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マンC敗退は必然だった? リヨンの4強進出が実現した理由。特殊なCLがゆえの大番狂わせ【欧州CL準々決勝】

UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の準々決勝、マンチェスター・シティ対リヨンが現地15日に行われ、3-1でリヨンが勝利。10シーズンぶりの準決勝進出を決めた。大方の予想を覆した番狂わせはなぜ起こったのか。今大会の傾向を見ると、シティの敗退は必然だったのかもしれない。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

CLベスト4が出揃う

リヨン
【写真:Getty Images】

 今季のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)は何やら様子がおかしい。

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 パリ・サンジェルマン(PSG)、RBライプツィヒ、そしてバイエルン・ミュンヘンに続いてベスト4の最後の椅子を勝ち取ったのはマンチェスター・シティではなくリヨンだった。

 準決勝には昨季王者のリバプールはおろか、レアル・マドリードやバルセロナ、チェルシー、ユベントス、アトレティコ・マドリーといった世界的な人気を誇るイングランドやスペイン、イタリアのビッグクラブが1つもいない。

 ベスト4をフランスとドイツのクラブが占めるのは異例中の異例だ。決勝の対戦カードが同国対決になる可能性もある。こうなった背景には新型コロナウイルス感染拡大にともなって準々決勝以降がポルトガルの首都リスボンでの集中開催、全て一発勝負になった影響もあるだろう。

 現地15日に行われた準々決勝でシティを3-1と粉砕したリヨンのリュディ・ガルシア監督は、試合後に「我々は戦術バトルに勝った」と語った。

「私はチームと選手たちを誇りに思う。シティのようなビッグクラブ相手に勝てると思われていなかっただろうが、我々は自分たちを信じていた。なんとか3つのゴールを決めることができ、許したゴールは1つだけだ。これは意思統一がとれたチームのメンタルコンディションによるものだと思う。

(交代出場で2得点を挙げた)ムサ・デンベレが先発できなかったのは残念だったが、彼にはピッチに入れば必ず重要な存在になると伝えていた。ペップは全てを期待される。だから我々は彼が何をしてくるかわかっていた。戦術バトルに勝ったんだ」

 指揮官の言葉通り、リヨンの戦いぶりは見事だった。チーム全体の統率が取れ、「何としてでも勝つ」という固い決意は序盤からよく見て取れた。

 シティは昨季のCLグループリーグでリヨンに負け越していた。ホームでは敗れ、アウェイではドロー。その屈辱を経験していたからか、相手が格上相手に3バック(見方によっては5バック)を採用することを読んでいたペップは、普段の4-3-3ではなく3-4-3で今回の準々決勝に挑んだ。

 対するリヨンは5-3-2でシティを迎え撃つ。特に3-3-2と計8人が構える中央は堅く、危険なエリアにいい形でパスを通させないことを強く意識しているようだった。そして相手のパスをカットしたら、すかさず速攻で反撃に出る。ある程度ボールをシティに握られることを前提に、少ないチャンスを生かしてゴールを奪うための徹底した準備がなされていた。

ハイレベルな「戦術バトル」

 24分に生まれたリヨンの先制点の場面、ゴールまでに要したパスはたったの「1本」だった。

 左センターバックのマルサルが相手のディフェンスラインの背後にロングパスを送ると、カール・トコ=エカンビが飛び出してボールに触る。そこで一度シティのDFエリック・ガルシアにスライディングでブロックされたが、背後から走り込んでいた左ウィングバックのマクスウェル・コルネが狙いすましたシュートをGKエデルソンが守るゴールに突き刺した。

 コルネは昨季のCLでシティと対戦した際に2試合で3得点を奪っていた。まさに「シティ・キラー」ぶりを遺憾なく発揮した貴重な先制点だった。そして左ウィングバックの彼が高い位置をとって相手右サイドバック、カイル・ウォーカーを引きつけたことにより、シティのディフェンスラインはトコ=エカンビに対してオフサイドを取り損ねた。まさに狙い通りの一撃だ。

 先に失点したシティもケビン・デ・ブライネやラヒーム・スターリングを中心にチャンスを作るが、リヨンのGKアントニー・ロペスが好守連発で阻止。前半はリヨンの1点リードで折り返した。

 後半に入って56分、シティは右センターバックに入っていたフェルナンジーニョを下げてリヤド・マフレズを投入する。この交代にともなってシステムも3-4-3から慣れ親しんだ4-3-3に戻して攻めの圧を強めていく。

 一方、相手の狙いに気づいたリヨンも呼応するようにシステム変更に踏み切った。左ウィングバックのコルネを1列前に押し出し、2トップの一角だったトコ=エカンビを右サイドに回す形で4-5-1に移行。

 中央にスペースがないなら、サイドに人数をかけて崩そうとしたシティに対して真っ向勝負を挑んだ。すると69分、シティはペナルティエリア左に抜け出したスターリングの折り返しにデ・ブライネが右足で合わせて同点に追いつく。

 ディフェンスラインの隙間を突かれて自陣ゴール前を深くえぐられたことでリヨンのDFたちは遅れて走りこんできたデ・ブライネに対応しきれなかった。それでも彼らの心は折れず、愚直に勝ち越しを狙っていく。

勝利を渇望したリヨンの執念

リュディ・ガルシア
【写真:Getty Images】

 失点直後には疲れが見え始めていたアンカーのブルーノ・ギマランイスに代えてチアゴ・メンデスを投入。このブラジル人MFにはディフェンスラインの手前のスペースを埋め、センターバックが相手に動かされて持ち場を離れた際にはその穴をケアする役割が課され、それらを忠実にこなしていた。

