控えメンバーを起用したマンU
マンチェスター・ユナイテッドとLASKリンツのUEFAヨーロッパリーグ(EL)ラウンド16は、1stレグで決着がついたと言っていい。3月12日にオーストリアで行われた試合は、試合終盤にユナイテッドが3得点を挙げて0-5で勝利している。
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LASKにとってこの2ndレグは、実質的に新シーズンの開幕だった。7月5日に国内の公式戦を終え、6日後には新監督が発表されている。チームはつかの間のオフを経て、新シーズンに向けて準備を始めたところだった。
新指揮官のドミニク・タールハマーは15年ぶりに男子トップチームの指揮を執る。長くオーストリア女子代表の監督を務め、2017年には初出場となったEUROでベスト4進出にチームを導いている。
ユナイテッドはリーグ戦再開後、6勝3分の好成績で8ポイント差を逆転して3位でフィニッシュした。怪我から復帰したマーカス・ラッシュフォードやポール・ポグバが活躍したチームから圧倒的な攻撃力を誇っている。
一方で、オレ・グンナー・スールシャール監督はメンバーを固定したことで、主力選手の疲労は溜まっていた。そして、第35節のサウサンプトン戦ではルーク・ショーが右足首を負傷し、今季中の復帰は絶望的となっている。
ユナイテッドはこの試合に、多くのサブメンバーを起用している。ダビド・デヘアをベンチからも外し、控えGKのセルヒオ・ロメロを起用。攻撃陣はオディオン・イガロを最前線に、2列目には右からファン・マタ、ジェシー・リンガード、ダニエル・ジェームズを起用した。
効果的だったハーフタイムの修正
3-4-3でオールコートプレッシングをかけるLASKにユナイテッドは苦しんだ。プレスを剥がして何度かチャンスにつなげたシーンもあったが、前半はLASKが7本のシュートを放ったのに対し、ユナイテッドはわずか2本に終わっている。
ハーフタイムにユナイテッドは修正を試みた。右にジェームズ、トップ下にマタ、左にリンガードという並びに変更。ジェームズはスピードを活かして縦に勝負できるようになり、マタは中央で広いエリアを使うことができた。
しかし、先制点を奪ったのはLASKだった。コーナーキックのこぼれ球を3バックの右を担当するフィリップ・ヴィーシンガーがボックス外やや左寄りの位置から狙った。力みのないコントロールショットはファーサイドのゴールネットを揺らした。
しかし、ユナイテッドも後半から立て続けにチャンスを作っていた。先制点から2分後、相手のバックパスを拾ったマタがダイレクトで左サイドに展開。DFラインを突破したリンガードがGKの股を抜くシュートで同点に追いついた。
同点に追いついたユナイテッドは主力のポグバやアントニー・マルシャルを入れるとともに、20歳のタヒス・チョンとこの試合がトップチームデビューとなったテデン・メンジを入れた。すると、84分にマタのパス交換から抜けたマルシャルがシュート。ボールはGKに当たってゴールに吸い込まれ、ユナイテッドは逆転に成功した。
ユナイテッドは苦しみながらも2-1で勝利。ブランドン・ウィリアムズとハリー・マグワイアを除く主力選手を休ませることができ、ドイツで行われる準々決勝以降にも弾みをつけた勝利となった。
リンガードはリーグ最終節に続く2試合連続ゴールで、ここのところ出場機会がなかったマタも2アシストで存在感を示した。ハーフタイムの修正も効果的だった。内容はまずまずの試合と言っていい。
左サイドバックの問題
気になったのは左サイドだった。ショーに代わって先発で起用されているウィリアムズは今季プレミアリーグでデビューした19歳で、リーグ戦17試合に出場する飛躍のシーズンとなっている。前日には24年までの契約延長も発表された、将来を期待されるサイドバックである。
ウィリアムズは豊富な運動量を武器に左サイドを上下動したが、チャンスに関わることはほとんどできなかった。
この試合に限ったものではないが、蹴り足に問題があるように見える。
サイドバックがそのサイド側の足でボールを持てば、相手とボールの間に自身の体を入れてキープすることができる。しかし、右利きのウィリアムズはそれができずにタッチラインを背にしてしまい、ボールを相手に晒してしまう傾向がある。
左足のキックの精度が原因なのかもしれない。52分のシーンではフリーになったが、左足のキックはぎこちない動きで、ゴール前に飛び込む味方に合わせることができず。61分にもワンツーからフリーになったが、クロスは大きくゴールラインを割っている。
データにも顕著に出ている。データサイト『RBREF』によれば、ここまで今大会5試合に先発しているウィリアムズは87%の成功率で1試合平均56.4本のパスを成功させている。そのうち左足を使ったのは平均12.6本で全体の22%にしか満たない。LASKとの1stレグを除いて4試合は左サイドで起用されている選手としては、かなり少ない数字と言える。
左足のキックに不安を抱えるウィリアムズは右足でボールを持つことが多くなる。すると、縦へ深く切り込んでも、切り返して右足でクロスを上げるしか選択肢はなくなる。もちろん相手もそれをわかっているので、攻撃面でほとんどチャンスにつなげることができなかった。
72分にはウィリアムズに代わってチョンが左サイドバックに入っている。左利きのチョンはウイングが本職の選手なので単純な比較はできないが、ボールを持ったときの両者の違いは明らかだった。
ユースチームでも左サイドでプレーしていたことを考えれば、ウィリアムズが左足をこれほど使えないのは大きな弱点だと思う。ただ、まだ19歳なので伸びしろは十分に残されている。左足の精度が上がれば、ショーを脅かす選手に成長するかもしれない。
ディオゴ・ダロトは30人の登録メンバーには入っていたが、この試合のベンチからは外れている。おそらくは準々決勝以降もウィリアムズが左サイドバックで起用されるだろう。ウィリアムズにとってみれば、ショーがいないこの期間は千載一遇のチャンス。そして、ウィリアムズの成長はスールシャール監督就任後初のタイトル獲得へつながるはずだ。
(文:加藤健一)
【了】