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セリエA 4年前

冨安健洋にとってアタランタが“最悪な相手”だった理由。痛すぎた好プレー披露の代償

セリエA第35節、アタランタ対ボローニャが現地時間21日に行われ、1-0でホームチームが勝利している。日本代表DFの冨安健洋はこの日も先発出場。タッチ数は両チームトップの70回を記録するなど、精力的にプレーしていた。しかし、過密日程の中、体が悲鳴をあげた。ボローニャは残り試合を冨安なしで戦わなければならないかもしれない。(文:神尾光臣【イタリア】)

text by 小澤祐作 photo by Getty Images

「これはサッカーではない」(ミハイロビッチ監督)

冨安健洋
【写真:Getty Images】

「冨安は足を痛めた。他の選手は大丈夫だが皆疲れている。全試合が3日ごとに強いられるのは簡単ではないよ。これはサッカーではない。もう早くシーズンが終わって欲しいと思う」

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 ボローニャのシニシャ・ミハイロビッチ監督は、アタランタ戦後の記者会見で「選手の具合はどうか」と尋ねた地元記者にこう答えた。先発出場した冨安健洋は、右足を痛めて交代した。

 71分。アタランタの放ったロングボールに対して、爆発的なスピードの持ち主として知られるコロンビア代表FWルイス・ムリエルが縦に走ってくる。冨安はダニーロと共にこれをカバーし、俊足を飛ばしてその前に出た。ムリエルにボールを触らせず、相手の攻撃を断ち切ることには成功する。だが、その後に右太腿の筋肉を触って座り込んだ。

 接触した様子はない。つまり筋肉系の問題だ。その後一旦は立ち上がるも、やはり違和感が拭えずピッチの外に出る。そのまますぐに、イブラヒマ・エムバイェが交代で投入された。

 試合後、ボローニャの公式HPでは「右太腿に痛みを訴えた。彼のコンディションについては後日診断される」としている。単に痛みが走ったということなのか、それとも肉離れなど数試合の欠場を要する類の故障かということはその際に分かるが、いずれにせよ負担が掛かった上の筋肉系のトラブルの存在は明白である。

アタランタは最悪の相手

 リーグ再開後、冨安は全ての試合に先発していた。ボローニャの中ではGKウカシュ・スコルプスキを除けば彼だけだ。これはミハイロビッチ監督からの信頼の高さを物語るものだが、その流れの中でアタランタはある意味最悪な対戦相手となってしまった。

 ご存知の通り、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)でも8強に進出した好調のチーム。ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督のもとで技術面、戦術面の的確な指導が行われ、各選手共にフィジカルコンディションが卓越している。コロナウイルス禍のロックダウンを経ても調整はうまく行き、リーグ再開後は負けなしで一気に順位も上昇させてきた。

 8月から行われるCL準々決勝を見据える彼らは、早くCL出場権を獲得して残りの試合を調整に当てたいところ。そしてボローニャ戦でも、全力で当たってきた。相手には常にプレッシャーがかかる。ボールを持てばもちろん、ボールのないところでマンマークで付いてきて、ボールを奪われれば速い攻撃で背後のスペースを攻略される。

 そこに相対するにはスピードと、当たりに耐えるフィジカル、そして技術の正確さが必要だ。冨安は試合序盤から、右サイドでハードワークに応じていた。

 後方でボールを持ち、相手がプレスをかけてくる中、急激なフェイントを織り交ぜてチェックをずらし、縦に横にとパスを入れていく。時には高い位置から囲まれるが、単独のボールコントロールで切り抜ける。一方で守備になれば、対面のウイングはもとより煩雑にポジションを変えてくる攻撃陣全体にも対応しなければならない。外に開き、中に寄り、体を張って攻撃を凌いだ。

 29分、スコルプスキがシュートをこぼす。それの反応をみるや凄まじいスピードでダッシュし、背後から詰めてきたドゥバン・サパタの前に立ちはだかり、シュートを打たせずボールをGKに取らせた。

 ただこれらのプレーをするにも、常に屈強な相手のプレッシャーにさらされる。小兵のテクニシャンであるアレハンドロ・ゴメスを除けば、アタランタの選手は皆フィジカルが強い。とりわけサパタは中央に張らずサイドにも流れ、体を使ってボールをキープしてくる。冨安もボールを奪おうとするがチャージを体で吸収され、抜かれそうになった挙句にファウルを余儀なくされる。イエローカードを貰った。

 そんな中でペースを落としたらやられるし、冨安は落とさなかった。ボールを奪えば攻撃に参加し、自らドリブルをもってサイドを駆け上がった。対面であるアタランタの左サイドのロビン・ゴセンスは、今季9ゴール8アシストを記録している選手である。その彼が目立たなかったのは、冨安が高い位置をとって奮闘していることも大きかったと言える。

今季終了の恐れも

 そして後半に入り62分には、静止状態から流れを作り出しビッグチャンスを演出した。右サイドの高い位置でボールを持つが、パスコースは相手のプレスで閉じられている。するとすぐ前にいたマティアス・スバンベリにパスを出すと、前線にダッシュを掛ける。これをみたロベルト・ソリアーノがスバンベリからパスを受けると、躊躇なく縦パスを出した。

 組織守備を打開するべく、自らが“3人目”のパスの受け手となる。そして右サイドの裏のスペースを突き、フリーでエリアの中にはって右足で折り返す。これがムサ・バロウに渡るが、彼のシュートは上へと浮いた。

もっともその直後に、アタランタは速攻からゴールを奪う。奪ったのは、後半から投入されていたムリエル。爆発的なスピードを持つこの男は、体力が奪われたところには最悪の相手だ。そして71分、彼のカバーに回った冨安は足を負傷した。

 前節のミラン戦でゴールを挙げた冨安だったが、全体的には相手の攻撃に振り回された印象も否めなかった。しかしアタランタ戦では集中したプレーで守備に破綻を来さず、攻撃でも存在感を大いに発揮した。終わってみれば、90分間プレーできなかったにもかかわらずボールタッチは両チームトップの70。それだけ精力的に立ち回っていたことがわかる。

 問題は、そのような全力プレーを中3日で強いられていたということである。試合に出る以上選手は全力を尽くすし、監督だって勝ちに行くための采配や選手起用をする。ただ事情が許さない。疲労の抜けないまま、中3日でテンションのかかる試合を1ヶ月以上戦い抜かなければならない。冨安は音を上げずに頑張っていたが、体が悲鳴をあげたということである。

 繰り返すが、現時点では冨安の故障の具合は判明していない。ただ全治が1週間程度のものであったとしても、日程が接近しているこの状況ではこれで今季終了ということになる恐れもある。コリエレ・デッロ・スポルトは「2週間程度のストップが懸念されている」と報じた。推移が注目される。

(文:神尾光臣【イタリア】)

【了】

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