグレッシブなプレーでセビージャを困惑させていたからだ。
そして、良い流れを掴んだまま9分に先制弾も奪った。ブルーノ・フェルナンデスによるPKだったが、そこに至るまでのボールの動きなどは完璧。ゲームへの入り方はセビージャを明らかに上回っていたと言えるだろう。
しかし、26分に相手の見事なカウンターから右サイドを破られ、最後はスソにゴールを許してしまった。ウイングのルーカス・オカンポスが外へ開き、空いたハーフスペースをセルヒオ・レギロンが突いたことがキッカケとなって生まれた同点弾。ユナイテッドはセビージャに得意な形を作られてしまったと言える。
波状攻撃も実らず
スコアを振り出しに戻されたユナイテッドは、その後もセビージャにペースを握られた。キーマンとなっていたのは、やはりエベル・バネガだ。
セビージャはビルドアップ時、アンカーのフェルナンドが最終ラインに下がることで瞬間的に3バックとなる。そして両サイドバックを高い位置へ押し上げ、相手サイドハーフのマークを寄せると、トップ下B・フェルナンデスとの間にできたエリアにバネガが下りてくる。そこにパスを当ててボールを前進させた。
すると、今度はアンカーのフェルナンドが徐々にポジションを上げてくる。こうすることで、中央をフレッジとポール・ポグバで守るユナイテッドに対し、バネガ、フェルナンド、ジョアン・ジョルダンの三人で数的優位な状況を作り出すことができたのだ。
ただ、ユナイテッドも中央をしっかりと固めて得点を与えず。1-1のまま前半を終えている。そして、少しペースを握られた状態で残り45分間を迎えたユナイテッドだが、ここでも素晴らしい入りを見せることとなった。
46分にメイソン・グリーンウッドがGKボノとの1対1を迎えると、そこから怒涛のシュートラッシュ。49分にはアントニー・マルシャル、マーカス・ラッシュフォード、再びマルシャル、そしてB・フェルナンデスと立て続けにフィニッシュを浴びせるなど、波状攻撃を見せた。
そして、前半から危険な存在となっていたバネガへの対応も光った。52分、ジュル・クンデからパスを引き出した背番号10に対し、マルシャルが積極的なプレーでボールを刈り取り、最後はGKボノとの1対1に持ち込んでいる。
しかし、ユナイテッドは最後までセビージャ守備陣の壁を乗り越えることができなかった。ボノのファインセーブは光っており、クンデやジエゴ・カルロスもしっかりと身体を投げ出してくる。ここまでELにおける10試合でわずか5失点という堅守を見せつけられる結果となった。
スールシャールは動けなかった
フレン・ロペテギ監督は、56分にやや存在感の薄かったユセフ・エン=ネシリとオカンポスを下げ、ルーク・デ・ヨングとムニル・エル・ハッダディをそれぞれ投入。劣勢な状況を覆そうという、攻撃的な交対策だった。
この選手交代がいきなり試合の流れを変えたわけではない。しかし、身長188cmを誇り、昨季のエールディビジ得点王にも輝いたデ・ヨングが入ったことで、それまでよりも前線で起点を作れるようになったことは確かだった。
そして、この交対策はじわじわとユナイテッド相手に効果を発揮。これを好機と見たロペテギ監督はさらにスソを下げてフランコ・バスケスを投入し、さらに勢いを加速させたのだ。
こうした経緯があり、78分に逆転弾が生まれた。右サイドのヘスス・ナバスからのクロスを最後はフリーとなっていたデ・ヨングが冷静に合わせたのだ。
結果的に采配が的中する形となったロペテギ監督に対し、スールシャール監督はまったく動けなかった。
確かに、流れ自体はそこまで悪くなく、動くのは難しかった。主力選手と控え選手の「差」も当然ある。また、ロペテギ監督はウォルバーハンプトン戦で先に選手交代を行ったヌーノ・エスピリト・サント監督の戦略を逆手にとって勝利を手繰り寄せていたので、先に動く怖さというものがスールシャール監督の頭の中にはあったのかもしれない。
しかし、逆転を許した中でファン・マタ、ダニエル・ジェームズ、オディオン・イガロなどを一気に投入するのはあまりに無鉄砲。これでは何も考えず、ただただ選手の力に任せている、と思われても仕方がない。
リーグ戦でも、点差がついた中で一気に選手を入れ替えることはあったものの、流れを変えるような采配を見せたのはほんの数回あったかどうか。こうした欧州の舞台では選手のレベルはもちろん、とくに指揮官の手腕が重要となってくるが、そういった意味でスールシャール監督はまだまだ力不足と言える。
ユナイテッドは今季、リーグ戦を3位で終え来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場権を手に入れた。ただ、選手個々の力のおかげで上昇気流に乗れたと考える人も、スールシャール監督では不安という声も多い。その「不安」が結果として出てしまった、そんなセビージャ戦であったと言える。
(文:小澤祐作)
【了】