ミランが粘ってギリギリのドロー
セリエA再開後のミランが絶好調だ。ローマ、ラツィオといった難敵にそれぞれ完封勝利を収めており、前節は首位ユベントスから4-2で勝ち星を奪った。これでリーグ戦は5試合無敗。その勢いは誰の目にも明らかである。
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ただ、現地時間12日に対戦したジェンナーロ・ガットゥーゾ監督率いるナポリはかなりの厄介者だった。敵地に乗り込んだミランは奮闘こそしたものの、ほぼ「負け試合」を演じてしまったのである。
4-2-3-1のフォーメーションで挑んだミランは、立ち上がりからナポリに押し込まれたが、20分にDFテオ・エルナンデスがワンチャンスをモノにして先制点を奪取。苦しいながらも点を奪うことができる、チームの好調ぶりが早い時間から発揮されていた。
しかし、その後は今季のコッパ・イタリア覇者に猛攻を喰らう。ミランはGKジャンルイジ・ドンナルンマのファインセーブもあって何とか得点を許さずにはいたが、完璧に崩されたシーンも多く、ギリギリでの対応を強いられたのだ。
そして34分、FWロレンツォ・インシーニェのフリーキックをドンナルンマが弾くと、これに詰めたのはDFジオバニ・ディ・ロレンツォ。ミランは前半のうちに同点に追い付かれてしまった。
後半もペースはナポリに傾いており、ミランは守備に追われる時間が続く。すると60分、左サイドを崩されると、最後はFWドリース・メルテンスに得点を許し、ナポリが逆転。ミランはこの時間帯、ほとんどチャンスを作れていなかったので、2点を失った時点で敗北を覚悟した人も多かったのではないだろうか。
それでも、アウェイチームは73分に得たPKをMFフランク・ケシエが決めたことで何とか同点に。終盤に退場者を出しながらも2-2で試合を終えることに成功した。ただ、試合後のデータを見るとミランはシュート数わずか5本、対して被シュート数は16本となっているなど、まさにギリギリでの勝ち点1獲得だった。先述した通りほぼ負け試合だったので、このドローはミランにとって勝利と同じくらいの価値があると見てもいいだろう。
巧みだったナポリのディフェンス
ミランが苦戦を強いられた理由として挙げられるのは、やはり攻撃の迫力不足だろうか。2点を奪ったものの、90分間でシュート数5本は明らかに少ない数字である。
ただ、ナポリの守備は非常に巧みだった。1トップのメルテンスを最前線に残し、ウイングのFWホセ・マリア・カジェホンやインシーニェもしっかりとプレスバックするチーム全体としてのディフェンス意識は、ガットゥーゾ監督就任後から着実に向上しており、このミラン戦でも存分に発揮されていたのだ。
ナポリはミランのボールホルダーに対し、必ず1枚が寄せている。ただボールに果敢にアタックするのではなく、距離を取りながらコースを塞いだのだ。こうすることでミランはビルドアップに苦戦。必然的に横パスが増え、出せても斜めのパスが精一杯となり、攻撃はなかなか加速しなかった。
ナポリは自陣に侵入されても最終ラインと中盤の距離を常にコンパクトに保つことにより、ミランの選手を広げた。アウェイチームがサイドに逃げれば、サイドバックとウイングで確実にサンド。ミランはそもそも軽率なミスも多く、随所で持ち味を潰された。
また、ミラン攻撃陣の中心人物であるFWズラタン・イブラヒモビッチも、この日はまったくと言っていいほど仕事を与えてもらえなかった。
先述した通りビルドアップに苦戦したミランは、前線のイブラヒモビッチが孤立。すると我慢できない背番号21は中盤底の位置まで下り、組み立てに参加するなど強引にボールへ絡みに行った。しかし、ナポリにとってこれは好都合。イブラヒモビッチというターゲットマンをゴールから遠ざけているので、怖さはまったくなかった。
さらにイブラヒモビッチはサイドに流れるなどの動きも見せた。とくに狙ったのは相手の左サイドバックであるDFマリオ・ルイ。身長170cmと小柄な彼と対峙することで確実にボールを収め、そこから攻撃の起点を作り出そうとしたのだ。
実際、DFシモン・ケアーなどからそこへロングフィードが通ることもあった。しかし、ナポリの対応は巧みで、あえてイブラヒモビッチとは競り合わず、サポートに回ってくる味方選手を第一にカバーしたのだ。そこへボールを通さなければ、ミランの攻撃は加速しない。事実、イブラヒモビッチはボールを収めるには収めたが、リターンパスが入ることはあまり多くなかった。
イブラヒモビッチはこの日シュート数わずか1本という結果に。61分にMFジャコモ・ボナヴェントゥーラとの交代を余儀なくされるなど、不完全燃焼となった。
ミランが狙われたエリア
ミランは守備面でもナポリに手を焼いている。ガットゥーゾ監督率いるチームは徹底的にアウェイチームの“あるエリア”を使ってきたのだ。それが、ミランのダブルボランチの脇である。
この日、ステファノ・ピオーリ監督に中盤底に起用されたのはMFイスマエル・ベナセルとケシエ。彼らは豊富な運動量を活かして広範囲をカバーできる選手であり、ハードなディフェンスで相手を無力化することを可能としている。
ただ、そのプレースタイルこそがナポリの餌食となった。18分の場面を例に挙げてみよう。
ベナセルとケシエは人の動きに対してよくついていく。とくに後者は、対峙したMFファビアン・ルイスへの警戒を怠らなかった。18分のシーンでは、そのケシエは低い位置に下がったF・ルイスにしっかりと付いていき、ビルドアップを阻止した。しかし、そのケシエが空けたスペースに斜めのランニングを見せて侵入したのはMFピオトル・ジエリンスキ。そこでDF二コラ・マクシモビッチの縦パスを引き出した。
ジエリンスキの動きに対して、今度はベナセルがカバー。この判断の早さは流石だった。しかし、今度はベナセルのいたエリアが空く。そこをナポリは見逃さず、ジエリンスキは一度サイドへボールを流すと、ボールを受けたカジェホンは内側にリターン。そこからテンポの良いパス回しを見せたナポリは、結果的にもともとベナセルのいた位置に下がってきたメルテンスにボールを届けることに成功している。そこからナポリの攻撃は加速。右サイドのMFルーカス・パケタは内側に絞ってきたが、守備対応に難のある彼はベルギー人FWの動きについていけず、ミランは決定的な場面を作られたのだ。
この18分のシーンが最もわかりやすかったため例に出したが、その他の場面でもナポリは何度もミランのダブルボランチの脇を突いている。ウイングが下がってサイドバックを引き連れ、それを見たケシエがサイドバックのカバーに入ると、今度はインサイドハーフの選手がケシエの空けたスペースにトップスピードで入ってくる。このようなシーンもあった。
カジェホンとインシーニェの両ウイングがやや内側でのプレーを意識していたのも明らかで、データサイト『Who Scored』による各選手の平均ポジションを見ても、両選手はほとんどインサイドハーフに近いエリアでプレーしていることがわかる。迂闊にセンターバックを出すわけにもいかないミランは、このエリアをなかなか封じられなかったのが痛かったと言えるだろう。
ナポリの巧みな対策と、それに屈せず勝ち点1を持ち帰ったミランの好調ぶりが表れたこの試合。非常に濃い内容の90分間だったと言える。
(文:小澤祐作)
【了】