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今更3バック!? 試行錯誤続くバルセロナ。メッシより滅私、真のキープレーヤーは…

現地11日にラ・リーガ第36節が行われ、バルセロナはバジャドリーに1-0で勝利した。勝ち点3は積み上げたものの、突如3バックを採用した試合の内容は散々で、文字通りの辛勝だった。フル稼働が続いている選手たちの疲労も目立つ。残り2試合でリーグ優勝が厳しくなってきた中、バルサはどこに向かおうとしているのだろうか。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

低予算バジャドリーに大苦戦

リオネル・メッシ
【写真:Getty Images】

 勝ち点を1ポイントでも落とそうものなら、今季のラ・リーガは終戦。

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 そんな背水の陣で現地11日に行われたラ・リーガ第36節のバジャドリー戦に挑んだバルセロナだったが、もはや目の前のリーグ戦よりも先のチャンピオンズリーグ(CL)を見据えているかのような戦いぶりだった。

 ベストな組み合わせを探し当てるための試行錯誤が続いているのだろうか。キケ・セティエン監督は、バジャドリー相手にまさかの3-5-2を採用。3バックの右ストッパーにセルジ・ロベルトを起用し、ルイス・スアレスをベンチに座らせる決断を下した。

 バルサの3バックはおよそ半年ぶりだと記憶している。キケ・セティエン監督就任当初にも同じくセルジ・ロベルトを3バックに組み込む布陣を採用していた。初陣となった現地1月19日のラ・リーガ第20節、1-0の勝利を収めたグラナダ戦ではボール支配率82%、パス数1002本、パス成功率92%(919本)を記録し、“ティキ・タカ”の再来かと期待を抱かせた。

 ただ、3バックはそれから数試合でやめてしまっていた。以降は4-3-3をベースに戦い、最近になってリオネル・メッシにフリーマン的役割を与える4-3-1-2なども試していた。アントワーヌ・グリーズマンをチームにフィットさせることを目的とした布陣変更と見られていたが、3バックまで使い始めるとは…。ここ最近取りこぼしが多く、中断明けから継続性に欠けるのも納得がいく。

 そして、今回の3バック採用も失敗に終わったと見ていいだろう。試合前日の記者会見で「バルサを倒すことができると確信している。チームは力強く、強固で、限界はない」と豪語していたセルヒオ・ゴンサレス監督率いるバジャドリーに大苦戦を強いられた。

 前半の15分、右サイドに人数をかけて一度奪われてもバルサらしい即時奪回からアルトゥーロ・ビダルの今季8得点目につながった流れは見事だった。DFの隙間を抜く絶妙な浮き球パスでゴールをお膳立てしたメッシも、ラ・リーガ史上初の20得点20アシスト達成という偉業を成し遂げた。

圧倒された後半。指揮官たちは…

 しかし、ゴールはこの1つだけ。特に後半はバジャドリーに押し込まれる時間帯も長くなり、チャンスの数でも圧倒された。前半こそ74:26とボール支配率でバルサが大きく上回っていたものの、後半は56:44とほぼ互角に。メッシの年俸よりも年間予算の少ないバジャドリーに底力を見せつけられた。もし相手に優れたストライカーと、ラストパスの出せる選手がいれば結果は違ったものになっていたかもしれない。

 後半のバルサは見た目みもバタバタしているのは明らかだった。46分からグリーズマンを下げて、スアレスを投入。そして57分にロナルド・アラウホとイヴァン・ラキティッチを入れ、システムを3-5-2から4-3-3へと変更した。

 それでも状況は変わらず、74分にセルヒオ・ブスケッツを交代させてジュニオル・フィルポを入れたタイミングで、再び3バックに戻した。ピッチ内の選手たちも困惑した様子で、攻めに出て追加点を狙うのか、1点を守りきるのかもハッキリしない。結局、何とかビダルのゴールを守り抜いて1-0で試合を締めた。

 試合後の記者会見においてキケ・セティエン監督が、チームや選手たちについて「疲れていた」と繰り返す様には、言い訳じみたものが感じられた。

「前の試合から72時間も経っていない状況でプレーしなければならなかった。非常に暑く、芝も乾いていて、フレッシュさを欠いた選手が何人もいた。我々は多くの試合をこなしてきていて、選手たちは消耗している。ずっと試合に出続けているんだ。フットボールの問題ではない。疲れていれば、選手たちの頭も働かない」

「メッシを休ませるべきだったか? 確かに。私から彼にも話したが、スコアが拮抗していた。前半にもっと多くのゴールを決めていれば、もっと多くの選手を休ませることができた」

 一方、バジャドリーのセルヒオ・ゴンサレス監督は真っ向から反論する。

「キケ(・セティエン)はいつも我々を過小評価しようとする。彼はベティスにいた時も同じことをした。私の答えはピッチの上にあった。危険な状況(決定的なチャンス)を生み出したチームがあったとしたら、それは我々だ。暑さやピッチ状態は誰にとっても同じ条件なのだから」

メッシよりも…“滅私”!?

