ジダン監督が勝って叫んだ
いよいよレアル・マドリードがラ・リーガ制覇に王手をかけた。
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2位バルセロナとの勝ち点差は4ポイントとなっており、次節ビジャレアル戦に勝利すれば、自力でリーグ優勝を決められる。
中断明けから破竹の9連勝。おおよそ72時間ごとに試合が組まれる超過密日程の中、1ポイントも落とさず勝ち続けてきたマドリーには、すでに王者の風格が漂っている。間違いなく今のラ・リーガで最も強力なチームだ。
ジネディーヌ・ジダン監督は、試合終了とともに珍しく雄叫びをあげた。現地13日に行われたラ・リーガ第36節のグラナダ戦に2-1で勝利した後のことだ。
「私は幸せだったし、苦しんだ試合の後だったので叫んだ。非常に重要な3ポイントだったので、叫んでしまうのは普通のことだ。私は選手たちが印象深い試合をしたと思う」
この記者会見での発言は、間違いなく本音だろう。アウェイに乗り込んだマドリーは、好調のグラナダに大いに苦しめられた。特に後半はディエゴ・マルティネス監督率いる昇格組のアグレッシブさにかなり手を焼いた。
前半のマドリーはマドリーらしく圧倒的だった。10分に左サイドバックのフェルラン・メンディがペナルティエリア内で単独突破を仕掛けて先制弾を叩き込んだ。ほとんど角度のないところからゴールの自分に近いサイドの上隅を撃ち抜く、まごうことなきスーパーゴールだった。
さらに16分、ルカ・モドリッチからのパスを受けたカリム・ベンゼマが左から仕掛けてフィニッシュへ持ち込む。右足を振り抜いたシャープなシュートで今季19得点目を挙げ、マドリーのリードを2点に広げた。
前半のボール支配率はマドリーが72%だったのに対し、グラナダは28%。決定機の数でもマドリーが大きく上回り、このまま後半も試合の主導権を握り続ける…つまりあっさり勝ってしまうのではないかと思われた。
そこでグラナダの青年指揮官が動いた。後半開始からビクトル・ディアスを下げて、アントニオ・プエルタスを投入。ディフェンスラインを1人削って、5-4-1から4-4-2に近いシステムに変更して前に出てきた。ある意味で「賭け」のような采配だが、この決断はいきなり奏功する。
グラナダ強し。後半はマドリーを圧倒
50分、中盤でもたついたカゼミーロに対して果敢にプレスをかけ、セントラルMFのヤンヘル・エレーラとセンターFWのカルロス・フェルナンデスが挟むような形でボールを奪うと、グラナダは一気にカウンターを発動する。
5人が同時にマドリーのゴール方向へと全力で駆け出し、最終的にはエレーラからのスルーパスを受けたダルウィン・マチスがGKティボー・クルトワの守るゴールを破った。マドリーにとっては6試合ぶりの失点、クルトワの連続無失点記録も506分で途切れることとなった。
やはりグラナダはただの昇格組ではない。それは10位という順位からもよくわかる。ディエゴ・マルティネス監督の哲学がチームに浸透しており、複数のシステムを使い分けながら、ラ・リーガの台風の目になった。
今季は前半戦でバルサにも勝利し、一時首位に立ったこともある。中断明けも前節終了時点で3勝3分2敗、レアル・ソシエダやヘタフェといった上位陣に競り勝ち、バレンシアとも引き分けるなど好調を維持していた。
もちろん試合中のシステム変更などお手の物。4-4-2になってからは2トップを起点に前線から激しくプレッシャーをかけ、相手のミスを誘発していく。とりわけセルヒオ・ラモスよりもディフェンスラインからのビルドアップ能力に劣るラファエル・ヴァランに狙いを定め、ずれたパスを引っ掛けてボールを奪い、中盤アンカーのカゼミーロの脇にできるスペースを活用しながらシュートチャンスを数多く作り出した。
前半のようにボールを握らせず、マドリーから主導権を奪う。後半のボール支配率は50:50と互角になり、試合の流れは完全にグラナダへと傾いていた。そしてシュート数でも後半はマドリーがわずか3本に終わったのに対し、グラナダは10本。もちろん枠内シュート数でも首位クラブを上回った。
「後半、我々のチームは素晴らしく、同点ゴールを奪うに値したと思う。私の魂を持っていた選手たちに感謝したい。マドリーのような非常に優れた相手に苦戦することはわかっていた。彼らが得た最初のチャンスで0-1にされ、全てが逆境になった。後半こそが我々のフットボールのレベルを表している。勝利できる可能性もあった、このチームの信念と誇りこそ、所属している誰もが自分たちの行動を信じていることの証左だ」
次節にもマドリーが3季ぶりのリーグ制覇
グラナダを率いるディエゴ・マルティネス監督は、優勝に王手をかける強豪マドリー相手に大健闘を披露した選手たちを称賛した。一方で「マドリーにおめでとうを言いたい」「彼らは世界で最も優れたチームの1つだ」と、相手の強さを潔く認め、ジダン監督に率いられた“白い巨人”を祝福してもいた。
危険なチャンスを何度も作られながらも勝ちきったことで、マドリーは改めて自分たちの強さを証明したと言えるかもしれない。前半の攻守にソツがない洗練された組織としての力強さ、そして主導権を握れなかった後半も失点を最小限に抑えて耐えられた粘り強さ。中途半端なチームであれば、相手の勢いに呑まれて逆転負けを喫していてもおかしくなかった。
試合後に中継局『モビスター+』のインタビューマイクの前に立ったセルヒオ・ラモスは、後半の「負け」を認めてこう語った。
「僕たちは2-0になった時、無意識にガードを下ろしてしまう(注:ボクサーが両腕を下げてしまうイメージ)ミスを犯したと思う。3-0を目指してゲームを締めるのではなく、リラックスしてしまった。誰もが僕たちを倒すことができるわけで、こういうことが起こらないよう強さを維持しなければならない。前半は勝ち、後半は負けてしまった」
だが、ジダン監督も叫ぶような苦しみぬいた末の勝利は、さらにマドリーを強くするかもしれない。指揮官は「2試合が残っており、まだ勝ったわけではない。これが現実だ。(現状には)非常に満足しているが、6ポイントが欠けている」と、獲得できる勝ち点を全て手にした上での優勝に並々ならぬ意欲を燃やす。
キャプテンのセルヒオ・ラモスも「このリーグで優勝したいというチームの望みが叶う時は見えてきているが、まだ何も勝ち取ってはいない。全ては自分たちしだいで、手にしたいポイントはまだ残っている。中断明けからの目標は、全ての試合に勝つことであって、これからも挑戦していく」と気を引き締めた。
確かにもしここで崩れて2連敗するようなことがあれば、バルサにリーグタイトルを奪われてしまうかもしれない。頂点に指先をかけてはいても、手中に収めていないという事実を肝に命じて、組織としての一体感を保っていかなければならない。全てが確定する瞬間まで、気の抜けない戦いが続く。
「リーグタイトルは日々の仕事の一貫性と規則性の勝利だ。中断期間は、全ての試合に勝つという目標を設定するのに役立った。僕たちはうまくいけば木曜日(16日)に、優勝を神の啓示として祝うことができる」
34歳になっても圧巻のパフォーマンスでマドリーを牽引し続けるセルヒオ・ラモスは、次の試合でリーグ優勝を果たすべく決意を新たにした。16日のビジャレアル戦で3シーズンぶりの戴冠を達成することができるだろうか。その時は、もう目の前だ。
(文:舩木渉)
【了】