酷暑のゲームプラン
コペンハーゲン側のゴールポストだけ太かったのではないだろうか。そう思うくらいマンチェスター・ユナイテッドのシュートは何度もゴールポストに弾かれた。90分でゴールを割ることはできなかったが、延長前半に獲得したPKを成功させて、なんとか準決勝進出を決めている。
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ユナイテッドはラウンド16でLASKリンツと対戦。3月に行われた1stレグで5-0と大勝していたこともあり、2ndレグでは主力を温存させ、中4日に行われた準々決勝にベストメンバーを起用している。しかし、GKにはダビド・デヘアではなく、今大会でゴールマウスを守ってきたセルヒオ・ロメロが引き続き先発した。
対するコペンハーゲンはスコットランドのセルティックとトルコのバシャクシェヒルを破り、クラブ史上初めてベスト8に名を連ねた。バシャクシェヒルとの2ndレグからは2人を変更してこの試合に臨んでいる。
前半は両チームともに同じようなプランだった。ユナイテッドはセンターサークルの前、コペンハーゲンはハーフウェイライン付近をプレッシングのスタートラインに設定し、DFラインまでをコンパクトにして守っている。ボールを失ったときは両チームともにリトリートに移行する判断が早く、ネガティブトランジションでボールを再奪取する意識はあまり高くなかった。
このあたりの戦略は、暑さによる消耗を防ぐ狙いがあったかもしれない。この試合が行われたドイツのケルンはキックオフ時点で32度に達していた。同時刻で25度だったマンチェスター、22度だったコペンハーゲンに比べても非常に高い。暑熱順化できるほどの日程の余裕もなく、暑さは勝敗を分けるポイントになる要素だった。
マンUは90分で得点できず
ユナイテッドは44分、グリーンウッドは右サイドを突破して鋭く右足を振り抜いてゴールネットを揺らした。しかし、VARのチェックによりオフサイドとなり、ゴールは認められなかった。
消耗を防ぐゲームプランでも、60分を過ぎたあたりから両チームの足が止まっていく。攻守が分断されてオープンな展開となり、ユナイテッドはカウンターを受けた際にハリー・マグワイアとエリック・バイリーが立て続けにイエローカードをもらってしまった。
57分にグリーンウッドが左足、63分にはブルーノ・フェルナンデスが右足を振り抜いたが、どちらもポストを直撃。GKカール=ヨハン・ヨンソンもビッグセーブを連発し、ユナイテッドはゴールを奪えないまま90分を終えた。
しかし、延長前半から投入されたファン・マタが決定的な役割を果たした。
マタは92分、93分と立て続けにマルシャルの決定機を演出した。その直後、相手のクリアボールを拾ったマーカス・ラッシュフォードのパスを受けて前を向き、中央のマルシャルにパスを出す。これを収めたマルシャルは背後からアンドレアス・ビェランに倒されてPKを獲得。PK職人のブルーノ・フェルナンデスはこれを左隅に決めて先制に成功した。
マタが果たした役割
交代策は的中だった。後半は押し込んだ相手に対してミドルシュートを多用してゴールを狙ったが、GKのビッグセーブもあってゴールを決めきれなかった。対照的に延長戦では、マタが広範囲を動くことでDFラインと中盤の間にスペースが生まれた。PK獲得までの決定機はいずれもマタが絡んでいる。
マタがやっていたのはブルーノ・フェルナンデスの仕事だった。マタはグリーンウッドに代わって右サイドに入ったが、ワイドに開くことはあまりなかった。降りてきてボールを引き出して逆サイドへ展開したり、左サイドに流れてプレーしたりした。司令塔の役割を2人が分担したことでブルーノ・フェルナンデスの負担も軽減され、コペンハーゲンのデイフェンスを混乱に陥れている。
リーグ戦終盤の好調は、まぎれもなくブルーノ・フェルナンデスによる影響が大きかった。しかし、彼の絶大な影響力にチームはが依存しすぎて手詰まりになることもある。ボルシア・ドルトムントのジェイドン・サンチョの獲得が難しくなっているようだが、ユナイテッドにはマタがいる。タイプは異なるが、ユナイテッドに必要な存在であることを自らの力で証明した。
マタは2アシストを記録したLASK戦に続く活躍だった。延長後半から出場したジェシー・リンガードはリーグ戦最終節とLASK戦で2試合連続ゴールをマークしている。
ユナイテッドは今大会の優勝候補の最右翼だが、トーナメントは何が起こるかわからない。ましてや中立地での開催で、一発勝負で勝敗が決まる。いつもと異なるレギュレーションで行われる今大会ではいつも以上に勝負強さが必要になる。ユナイテッドにとってリンガードとマタがカギを握ることになるかもしれない。
(文:加藤健一)
【了】