グリーズマンが躍動
“Sin palabras”
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英語に訳せば“No words”、日本語では「言葉がない」となるだろうか。アトレティコ・マドリーのディエゴ・シメオネ監督は、6月30日にバルセロナと引き分けた後、かつて指導したアントワーヌ・グリーズマンについてそう語った。
昨季までアトレティコの絶対的エースだったフランス代表FWは、新天地バルセロナで期待されたほどの結果を残せず、最近は出場機会が減少傾向にある。先月30日の古巣との対戦でも、出番が訪れたのは最終盤の90分から。当然、勝敗に何らかの影響を与える交代ではなかった。
シメオネ監督の言葉には、「他クラブの選手には言及しない」という意思のみならず、「びっくり」に近いニュアンスも込められていただろう。英語でも「言葉も出ないよ!」と驚きを表す場面でよく使われる表現なので、「あれほどの選手を使いこなせないなんて…」という意味にも捉えられる。
それを受けたバルセロナのキケ・セティエン監督は「とても正しいと思う」と答えた。おそらく彼は「他クラブの選手への言及」を避けたシメオネ監督の姿勢を「正しい」と述べたのだ。つまり、指揮官にとってグリーズマンの置かれた状況に「驚き」はなく、使いこなせていないことも認めざるをえないのだろう。
バルセロナは現地5日に、アウェイでビジャレアルと対戦した。開始前に首位レアル・マドリードがアスレティック・ビルバオ戦に勝利し、2位バルセロナとの勝ち点差は暫定ながら7ポイントに広がっていた。もし勝ち点を落とすようなことがあれば、優勝争いがほぼ決してしまう重要な試合だった。
渦中のグリーズマンは3試合ぶりの先発出場を果たすと、おそらく加入以降で最高の輝きを放った。
2-1でリードしていた前半終了間際の45分、ペナルティエリア手前でルイス・スアレスからの横パスを受けたグリーズマンは、ボールを止めてリオネル・メッシと入れ替わる。するとメッシはドリブルでペナルティエリア内へ侵入し、ヒールパスを繰り出した。
そして、背後で待っていたグリーズマンが芸術的なループシュートを放ち、GKセルヒオ・アセンホの頭上を抜いてゴールネットを揺らした。バルセロナの象徴である背番号10がドリブルを仕掛けた際、ビジャレアルのディフェンスが3人も引きつけられており、グリーズマンは完全フリーになっていた。
新布陣4-3-1-2の成果
スアレスやアルトゥーロ・ビダルもゴール前に入って相手ディフェンスの気を引いており、関わった全員がゴールまでのイメージを共有できていたはずだ。グリーズマンの今季9得点目は、「MSG(メッシ・スアレス・グリーズマン)」トリオが共存していける可能性を十二分に示した。
セティエン監督はビジャレアル戦に向けて、前線の3人の組み方を変えた。これまでメインだったウィングを置く4-3-3ではなく、メッシをトップ下に据える4-3-1-2を採用。スアレスとグリーズマンを2トップ的に配置し、MSGがゴール前で近い距離感を保てるような形になっていた。
ウィングがいないため、ピッチの幅を大きく使って相手の布陣を広げる役割は両サイドバックが担うことになる。そのため高い位置をとるネウソン・セメドやジョルディ・アルバの背後には広大なスペースがリスクとして存在した。
それでもビジャレアルが採用する4-4-2の急所とも言える「4-4」のライン間にできるスペースを攻略するにあたって、メッシ、スアレス、グリーズマンの3人が暴れまわることの利点が、リスクの大きさを上回ったのである。
MSGの3人は、メッシが前に行けばグリーズマンは後ろに下がり、メッシが後ろに回ればグリーズマンが前に出るといった自然なポジションチェンジを実行できていた。ただでさえ捕まえにくい選手たちが状況に応じて近い距離で動き回るとなると、ビジャレアルのディフェンス陣は厳しい対応を強いられる。
ビジャレアルは後半からブルーノ・ソリアーノとモイ・ゴメスを投入して中盤を厚くしたが、すでにほぼ勝敗は決していた。ハビエル・カジェハ監督も「あれほどの選手たちが集まる時、彼らにブレーキをかけることは非常に難しい」と白旗を揚げるほど、前半だけで用意していた守備陣形はズタズタに引き裂かれた。
危険なゴール前で局所的な数的優位や質的優位を、いとも簡単に作り出せるユニットがバルセロナのMSGだった。前節アトレティコ戦でもパサー気質のリキ・プッチがトップ下的に振る舞う4-3-1-2を使ったが、グリーズマンが入ると機能性は全く異なり、クオリティも断然高まる。
キケ・セティエン監督は試合後、グリーズマンを組み込んだ4-3-1-2採用の成果について「前節、リキでも試したが、とても気に入った。彼らは並外れた連係を見せ、中央に集中できる。(サイドバックを使って)アウトサイドから前進し、インサイドの選手を引きつけることができた。彼らは非常にうまくやったと思うし、高いクオリティを見せたね」と語った。
それでもやっぱりメッシは偉大
今のバルセロナには純粋なウィングタイプの選手がほとんどいない。主力に定着しつつあるアンス・ファティも、まだまだ継続性に課題がある。ならばメッシに中央で自由を与え、卓越したテクニックとインテリジェンスを兼ね備えたグリーズマンを、最も得意とするトップに据える方が理に適っているということなのだろう。
ボール支配率を高めていけば、両サイドバックの背後にできるスペースを突かれる回数を減らすこともできる。圧倒的な攻撃力でリスクを相殺、ゆくゆくはほとんど無視しても構わないものにしていく考えなのかもしれない。
結果的にグリーズマンはゴールスコアラーとしての傑出した能力を発揮できた。45分のエレガントなループシュートだけでなく、序盤の3分にはジョルディ・アルバの折り返しに飛び込んで、ビジャレアルのDFパウ・トーレスのオウンゴールを誘発した。
新布陣の導入は今のところ成功と言えるだろう。それでも、何をやってもバルセロナの象徴はメッシだったことを忘れてはならない。相手DFを背負いながら、GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲンからのロングフィードをコントロールしたメッシは中央をドリブルで突き進んでディフェンスを引きつける。そして左サイドでフリーになったスアレスにラストパスを通した。
前半終了間際にグリーズマンのゴールを完璧なヒールパスで演出したのがメッシだったのは、先に述べた通り。VARの介入によって取り消されてしまったが、69分には華麗な崩しからメッシ自らゴールネットを揺らしてもいる。
そして何より恐ろしいのは、週に2試合のペースで試合をこなしていく過密日程の中で、33歳にしてリーグ戦再開から7試合全てにフル出場していることだ。その間の成績は3得点8アシストと、自分がゴールを決めるだけでなく、味方のパフォーマンスを最大化させることにより一層の力を注いでいることがわかる。絶対的な王様ゆえに扱いの難しさはあるが、ここまで圧倒的な結果を残してくれるなら誰も何も言うまい。
再開後から好調だったビジャレアルは4-1で粉砕した。キケ・セティエン監督が見出しつつある「MSG」の最適な配置は、バルセロナ復調の鍵となるか。メッシは輝きを増し、負傷明けのスアレスも徐々に本来の姿を取り戻しつつある。そしてグリーズマンの急激な復活にはシメオネ監督も「言葉がない」かもしれない。
(文:舩木渉)
【了】