驚きの先発メンバー
およそ4ヶ月に及んだ中断が明けたばかりで情報が少なかったとはいえ、試合開始2時間前のスタメン発表を見てぶったまげた。
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4日に行われた明治安田生命J1リーグの第2節・浦和レッズ戦で、横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督が選んだ11人を、事前に全員的中させた記者は1人もいなかったのではないかと思う。
少なくとも前日練習を見た限りでは、中断期間中に加入した3選手を全員スタメン起用するとは思えなかった。前年度得点王のマルコス・ジュニオールをベンチスタートにしたのも予想外だった。
ポステコグルー監督は核心を避けて我々を煙に巻く傾向がある。だが、「勝つための選手を送り出すだけ」「出場するのが誰か、決めかねているところもある」という前日練習後の談話に嘘はなかった。あの時点では、本当に迷っていたのだと思う。
唯一やむをえず先発起用を諦めたのは、右サイドバックの松原健だ。浦和戦後の記者会見で指揮官は「昨日の練習でケニー(松原)がちょっとした怪我をしてしまい、リュウ(小池龍太)が出ることになった」と明かしていた。
前日練習ではおそらく朝の時点で浦和戦に先発させることを想定した10人と、それ以外でビブスの色を分けたメニューも見られたが、「スタメン組」的な印象を受けたグループに入っていた選手が何人もベンチスタートになった。
マリノスの選手たちはいつも口々に「ボス(ポステコグルー監督)は選手のことを本当によく見ている」と話していたが、練習中に声を荒らげることは少なく、遠くから全体をじっと見つめている中で、懸命にアピールする選手たちの姿から何かしらの可能性を感じたのだろう。
0-0のドローに終わった浦和戦の後、ポステコグルー監督は「今後も毎試合同じ11人が出ることを約束することはない。しっかり練習から見て、いい選手をピッチに送り出すこと。それが自分のやるべきこと。しっかりと見ながら11人を選んでいきたい」と語った。
状態のいい選手を積極的に起用し、誰が出ても「自分たちのサッカー」を変わらずにできるという自信を植えつけること。過密日程となり総力戦を強いられる中、常に「戦える11人を選ぶ」ことができるチーム作りは、指揮官の手腕が問われるところでもある。
攻撃の破壊力は…
試合内容は「自分たちの試合にならなかったというか、自分たちのテンポやリズムが足りなかった」と仲川輝人が振り返ったように、特に前半はパス回しのリズムが悪く、ファウルなどでプレーが切れる場面も多くて波に乗り切れなかった。
GK西川周作の好セーブに阻まれたとはいえ、16本のシュートを放ってノーゴールというのはやはり寂しい。浦和の堅い守備ブロックを崩しきれなかった印象も強い。それでもポジティブな要素は多くあった。
まず新加入3選手のパフォーマンスだ。すでにポステコグルー監督のサッカーを熟知している天野純が違和感なくプレーできるのはもちろんのこと、小池龍太や實藤友紀もチームの全体練習に本格合流しておよそ1ヶ月ということを感じさせない動きを見せた。
特に小池は「難しい」と誰もが口をそろえるサイドバックの特殊なポジショニングや周りとのコンビネーションも、すでに十分理解してプレーに落とし込めているようだ。前半から積極的に高い位置を取り、時にはペナルティエリア手前まで進出して攻撃に関与していた。
實藤が前半終了間際に負傷してしまったのは気がかりだが、彼も後方からのビルドアップや被カウンター時のカバーリングで持ち味を存分に発揮していた。代わって途中出場したチアゴ・マルチンスも、長期離脱明けとは思えないハイパフォーマンスを披露。ディフェンスラインの選手層は確実に厚くなっている。
交代枠が5人に拡大されたことはマリノスにとってプラスに働くだろう。浦和戦では仲川、エリキ、遠藤渓太が3トップで先発起用され、マルコス・ジュニオールやエジガル・ジュニオ、水沼宏太が途中出場した。
仲川とマルコス・ジュニオールが昨季のJ1でそれぞれ15得点、エジガル・ジュニオは前半戦のみの稼働でリーグ戦16試合出場11得点、エリキは後半戦のみでリーグ戦12試合出場8得点という成績だった。彼ら4人がフル稼働すれば、単純計算で年間70点近く決められるくらいの破壊力があることになる。
勝つためには「質を高めるしかない」
昨季7得点の遠藤は途中出場からでも結果を残せる爆発力があり、大分トリニータで10得点を挙げたオナイウ阿道もベンチに控えている。まだ公式戦の出場がないアタッカーたちも十分に主力として計算が立つことは、練習試合の映像を見ていてもよくわかる。積極的な交代策で前線をフレッシュな選手に入れ替えながら、アタッキング・フットボールの連動性と攻撃のパワーを維持することも可能だろう。
もちろん連戦を考慮してのメンバーの入れ替えも自信を持って行えるはずだ。ポステコグルー監督が「今後も毎試合同じ11人が出ることを約束することはない」と語ったのも、チーム内競争が激しさを増し、抱えている選手たちのパフォーマンスに自信があるゆえだろう。
無得点に終わった攻撃面は、公式戦のスピード感や強度の中でリズムを取り戻しながら、コンビネーションの速さと精度を上げてしくしかない。チームの全員が公式戦から4ヶ月も遠ざかることは通常のシーズンではありえない。感覚を研ぎ澄まし、頭の回転を速くして、実戦の中でも判断力を取り戻していく必要があるだろう。
仲川も「質を高めるしかないと思いますし、ペナルティエリアでのシュートかパスかも、どっちがいい選択かを高めていければ、今日も点を取れたと思いますし、自分も含めてシュートの精度だったり、パスの精度が低かったというのがあったので、ペナルティエリア内での落ち着きだったりを、久しぶりの試合というのもありますけど、徐々に上げていければと思います。あとは点を取るだけだと思うので、そこを改善していければいいと思います」と語った。
浦和戦の後半開始早々、左サイドを突破したエリキがGKと1対1でコースのないところから強引にシュートを打ったシーンがあった。中央でフリーになっていた仲川は、より確実な選択肢を無視したブラジル人FWに「エリキーーーー!!!」と大声で叫んでいたが、これぞまさに「ペナルティエリアでのシュートかパスかも、どっちがいい選択かを高めていければ、今日も点を取れた」局面だった。
こうした判断の精度は、実戦を重ねて視界がクリアになってくることで、もっとチームの勝利を意識したものに変わっていくはずだ。
昨季王者のマリノスはJ1再開初戦で引き分け、開幕から1分1敗となった。未勝利でゴールはわずか1つだけと連覇を不安視する声も出てきそうだが、まだ心配するような状況ではない。チーム戦術の完成度は相変わらず高く、選手たちのモチベーションも非常に高く保たれている。
躍動感あふれるエキサイティングなアタッキング・フットボールの完全復活は近い。
(取材・文:舩木渉)
【了】