最終節は勝ってCLへ
プレミアリーグの2019/20シーズンの全日程が現地26日に無事終了した。新型コロナウイルス感染拡大にともなう約3ヶ月間の中断もあり、本当に長く過酷なシーズンとなった。
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リバプールの優勝は早々に決まっていたが、最終節をもって来季の欧州カップ戦の出場権獲得クラブや降格クラブも決定している。その中で、マンチェスター・ユナイテッドは3位で来季のチャンピオンズリーグ(CL)出場権を確保することに成功した。
1月あるいは中断前の3月の時点で、誰がユナイテッドの3位フィニッシュを想像できただろうか。リバプールとマンチェスター・シティがリーグ戦を引っ張ることは予想できたが、今季のユナイテッドは2シーズン連続でCL出場を逃すとの見方が強かっただろう。
ロメル・ルカクやアレクシス・サンチェスといった前線の核になりうるスター選手を放出した一方、昨夏の時点で戦力的な上積みは少なく、やはり前半戦は苦しい戦いを強いられた。昨年10月には一時的に14位まで沈み、ずっと中位をふらふらとさまよっていただけに、6位か7位でのフィニッシュもありえたはずだ。
しかし、終わってみれば3位。後半戦は14試合負けなしと怒涛の勢いで勝ち点を積み重ねた。首位リバプールとは33ポイント、2位シティとは15ポイントと大きな差をつけられたものの、この2クラブが他から頭1つも2つも抜けていることは火を見るよりも明らかで、ユナイテッドの3位フィニッシュは今季最大の目標達成と言っていいはずだ。
26日に行われた最終節のレスター・シティ戦は、苦しみながらも2-0で勝利。試合後にユナイテッドを率いるオーレ・グンナー・スールシャール監督は「多くの人々は我々が6位か7位に終わると予想していただろう」と述べ、CL出場権獲得という成果を誇った。
「スタッフと選手たちによる大きな成果だ。彼らは信じられないほど素晴らしかった。今朝、私は『今日何が起こっても素晴らしいシーズンだった』ということを、全員にチャットで伝えたんだ。我々は(クラブの)カルチャーを築いている。私は彼らの努力を嬉しく、そして誇りに思っている」
ドラマチックな状況で迎えたリーグ最終戦だった。チェルシーの試合結果しだいなところもあったが、ユナイテッドとレスターは直接対決でCL出場権を争うことに。前者は引き分け以上、後者は勝利が必要で、決して消化試合などではなかった。
元ユナイテッドのベテランが“アシスト”
序盤からユナイテッドがボールを握って攻めるものの、なかなか決定的なチャンスを作ることができず、5-3-2のような形で守りを固めるレスターに苦しめられた。後半ももどかしい展開が続き、終盤に差し掛かろうという時間帯に試合が動いた。
68分、ユナイテッドは高い位置から相手にプレッシャーをかけてメイソン・グリーンウッドがボールを奪うと、ブルーノ・フェルナンデスのワンタッチスルーパスが炸裂。それに反応し抜け出したアントニー・マルシャルが、ウェズ・モーガンとジョニー・エバンスに挟まれるような形で倒される。
ファウルがあった場所はペナルティエリア内。エバンスにはイエローカードが提示され、彼の古巣にPKが与えられた。そして、絶好のチャンスをブルーノ・フェルナンデスが落ち着いて沈め、ユナイテッドが先制に成功する。
失点したレスターは直後にデマレイ・グレイ、ハーヴェイ・バーンズ、デニス・プラートの3人を一挙に投入して前がかりになるも、なかなかユナイテッドのゴールを割ることができない。
するとユナイテッドの勝利が濃厚になりつつあった後半アディショナルタイムに、スコット・マクトミネイを危険なタックルで倒したエバンスにレッドカードが突きつけられてしまった。レスターにとっては最悪の瞬間だった。
この退場劇によってアディショナルタイムは数分延び、98分には途中出場のジェシー・リンガードが、レスターのGKカスパー・シュマイケルに激しくプレッシャーをかけてボールを奪い、無人のゴールにシュートを流し込んでトドメ。レスターに反撃の時間は残されておらず、目の前でCL出場の権利はユナイテッドに渡った。
