マンCは「100得点」へまっしぐら
リーグ優勝は逃しても、マンチェスター・シティは立ち止まらない。容赦なく目の前の相手をなぎ倒していく。
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今季3度目の監督交代に踏み切ったばかりのワトフォードも例外なく粉砕された。現地21日に行われたプレミアリーグ第37節で、シティは残留争いの渦中にいるワトフォードを終始圧倒して4-0の大勝を収めている。
リーグ戦の通算得点は「97」まで伸び、最終節のノリッジ戦で「100」の大台に届きそうな勢いだ。シティの選手たちはほとんど機能しなかった相手の守備ブロックをやすやすと攻略し、躍動した。
31分にラヒーム・スターリングがカイル・ウォーカーからのクロスを先制点に変えると、40分には再びスターリングが加点。63分にフィル・フォーデン、さらに直後の66分にはアイメリック・ラポルトのゴールも生まれて勝負あり。
ボール支配率はワトフォードの24%に対してシティは76%、シュート数でもシティが21対4と圧倒した。
これだけ実力でもスコアでも大差がついたこともあって、試合中は逆にピッチで最も目立たない選手に注目して見ていた。それはシティの右センターバックを務めたエリック・ガルシアである。
ワトフォード戦で今季12試合目のプレミアリーグ出場を果たした19歳のチーム内での序列は、ニコラス・オタメンディやジョン・ストーンズよりも高いかもしれない。リーグ再開初戦のアーセナル戦で味方のGKエデルソンと衝突して頭部を強打したものの、大事には至らず、すぐに復活。最近はラポルトとのコンビでペップ・グアルディオラ監督の信頼をがっちりとつかんでいる。
頭部負傷からの復帰戦になった今月2日のリバプール戦では、先発フル出場で4-0の快勝に大きく貢献。グアルディオラ監督も、「彼は全くミスをしないし、常に集中している。ラインコントロールにも長け、自分が何をしなければいけないのかよく理解している。彼の判断は常に正しいんだ」と、モハメド・サラーやサディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノと互角に渡り合ったのパフォーマンスを絶賛した。
正確ゆえに悪目立ちしないプレースタイル
エリック・ガルシアの持ち味は、まさに指揮官が言う通り「ミスの少なさ」「判断の早さと正確さ」にある。身長182cmとセンターバックとしては小柄で線も細く、足もそこまで速くはない。だが、ベテランのような落ち着きで的確な読みと状況判断を発揮し、正確なショートパスでボールを確実に前進させる。
ワトフォード戦でも地味ながら堅実にプレーし、フル出場で左右両方のセンターバックを務めた。90分間でタッチ数は「90回」、パス成功数は「69本」、パス成功率は「86.3%」を記録している。相手の巨漢FWトロイ・ディーニーに空中戦の標的として狙われたが、苦しんだのはそれくらいだ。センターバックにとって、ミスが少なく試合中に目立たないことは、むしろポジティブに捉えられるかもしれない。
シティのようなボール支配率を高めて攻めることが持ち味でもあるチームにおいて、最後方からビルドアップに関わるセンターバックが淀みなくパスワークに参加できているのは非常に重要だ。その意味で、左利きのラポルトと右利きのエリック・ガルシアは理想的な補完関係を形成していると言える。
今のところ成長は順調だ。エリック・ガルシアのプレーを初めて見たのは2013年、彼が12歳の時だ。アンス・ファティや同期の久保建英とともにバルセロナの下部組織の一員として来日し、「U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2013」という大会に参加した。
その開幕戦だった東京ヴェルディジュニアとの試合を会場で観戦していて、久保とともに記憶に残っていた選手の1人がエリック・ガルシアだった。その時の「3番」が彼だったことを知ったのは最近だが、周りの選手たちよりも頭1つ体が大きく、的確なコーチングでディフェンスラインを統率し、高精度のパスで大人顔負けのビルドアップを見せていたのがとても印象的だった。そして、終わってみればDFながら大会MVPを受賞していた。
マンC残留? バルサ復帰? 将来は…
もしかしたら身長は成長過程であまり伸びなかったのかもしれない。それでも、プレースタイルはより洗練されていき、オンリーワンのセンターバックへと飛躍を遂げようとしている。ボールを持ったまま顔を上げて、前に運んでいく時のピシッと背筋が伸びた姿勢は12歳の頃と全く変わっていない。
バルサの下部組織の各年代でキャプテンを務めていながら、16歳で代理人のカルレス・プジョルの助言も受けてグアルディオラ監督のいるシティへ新天地を求めたことも、結果的には正解だったのかもしれない。
2017年にはU-17ワールドカップでスペインの準優勝メンバーになった。しかし、決勝で16歳のエリック・ガルシアに出番が訪れることはなく、ベンチからイングランドの優勝を見届けることになった。
あれから3年が経ち、当時のU-17イングランド代表の主力で優勝タイトルと大会MVPを獲得したフィル・フォーデンとともに、シティの将来を担っていく逸材として高く評価されるようになった。
グアルディオラ監督も「(シティの)アカデミーから出てきたフィルとエリックのことを誇りに思っている。我々は疑いなく彼らを頼りにできる。メンタリティや、どのようにトレーニングすべきで、聞く耳を持ち、どうやって改善しながらより良い選手になりたいのかということを、正確に理解しているのが、彼らの他との違いだ」と称賛を惜しまない。
そんなシティが向こう10年の主力として期待を寄せるエリック・ガルシアには、最近になって古巣バルサ復帰の噂が流れ始めた。シティとの契約は2021年6月までとされ、この夏に獲得するとなれば相当な額の移籍金が必要になるだろう。
だが、バルサもセンターバックの人材難にあえいでおり、33歳になったジェラール・ピケの後継者も見つけなければならない。そのピケも、若い頃にマンチェスター・ユナイテッドに引き抜かれ、イングランドで評価を高めて“逆輸入”の形でバルサに戻ってきた選手である。
エリック・ガルシアの場合は自ら望んでシティへ移籍したが、ペップの下でバルサに「欲しい」と思わせる選手に成長を遂げた。ピケのようなビルドアップスキルと、自らと同様に小柄なプジョルやハビエル・マスチェラーノと似た統率力を備えるハイブリッドな現代的センターバックだ。この3人への憧れは、エリック自身が以前から度々口にしていたことでもある。もし偉大な先輩のプレーを隣で見せながら後継者を育成したいなら、残された時間は少ない。
将来について決断を下さなければならない時は近い。エリック・ガルシアは契約延長にサインしてシティの将来を担う存在になるか、あるいは故郷への帰還を選び、バルサでピケの後継者となるか。トップレベルへの階段を着実にのぼる、久保世代を象徴する逸材の今後が楽しみだ。
(文:舩木渉)
【了】