宇佐美貴史のフリーロール
宇佐美貴史は日本サッカー界有数のタレントの1人だが、どのポジションが最適かというといまひとつはっきりしていなかった。
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CFという感じではないが、ウイングかというと少し違う。インサイドハーフもできるが最適かといわれるとそれも違う。FWとMFの中間の「どこか」なのだが、ずっと「どこなのだろう」と思っていた。
今季はパートナーと2トップを組んでいる。宇佐美の置き所としては結局ここなのだろう。セカンドトップという自由度のある曖昧なポジションは最も無難な起用方法だ。
ただ、最近の宇佐美はその自由度を存分に生かし始めたように見える。
もう1人のFWの側にいるのではなく、中盤に引きサイドへ流れ、さまざまな局面に関与している。それが非常に効果的なのだ。
宇佐美はボールを失わない。彼が関与することで、バタバタしていた局面がスッと整理される。前を向けばドリブルで剥がし、ワンツーで突入し、長いパスで守備の急所をつく。何より最大の武器であるミドルシュートを狙っていく。
ボールの芯を食ったキックが特徴だ。中心を足の深い部分(くるぶし近く)でとらえるキックは正確で、パワーを伝えやすい。シュートでもパスでも、この正確で速いキックがモノをいう。前傾姿勢になるのがスムーズなのでドリブルも速い。相手ゴールから40メートル以内で宇佐美がボールを持てば、即チャンスになる可能性がある。
ただし、宇佐美のフリーロールはそれだけでは成立しにくい。
宇佐美がゴールから遠ざかると、2トップの片割れがゴール前にいるだけだ。それがアデミウソンでもパトリックでも渡邊千真でも、ボックスに1人ではいくら宇佐美から精度の高いミドルパスが届けられても多勢に無勢である。宇佐美が引いたり、サイドへ回るなら、代わりにゴール前の人数を増やす「誰か」が必要になる。
その意味での宇佐美の相棒になっているのが井手口陽介だ。
宇佐美貴史を活かすダイナモ
井手口は中盤のボールハンターというイメージなので、宇佐美の代わりにゴール前へ出て行くのが井手口というのはキャスト的に意外かもしれない。だが、宇佐美と似た強いキックができて、何より運動量がある。ゴール前へ上がっていって、攻撃が頓挫したときはスプリントで自分のポジションへ戻っていける。
フリーロールのアタッカーと運動量豊富なダイナモ型MFの相性がいいのは、実は歴史的にもさまざまな例がある。
古くはアヤックスやオランダ代表、後にバルセロナでコンビを組んだヨハン・クライフとヨハン・ニースケンスがそうだった。名前は同じヨハンだが、クライフとニースケンスのプレースタイルは対照的といっていい。
クライフはいちおうCFのポジションだが、いわゆる「偽9番」でFWとMFの中間的なプレーヤーだった。CFとしてのクライフが有名だが、実はけっこういろいろなポジションをやっている。インサイドハーフやウイング、ときにはアンカーでもプレーしていた。万能アタッカーだが、どこが最適なのかよくわからないというのは宇佐美と似ていた。
攻撃力を生かすために守備負担が一番軽いCFに仮置きされた感じで、後のフランチェスコ・トッティと同じ事情だろう。本格的なCFが他にいれば、違うポジションになっていたかもしれない。
ニースケンスは運動量豊富なMF。クライフが前線中央から動いたら、すかさず前へ出てゴールを狙い、実際よくクライフのアシストで得点もしていた。スーパーなテクニシャンではないが、ジャンプ力があってヘディングが得意、飛び込んで点で合わせるシュートが上手かった。何より、前線へ出てもすぐに守備に戻れるタフさがあった。クライフは確かにスーパースターだったが、独特のフリーロールが成立していた背景にはニースケンスとの関係性も大きかったと思う。
現在のバルセロナでは、リオネル・メッシが引いたときに前線に飛び出すのはアルトゥール・ビダルになっている。事情はクライフ&ニースケンスと同じ。宇佐美&井手口もこの系列なので、やや意外な感じはするが実はけっこうロジカルな関係性といえる。
(文:西部謙司)
【了】