ウルブズの狙い
試合を通じてボールを握り続けたのはセビージャだったが、あまり得点の匂いはしなかった。セビージャは敵陣でボールを持ち続けたが、それ以上にウルブズのディフェンスが堅かった。
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5-3-2の陣形をとるウルブズの「3」の両脇をセビージャは狙った。中盤のエベル・バネガがセンターバックの脇に降りて、相手の2トップに対して数的優位を作り、サイドバックを高い位置に押し上げる。サイドチェンジを使って相手の守備ブロックを左右に揺さぶって生まれたインサイドのスペースを、スソとオカンポスが活用しようとした。
しかし、セビージャの狙いはうまくいかなかった。ウルブズのMFは中央のスペースを埋め、ペナルティーエリアの幅以上は追わなかった。セビージャはサイドに運んでも中央へのパスコースはMFに塞がれ、縦のコースにはウイングバックが立っていた。
ウルブズは5-3の守備ブロックで中央を閉じ、ボールを奪ったら素早く2トップに当ててカウンターにつなげる。驚異的なスプリント力を誇る重戦車アダマ・トラオレと決定力のあるラウール・ヒメネスの打開力に賭けた。
11分にウルブズはボールを奪うと、トラオレが自陣から60m以上の距離をドリブルで運んでペナルティーエリアに侵入する。セビージャのセンターバックのジエゴ・カルロスは後ろからスライディングタックルで倒してしまい、ウルブズはPKを獲得。しかし、ラウール・ヒメネスのキックはGKボノに防がれ、ウルブズは千載一遇のチャンスを逃した。
急所を突いたセビージャ
セビージャはなかなか決定機を作れないまま、後半の時間が経過した。先に動いたのはウルブズ。ジョアン・モウチーニョを下げてペドロ・ネトを投入し、3-4-2-1の布陣に変更する。
ウルブズはトラオレとネトをウイングに張らせてカウンターの威力を取り戻そうとした。しかし、このときトラオレはすでに足が止まっていた。押し込まれてサイドの守備に回ったところからカウンターに加わる力は残っていなかった。
セビージャはこのシステム変更の急所を突いた。
76分にバネガが倒されてFKを得たシーンがわかりやすい。両サイドの幅を使ってボールを回し、中央にパスを入れた。ウルブズの中盤が2人に減ったことで中央にスペースが生まれていた。
セビージャは88分にCKを獲得。スソがショートコーナーでバネガにパスを送ると、オカンポスがクロスを頭で合わせてゴールネットを揺らした。ウルブズの準備が整う前にリスタートしたスソの好判断が生んだゴールだった。
このゴールにつながったCKも、右のハーフスペースで受けたスソが、右に流れて裏に抜けたオカンポスにスルーパスを出したところから生まれている。値千金のゴールはセビージャの狙い通りだった。
セビージャのセンターバック、ジエゴ・カルロスとジュル・クンデもPK以降はヒメネスとトラオレのスピードに慣れ、チャンスをほとんど作らせていない。ウルブズがこの試合で放ったシュートは6本で、PK以降はミドルシュート2本だけ。ウルブズのFW陣を封じた2人のパフォーマンスがセビージャを勝利に引き寄せた。
一発勝負の難しさ
久々に欧州の大会に出場したウルブズと、常連のセビージャ。対照的な両クラブだが、選手たちの経験の差が勝負を分けたとは言えない。ウルブズのルイ・パトリシオやモウチーニョ、ルベン・ネベスといった選手たちは欧州の大会を経験している。
強いて言えば、一発勝負の難しさを感じた。クラブレベルではカップ戦の決勝くらいしか経験することがない。特に難しいのは交代カードの切り方ではないだろうか。
マンチェスター・ユナイテッドは90分間で前線の選手を変えず、延長前半開始とともにファン・マタを投入して直後に先制ゴールにつなげた。力が拮抗する準々決勝以降は1つの交代策が勝負を分ける可能性が高い。180分ではなく90分で決まる今大会はよりその色が濃くなる。
世代別のスペイン代表で一発勝負の国際大会を経験しているフレン・ロペテギに軍配が上がった。ロペテギは我慢比べに勝ち、先に動いたヌーノ・エスピリト・サント監督の戦略を逆手にとった。あくまで結果論の域を過ぎないが、「先に動いた方が負け」が鉄則かもしれない。
セビージャにとっては勝負強さが強調された試合となった。次なる対戦相手は先述の準々決勝で延長戦を制したユナイテッド。アタッカー陣が繰り出すカウンターの威力はウルブズ以上のものがある。勝負師ロペテギの采配が重要になることは想像に難しくない。
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(文:加藤健一)
【了】