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ネイマールは最強だった。PSG、大逆転勝利の要因は? アタランタを閉じ込めた30分間【欧州CL】

チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝、アタランタ対パリ・サンジェルマンが現地時間12日に行われ、1-2でPSGが勝利している。先制されるなど苦しんだフランス王者だが、終盤に2点を叩き込んで見事にベスト4入りを決めた。勢いのある相手を前に、どのようにして白星を奪ったのか。(文:小澤祐作)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

PSGから先制点を奪取

チャンピオンズリーグ
【写真:Getty Images】

 アタランタとパリ・サンジェルマン(PSG)。これまで決して顔を合わせることがなかった両者による一戦は、人々の期待を裏切らない素晴らしいものとなった。

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 試合はお互いにテンション高く入るなどいきなりスピーディーな展開に。2分にはアレハンドロ・ゴメスが、そしてその1分後にはネイマールがビッグチャンスを迎えるなど、両チームともにゴールへの意識を早い時間から発揮していた。

 その中で最初にペースを握ったのはアタランタだった。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督の下で成熟したマンツーマンディフェンスがPSG相手にもその脅威を示し、高い位置でボールを奪っては縦に素早く展開。PSGのディフェンス陣に休む暇を与えず、何度か綻びを作り出していた。

 一方、押し込まれたフランス王者の攻めの形は必然的にカウンターに。しかし、中盤でことごとく潰されるため、なかなかゴール前までボールを運べない。唯一ネイマールのドリブル突破が得点への希望となっていたが、ペナルティエリア内に多くの人数を集められず。マウロ・イカルディしか飛び込めていないというシーンが見受けられた。

 そんなPSGに対し、アタランタは持ち味である攻撃力を余すことなく発揮。ウイングバック、さらにセンターバックも積極的に前線へ顔を出すことで的を絞らせず、同時にボールを動かし続けることでより対応を難しくさせた。11分には低い位置でボールを受けたA・ゴメスから大外のハンス・ハテブールへロングボールが届きチャンスを迎えるなど、らしさをみせている。

 その後はややPSGペースになりかけたが、それを消し去るようにアタランタが先制する。26分、セカンドボールを拾ったマリオ・パシャリッチが左足でシュート。ボールはGKケイラー・ナバスの手が届かないコースへ飛び、ゴールネットを揺らした。

 この時、アンカーのマルキーニョスが下がって5枚で守っていたPSGに対し、アタランタはCBのラファエル・トロイが飛び出したことで4枚で攻めることができた。こぼれ球がパシャリッチの下へ転がったのは運が良かったが、同選手がフリーとなったのはトロイのランニングがファン・ベルナトを引き付けたから。PSGとは違い、ゴール前にしっかりと人数を集められたがゆえの先制弾だったと言えるだろう。

ムバッペ投入で流れに変化

 これまでCLでイタリア勢に勝てていなかったPSGは、前半を1点ビハインドのまま終えた。決定機はほぼネイマールの個人技が生み出したもので、イカルディやパブロ・サラビアは沈黙と苦しい戦いを強いられてしまった。

 迎えた後半も、アタランタの勢いは落ちない。ボールホルダーに対するアタックの強度は相変わらず抜群で、イエローカードを受けても強気な姿勢を貫く。こうなると、さすがのPSGも思った通りの攻撃を繰り出すのは容易でなかった。

 開始わずか2分にはマルテン・デローン、そして58分にはベラト・ジムシティにチャンスを作られた。この勢いのまま追加点を奪われても仕方がない、といった展開だったことは誰の目にも明らかだっただろう。

 しかし、60分の交代を機に流れは一変する。トーマス・トゥヘル監督はサラビアを下げ、なんとか負傷から回復したキリアン・ムバッペを投入したのだ。

 フランスの若き大器はうまく試合に入った。73分にはレアンドロ・パレデスのスルーパスに抜け出して決定機を作るなど、アタランタの3バックの脇、右WBハテブールの背後を自慢の走力を武器に果敢に狙ったのだ。

 アタランタは時間が経つにつれ疲労の影響も出ており、ボールホルダーに強くプレッシャーを与えることが難しくなっていた。そして、サイドにはスピードスターのムバッペがいる。攻撃的なディフェンスが特徴的なアタランタだが、流石にスペースを与えると怖いので、自陣に引かざるを得なくなっていた。

 こうなると、試合は一方的な展開となる。アタランタはムバッペ投入後の30分間ほとんどで自陣に閉じ込められ、さらに交代枠を使い切った後にレモ・フロイラーが負傷し、ピッチに立っているだけの状態に。反対にPSGはネイマールとムバッペを中心にアタックを継続。あとはゴールに結びつけられるかどうかという状況だった。