年明けまでリバプールを脅かす勢いで2位につけていたレスターは後半戦に急失速してしまったが、ユナイテッドは対照的に急加速でCL出場権内まで駆け上がった。リーグ戦再開からの過密日程をも乗り越えての3位フィニッシュに至った要因は、大きく分けて3つあるだろう。
ブルーノ・フェルナンデスの影響力
1つ目は冬の移籍市場でポルトガルのスポルティングCPから加入したブルーノ・フェルナンデスの存在だ。
母国リーグで別格の存在感を発揮していた25歳のファンタジスタは、プレミアリーグ移籍後の全試合に先発出場してワールドクラスの実力を証明した。酷使とも言える起用を受けながらも、14試合で8得点7アシストは見事の一言。度々決定的な場面に関与し、巻き返しをけん引した。
トップ下に入ったブルーノ・フェルナンデスを中心に、マルシャルやマーカス・ラッシュフォード、グリーンウッドが並ぶ攻撃陣が非常に優れた連動性を発揮。選手層の厚みには課題は残ったものの、マルシャルとラッシュフォードは17得点、グリーンウッドも18歳ながら10得点と目覚ましい結果を残している。
スールシャール監督はレスター戦後に「彼が大きな影響力を持っていることを認めなければならない。非常に大きなインパクトがあった。彼はゴールを決め、ゴールを生み出してきた。彼の情熱やメンタリティにも大いに助けられた。今日は少し疲れていたかもしれないが、彼が多くの試合に出場したのは自然なことだ」とブルーノ・フェルナンデスを称賛していた。
急浮上を果たせた2つ目の要因としては新型コロナウイルスの感染拡大にともなう中断期間が、負傷者の回復に十分な時間だったことも挙げておきたい。ポグバやラッシュフォードが本調子を取り戻したことは、中断が明けてからの6勝3分という成績に大きく影響したはずだ。
ポグバが戦列復帰を果たしたことで中盤のベストな組み合わせも見つかった。ブルーノ・フェルナンデスを攻撃に注力させ、ポグバに自由を与えるために、背中をベテランのネマニャ・マティッチに任せる。この中盤のトリオが確立されたのも、安定した戦いぶりにつながったはずだ。
実は堅かった守備陣。批判浴びたデ・ヘアも…
そして3つ目の要因は、守備の安定感だ。ルカクやサンチェスが去った攻撃陣に昨夏の時点で大きな戦力的上積みがなかった一方、ディフェンスラインにはハリー・マグワイアやアーロン・ワン=ビサカが加わり、主力に定着。ユナイテッドは38試合で36失点、リーグで3番目に少ない失点数だった。
不安定なパフォーマンスで批判を浴びることが多いGKのダビド・デ・ヘアも、リーグ戦全38試合に出場してクリーンシートは13回あった。シティのエデルソンが記録した17回や、リバプールのアリソン・ベッカーの15回には及ばなかったものの、称賛されるべき数字だろう。
昨季は6位でCL出場権を逃していたユナイテッドは、いるべき場所に戻ってきたと言えるのか。真価が問われるのは来季になる。ヨーロッパリーグ(EL)には経験を積ませるために若手を多く起用する方針だったが、CLでそうはいかない。
常に本気のメンバーを組み、国内リーグとCLを並行して週2試合ペースの過密日程をこなしていかなければならない。スールシャール監督の目論見通り、ELを戦った今季はグリーンウッドやブランドン・ウィリアムズら若手の台頭も目立ったが、現状ではCLとプレミアリーグを両立できるだけの選手層はない。新型コロナウイルスの影響で財政的なダメージを受ける中でも、即戦力級の補強は必須だろう。
「私は自分がやっていることや、やってきたことを信じている。我々(のような指導者)には全員に違ったマネジメント手法があり、私にも自分なりのやり方がある。それこそが私にできる唯一のやり方だ」
中位にとどまると予想されたユナイテッドをCL出場権獲得まで引き上げたスールシャール監督の手腕は称えられるべきだろう。まだELに勝ち残っており、8月はそれだけに集中して今季最後のタイトル獲得を目指すことができる。選手たちも指揮官を信じて団結しており、プレミアリーグの3位フィニッシュが次なる戦いにもポジティブなエネルギーをもたらすはずだ。
そして来季はユナイテッドの監督として初めて欧州最高峰の舞台に挑む。選手としてCLの舞台を知り尽くした“ベビーフェイスの殺し屋”が、監督になってどんなチームを作り上げていくか楽しみに見ていきたい。
(文:舩木渉)
【了】