 さらにリヨンは75分にレオ・デュボワとメンフィス・デパイを下げて、ケニー・テテとムサ・デンベレを送り出し、右サイドと最前線に活力を注入した。

 中心選手を交代させるリュディ・ガルシア監督の思い切った策は、すぐに功を奏した。79分、マクセンス・カケレが中盤で相手センターバックのエメリック・ラポルトが蹴った安易なパスをカットし、すぐさまウセム・アワールに預ける。

 そしてリヨンの中盤で圧倒的な存在感を放っていた22歳のアルジェリア系フランス人MFは、シティの崩れたディフェンスラインの隙間に鋭いスルーパスを通した。最後はアウトサイドから抜け出してきた途中出場のムサ・デンベレがエデルソンとの1対1を制してゴールネットを揺らし、再び1点差とする。

 カケレがずっと目を光らせていたコースに、ラポルトは何の疑いもなく緩いパスを出してしまった。この失点にはさすがのペップ・グアルディオラもひざからがっくりと崩れ落ちた。

 終盤はギリギリの戦いだった。リヨンは再びリードを手にしたことで4バックから5バックに戻し、失点のリスクを極力避けながらあわよくば追加点という戦い方にシフトする。それでも86分にシティは華麗な崩しで「あとは決めるだけ」の大チャンスを作り出したが、スターリングはゴール目の前からのシュートを大きく外してしまい頭を抱えた。

 その直後のゴールキックから、リヨンの決定的な3点目が生まれた。一度シティのボールになりかけたところをカケレが引っ掛けて奪い返し、直前からピッチに立っていたジェフ・レーヌ=アデレードが味方へつなぐ。そしてアワールのシュートをエデルソンが弾いたところに、ムサ・デンベレが詰めていた。シティは万事休すだった。

 UEFA公式スタッツを参照すると、90分間を終えてボール支配率はシティの67%に対しリヨンは33%。シュート数でもリヨンの7本をシティが19本で大きく上回っていた。にもかかわらず、準決勝に駒を進めたのは下馬評では圧倒的不利とされていたリヨンだった。

結果に表れた「準備」の差

リヨン
【写真:Getty Images】

 なぜこれほどの大番狂わせが起きたのか。それには諸説あるが、心身ともに最高の状態を作りあげることができたかどうか、つまり「準備」の違いは大きかっただろう。

 リヨンやPSGはフランスリーグが早々に今季の残り試合中止を決定したため、3月頃にはリーグ戦が終了。その時点でCLに照準を合わせた準備を始めることができた。7月末のリーグカップ決勝や、ユベントスと対戦したCLラウンド16の2ndレグですらも、リスボンに入ってからの戦いに向けた「準備」と位置づけることができた。フィジカルやメンタルのコンディションのみならず、格上の対戦に備えた戦術やチーム内の意思統一を図る時間は十分にあった。

 バイエルンやRBライプツィヒにしても、ブンデスリーガは6月末に閉幕していて、プレミアリーグやセリエA、ラ・リーガのクラブに比べてCLのための準備期間は1ヶ月近く長く取れている。

 プレミア勢やバルセロナ、マドリーなどは7月末に国内リーグが終わった後、一度短い休暇を挟んで再集合して調整を進めてきた。バカンス気分から欧州トップレベルで戦うためのフィジカルとメンタルを作り直すには、残っていた時間が短すぎたと言えるのかもしれない。

 今季のCLはリスボンで集中開催となり、準々決勝以降が一発勝負になっただけでない、例年との大きな違いがあった。リーグ戦と並行しながらハイテンションを維持して戦えるいつもの大会のことは頭の中から切り離し、準備から実戦まで全てにおいて変化へ適応すること、そしてこれまでの自分たちを超越することが求められていたのだ。

 リヨンは時間をかけてシティのような強豪に対する戦い方を準備し、練り上げ、リスボンに乗り込んできた。一発勝負の短期決戦に臨むにあたって、すべての照準を合わせて集中して準備できた時間の長さと気持ちの強さはパフォーマンスの違いになり、最終的に結果として表れるということだろう。

 先制点を挙げたコルネは「僕たちがここにいるのは偶然じゃない。みんながお互いのために戦った。過小評価されていたのかもしれないが、このパフォーマンスを続けていきたい」とシティ相手の快勝を喜んだ。

 途中出場で2得点を奪ったムサ・デンベレは「新型コロナウイルスによる長期中断の後、僕たちは全てを捧げなければいけないと自分たちに言い聞かせてきた。そして全員のメンタリティが変わり、素晴らしいチームになった。ベンチに座ること、先発でないことはどんな時も悲しいけれど、それよりもチームに貢献できるよう集中しなければならない」と、リヨンが時間をかけて醸成してきた一体感の成果を誇った。

 中断期間を利用して自分たちを見つめ直し、練習を重ねて自信を深め、仲間との結束を強めたリヨンは2年連続でペップ・シティを打ち破り、今回は10シーズンぶりのCLベスト4進出を果たした。ここから先は本当の意味で総合力の勝負になる。次なる相手は優勝候補筆頭のバイエルン・ミュンヘンだ。リュディ・ガルシア監督率いるリヨンのミラクルストーリーはどこまで続くだろうか。

(文:舩木渉)

【了】

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