 そして、攻撃を浴び続けたアタランタの守備ブロックはついに崩れてしまった。90分にマルキーニョス、そして93分に途中出場のマキシム・チュポ=モティングがゴール。主将のチアゴ・シウバも雄叫びを上げる土壇場の大逆転でPSGが見事ベスト4に駒を進めた。

ネイマールは止められない

ネイマール
【写真:Getty Images】

 3季連続でCLベスト16敗退となっていたPSGにとっては、悲願と言ってもいいベスト4入りだろう。また、終盤での大逆転と次に向けても勢いのつくような勝ち方をできたのは非常に大きいと言えそうだ。

 そんなチームにおいてこの日、他を圧倒する存在感を放った人物がいた。背番号10を身につける絶対的エースのネイマールだ。

 ムバッペがベンチスタートとなった中、この男に対する期待値は果てしなく大きかった。しかし、ブラジル代表の至宝はそのプレッシャーを難なく跳ね除け、ピッチ上でキレキレのパフォーマンスを披露。もはやその勢いはどうにも止まらなかった。

 戦前の予想では左ウイングに入ると思われたネイマールだが、ピッチ上でのポジションはトップ下に近かった。ただ、ある程度の自由は与えられており、右に左と幅広いエリアでアクションを起こす。PSGの攻撃はほぼこの男が起点となって生まれたと言っても過言ではない。

 ネイマールはアタランタの激しいマンツーマンディフェンスをものともせず、ワンタッチパスやテクニックの高さを活かした「タメ」をうまく使い分けてリズムを生み出した。さすがのアタランタ守備陣もこの男の変幻自在なプレーには手を焼いていた印象だ。

 中でも自身最大の武器であるドリブルの切れ味は圧巻。ネイマールはボールを持つとすぐに仕掛けるのではなく、一度止まる。そして、少し身体を揺らすことで「行くぞ」と誘い、相手がしっかり構えてところで開いている股下にボールを通すなど、テクニカルなプレーでデローンやパシャリッチといった選手を無力化した。もちろん、スピードに乗った突破力も抜群。相手の前にしっかりと身体を入れることでより対応を難しくさせた。

 ネイマールは90分間常に存在感を放ち続けた。最後は自身がペナルティエリア内でボールを収め、そこからマルキーニョスのゴールが誕生。そして、ムバッペに絶妙なスルーパスを出すなど逆転弾にも関与。主役は最後まで主役であり続けた。

 ネイマールはこの日のMOMに選出。文句なしと言えるだろう。また、データサイト『Who Scored』によるとドリブル成功数は16回にも上っており、両チーム合わせて単独トップに君臨。2位のデローンが同3回であることからも、その圧巻ぶりがわかるだろう。シュート数も7回でトップ、キーパス4本は2位の数字となっているなど、エースとしての仕事を全うした。

アタランタは全クラブの希望に

アタランタ
【写真:Getty Images】

 一方、ベスト8敗退に終わったアタランタだが、PSGに対しても堂々たる姿勢を貫いたと言えるだろう。数年前までリーグ戦で残留争いを強いられていた小さなクラブが、明確なプランを持って一歩一歩成長を果たし、欧州最高峰の舞台で輝く姿は、全世界のチームにとって大きな希望となったはずだ。

 今季がCL初出場で、下馬評は決して高くなかった。思い返せば、ディナモ・ザグレブに0-4、シャフタール・ドネツクに1-2、マンチェスター・シティに1-5とスタートは最悪だった。しかし、そこから2勝1分で見事に決勝トーナメント進出。クラブだけでなく、CLの歴史も塗り替えた。

 ラウンド16ではバレンシアに大勝を収めた。果たして2019/20シーズン開幕前、アタランタがここまで躍進することを予想した人はどれほどいただろうか。

 ベスト4入りは叶わなかった。A・ゴメス、フロイラーの試合中の負傷、ピエルルイジ・ゴッリーニやヨシップ・イリチッチ不在の影響は少なからずあり、最後はPSGというメガクラブの選手層の大きさや選手個々のクオリティーの高さを見せつけられる結果となった。

 しかし、彼らがピッチ上で示したパフォーマンスは十分勝利に値するものだった。ガスペリーニ監督の下、自分たちのスタイルを捨てず、勇敢に立ち向かう姿は観る者を大いに魅了したはずだ。今回対戦したPSGや国内のユベントスやインテルといったクラブと比べるとまだまだ規模の小さいクラブだが、サッカーの内容はもはや強豪クラブのそれとなんら遜色ないと言えるのではないか。

 今季のセリエAを3位で終えたことで、アタランタは来年もCLという舞台に立つことができる。ただ、次は決勝トーナメント行きだけでは「頑張った」とはならない。今季よりも高い場所を目指すことが求められるだろう。ここからのアタランタは、そういったクラブになっていかなければならないのだ。

 来季はより成長した姿に期待したい。

(文:小澤祐作)

【了】

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