セルジ・ロベルト
【写真:Getty Images】

 特に後半、バルサはバジャドリーに圧倒されて自陣に押し込まれた。シュート数ではバルサが9本だったのに対し、バジャドリーは13本。後半に限ればバルサのシュートはわずかに3本、バジャドリーは9本も放っていた。もしマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンの好セーブ連発がなければ、複数失点で逆転負けを喫していてもおかしくなかった。

「最初に用意していたシステム(4-3-2-1)はうまくいかず、私は選手の選択を間違えてしまっていた。美術館へアートを見にいく時のように、恥ずかしがっていた。しかし、(4-4-2へと移行した)後半はバルサを彼らの陣内に追いやり、ゴールを決めるチャンスがたくさんあった」

 そう語るセルヒオ・ゴンサレス監督は「選手たちの仕事ぶりには非常に満足している。我々は地べたに這いつくばって、バルサに戦術まで変えさせた。自分たちの立ち位置を再確認する必要はあるが、報われる時はいずれ来るだろう」と、チームのパフォーマンスを称賛する。今節終了時点で40失点の守備は堅く、2シーズン連続の1部残留もほぼ確実な状況になった。

 バジャドリー戦で改めて明らかになったのは、今のバルサの攻撃がメッシに依存しすぎているということだ。

 リーグ戦中断明けから全試合フル出場を続ける絶対的エースは、確かに1人で試合を決められる力を持っている。とはいえ、彼も人の子。いつまでも走り続けられるわけではないし、体が疲れればパフォーマンスのレベルも落ちる。33歳という年齢も考えれば、本来なら無理をさせるべきでないことも間違いない。

 前半も後半も、バルサの攻撃のテンポが上がるのはメッシが前向きにボールを持ってドリブル突破を仕掛けたり、鋭い縦パスを入れた時だった。3-5-2も4-3-1-2も機能しているように見えて、最終的にはメッシしだいになっている部分が大きい。

 さらにチームとしての機能性を確立するにあたっては、メッシよりも“滅私”のプレースタイルを持った選手が欠かせないことも、最近の試合で証明されてきている。セルジ・ロベルトやビダルなど、複数ポジションを柔軟にこなせるユーティリティが今にも崩れそうなバルサを懸命に下支えしているのだ。

 セルジ・ロベルトはバジャドリー戦で3バックの右ストッパーとして先発起用され、後半から左インサイドハーフに移った。最近では4-3-1-2の左インサイドハーフで先発し、途中で右サイドバックに回った試合もある。もちろん右サイドバックや中盤アンカーでスタメンに名を連ねることもあるし、時には右ウィングにも対応する。

セルジ・ロベルトとビダルの希少性

アルトゥーロ・ビダル
【写真:Getty Images】

 スアレスのような得点力も、ダニ・アウヴェスのような圧倒的な攻撃スキルも、アンドレス・イニエスタのような魔術師的テクニックも、メッシのような閃きも備えていないが、戦術的なインテリジェンスはここに挙げた誰よりも高い。

 どこで使われようが文句を言わずに受け入れ、異なる仕事場にも瞬時に適応し、チームの潤滑油となるパフォーマンスを常に安定して発揮してくれるセルジ・ロベルトの存在価値の大きさは、うまくいっていない時により強く実感できる。

 ビダルも他の中盤の選手に比べれば繊細さで劣り、全てワンタッチで細かくパスをつなぐようなサッカーには向いていない。だが、攻守にハードワークを怠らず、広範囲を動き回って球際のバトルに精を出せるMFは、今のバルサには彼しかいない。

 自慢のモヒカンが中断前よりちょっと太くなったチリ代表の重鎮は、時にゴール前まで顔を出して豪快にシュートを決め、空中戦でもチームに不足している高さと強さを補える。途中出場でも確実に機能し、ピッチ全体のバランスを保つには1人で二役も三役もこなせるビダルが欠かせない。こだわりやエゴを表に出さず、勝利をもぎ取るためのチームプレーに徹してきたからこそ、バイエルン・ミュンヘンでもユベントスでも重宝され数多のタイトルを手にしてきたのだろう。

 バルサはBチームが2部B(3部相当)から2部A(2部相当)への昇格プレーオフを来週に控えていることもあって、ベンチ入り23人の枠を埋めるのも難しい状況になっている。アレックス・コリャードやモンチュ、ホルヘ・クエンカら継続的にトップチームに招集されていた選手の多くがBチームのトレーニングに戻った。

 バジャドリー戦はアンス・ファティが出場停止で、フレンキー・デ・ヨングとアルトゥールがコンディション不良のため欠場となり、18人でアウェイの地へ乗り込むことに。グリーズマンも太ももに違和感があって前半のみで交代したと伝えられている。指揮官が語る通り、そろそろメッシにも休養が必要なことは明らかだ。

 まさに満身創痍。さらにリーグタイトル獲得も厳しくなってきている。ビダルは試合後のインタビューで「リーグ優勝はもう自分たちしだいではないけど、改善し、最大限の努力を続けていく。そうすれば、リーグ優勝できなくてもCLに最高の形で臨めるだろう」と語った。

 安定感のないシステム変更、意図のハッキリしない選手起用など、迷いにも見える試行錯誤はCLを意識したものなのかもしれない。選手たちの意識も、すでに来月リスボンで行われる欧州タイトルに向いているように感じる。

(文:舩木渉)

【了】

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