ファンのいないデルビー
かつてジェノアでプレーした三浦知良は、最近横浜FC公式YouTubeチャンネルにアップロードされた動画の中で、ジェノバ・ダービーについてこう語っていた。
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「サンプドリアとジェノアのダービー戦が、例えば月末にあるとしたら、その2、3週間前からその話題ばかりだし、街はお祭り。その時の順位はあんまり関係ないんだよね。お互い何位にいるとか。その1試合だけ、サンプドリア対ジェノアの1試合だけを楽しみに過ごしているというかね」
現地22日にセリエA第35節で、そのジェノバ・ダービーが行われた。だが、これまでとは様子が違う。やはりスタジアムに観客がいないことで、画面越しでもイタリア屈指の「デルビー」の熱狂は少々薄まってしまったように感じた。
サンプドリアを率いるクラウディオ・ラニエリ監督は試合後「デルビーに観客がいないというのは、考えうる限りで最も醜いことだ。全くファンのいない、通常の試合になる。残念だがこの状況をしばらく続けなければならない」と語った。確かに会場内にお祭り的な雰囲気は一切なかった。
結果は2-1でジェノアの勝利となった。本来であればスタジアムを埋めていたはずの、サンプドリアのファン・サポーターがいれば、スコアに違った影響が出ていたかもしれない。ラニエリ監督も「我々のファンがそこにいれば、もっと何かを引き出せたかもしれない」と悔やむ。
無観客試合になったことで、これまでのジェノバ・ダービーよりも、お互いの順位表の上での立ち位置がピッチ上に反映されたとも言えよう。前節パルマに逆転勝ちを収めて来季のセリエA残留を決めていたサンプドリアに対し、ジェノアは降格圏スレスレを彷徨い続け、まだ気の抜けない戦いが続く。
なんとか勝ち点3を積み上げて希望をつなぎたい。そのためにダービーマッチは格好のエネルギーになる。ラニエリ監督も「ジェノアにはそれだけのモチベーションがあり、2つのゴールを奪うことができた」と称える。そして「彼らは勝利に値した」と、素直に負けを認めた。
シュートは無情にも吉田の股を…
リーグ戦中断明けから3連敗と苦しんだサンプドリアだったが、最近は3連勝するなど復調してセリエA残留を勝ち取っていた。とりわけ冬の新戦力、吉田麻也がディフェンスラインの中央で先発に定着してから6試合で5勝1敗。負けたのもセリエA最強の攻撃力を誇るアタランタとの一戦だけで、日本代表センターバックの存在はチームに大きなアドバンテージをもたらしていた。
ダービーマッチでもチャンスをより多く作ったのはサンプドリアだった。だが、先制したのはジェノアだ。22分、キャプテンのドメニコ・クリーシトがPKを難なく沈めて均衡を破った。
直前の場面で、サンプドリアのディフェンスラインは不安定な守りを見せてしまう。ジェノアの左サイドMF、フィリップ・ヤギエロが斜めに走って吉田の背後に飛び出すと、右サイドから中央に進出していたイアゴ・ファルケがディフェンスラインの背後に浮き球のパスを送る。
これはカバーに入っていたサンプドリアの右サイドバック、バルトシュ・ベレシュインスキがカット。しかし、大きくクリアはできず、吉田の相方であるオマール・コリーがこぼれ球に反応したゴラン・パンデフの足を背後から蹴ってしまった。主審は迷わず笛を吹き、PKスポットを指した。
サンプドリアは32分に中盤の要であるスウェーデン代表MFアルビン・エクダルが足首を痛めてしまい、ロナウド・ヴィエイラとの交代を余儀なくされる。それでも、再開した直後のプレーでイタリア代表FWマノロ・ガッビアディーニが技ありシュートを決めて追いついた。
後半になると前半以上にサンプドリアがボールを持って攻める時間も出てきたが、ジェノアの気合の入った守りをなかなか崩し切れない。ファビオ・クアリアレッラの代わりに先発出場のチャンスをもらったフェデリコ・ボナッツォーリも決定機を逃し、時間が経過していった。
すると72分にサンプドリアは自陣でのミスから失点してしまう。右サイドのゴールライン際でヤギエロと競り合い、ボールを奪ったベレシュインスキは、なぜか大きくクリアせずキープしようとする。
そこに粘ったヤギエロが再び体を入れてボールを奪い返し、味方につなぐと、ルーカス・レラガーが右足を振り抜いて、低く抑えの効いたミドルシュートがゴール左下隅に突き刺さった。カバーに入っていた吉田も懸命にレラガーの前で体を投げ出してブロックを試みたが、シュートは無情にも股の下を通り抜けていった。
次節からはユベントス、ミランと連戦
味方の不用意なミスによって守備陣形を立て直す時間もなく、吉田やコリーといった他のディフェンス陣を責めることはできない。嫌な時間帯に、あってはならない形での失点だった。
ジェノアの気迫溢れるパフォーマンスに押し負けたと言えるのではないだろうか。まもなく37歳になるパンデフは元気いっぱいに前線をかきまわし、左サイドでエネルギッシュなプレーを披露したヤギエロ、中盤を引き締めたレラガー、ガストン・ラミレスの放った難しいシュートをはじき出したGKマッティア・ペリンも存在感抜群だった。
また、ダビデ・ビラスキ、クリスティアン・ロメロ、アンドレア・マジエッロ、そしてクリーシトが並んだディフェンスラインも集中しており、サンプドリアの攻撃を懸命にしのいだ。残留争い直接対決だった前節レッチェ戦に続き、連勝を果たせたのも彼らの奮闘あってこそだ。
一方、吉田のパフォーマンスも称賛されてしかるべきだ。個人のミスはほとんどなく、ビルドアップのパスも安定していた。失点場面は彼が防げたものではなく、責任を問うことはできない。むしろ相方のコリーの不安定さをよくカバーしていたとも言える。
サウサンプトンに別れを告げた日本代表DFは、ここ最近の試合でコリーとコンビを組むことが多い。2人の補完性と連係面は課題として挙げられることも多く、連勝している間も時折バランスを欠く場面が見られていた。ただ、試合を重ねるごとにディフェンスラインの連動性は上がってきているのは間違いない。
吉田もセリエAで十分に主力として戦える実力と経験値を発揮している。最近のチームとしての安定感や好調には、彼がディフェンスラインに定着したことも大きく影響している。冬の新戦力として求められる貢献は、しっかりと果たしている。
セリエAの2019/20シーズンは残り3試合となった。サンプドリアは次節からユベントス戦、ミラン戦と強豪との対戦が続く。前節までに残留を決めておけて胸をなでおろしていることだろう。
ここからの2試合は、チームとしてのみならず、吉田個人としても真価が問われることになる。まだ来季もサンプドリアでプレーするかどうかは決まっておらず、より高いレベルでの将来を模索するうえでもユベントス戦とミラン戦が控える1週間は極めて重要なものになるだろう。
(文:舩木渉)
【了】