選手とスタッフの間に亀裂?
リオネル・メッシが指を鳴らし、カメラに向かってウィンクしようと魔法がかかるわけではない。
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チーム内の不協和音は隠そうとしても、何らかの形で結果に反映されてしまう。それが勝利から見放され、ラ・リーガの優勝争いから後退し続けるバルセロナの現状だ。
現地6月30日に行われたラ・リーガ第33節では、アトレティコ・マドリーと2-2のドロー。2戦連続で勝ち点1しか積み上げられず、2日にレアル・マドリードがヘタフェを破れば、首位との差は4ポイントまで広がってしまう。
とにかくネガティヴなニュースばかりが飛び交う状況を、何らかの形で打破しなければならないだろう。
ユベントスとの間で成立したアルトゥールとミラレム・ピャニッチの不可解なトレード、今季初めて2試合連続でベンチスタートになったアントワーヌ・グリーズマンの扱い……。そして今最も盛んに取り上げられているのは、第2監督を務めるエデル・サラビアと主力選手たちの対立だ。
新型コロナウイルスの感染拡大にともなう公式戦中断前のエル・クラシコで、ベンチのサラビアが自軍の選手たちを口汚く罵っていたことが中継映像から読み解かれて大きな問題となった。直後に選手たちと話し合いの場を持って解決したとされてきたが、両者の間に生じた亀裂は先月27日のセルタ戦で再び表面化した。
試合中の飲水タイムにサラビアが指示を与えようとしたところ、それをメッシが無視し続けたように見えた映像が発端だった。
グリーズマンやネウソン・セメドに対する問題発言があった直後のレアル・ソシエダ戦の試合前、サラビアはインタビューの中で「我々は多くの人々、子どもたちにとって模範を示さねばならず、多くのことに注意しなければならないが、私のスピリットが変わることは決してない。私は今の姿であることに誇りを持っており、今後も同じように働き続ける」と宣言していた。
しばしばキケ・セティエンを差し置いてまるで「監督」のように振舞い、自分の意見を主張しなければ気が済まない第2監督の姿勢を、中心選手たちはよく思っていないという。確かに、ティト・ビラノバやフアン・カルロス・ウンスエというのようなこれまでのバルサの第2監督は、ペップ・グアルディオラやルイス・エンリケといった気性の激しい監督を諌める立場をとっていた。今のセティエンとサラビアの関係とは真逆だ。
ラ・リーガでは試合前のウォーミングアップの様子をYouTubeで生配信していて、その中で各クラブの第2監督が試合前インタビューに応じるのが通例になっている。サラビアも中断直前のソシエダ戦まではマイクの前に立っていたが、再開後になると取材を受けることがなくなった。試合中にベンチを立って、テクニカルエリアでセティエン監督よりも前に出て大声を張り上げる回数もかなり減った。この変化をどう受け止めよう。
リキ・プッチに本格開花の兆し
グリーズマンのように屈辱的な扱いを受けても、試合が始まってしまえば、ピッチ外の不満やトラブルは忘れて勝利のために全てを尽くさねばならない。とはいうものの、不可欠な質を備えながらポテンシャルの全てを発揮しているとは言い難いフランス代表FWのみならず、今のバルサの選手たちはどこか少しふわふわしていて、時折集中を欠き、チームとしてのバランスを失っているように見える。
アトレティコ戦もメッシのセットプレーからジエゴ・コスタのオウンゴールで先制したまでは良かったが、残る3つのゴールは全てPKだった。1試合で2つもPKを与えてしまうほど相手にゴールの目の前まで迫られてしまうとは、やはりバルサらしくない。
そんな中で、セティエン監督が現状を打開するための希望を託したのが、リキ・プッチという若手選手だ。アンドレス・イニエスタやシャビの系譜を継ぐポテンシャルを秘めた特別な才能を高く評価されている、下部組織からの生え抜きだ。当然、ファンからの期待も大きい。
Bチームでは圧倒的な存在感を発揮していた小柄な20歳のインテリオールは、このシーズン終盤の重要なタイミングで2試合連続の先発起用。アトレティコ戦では4-4-2へのシステム変更すらもたらし、中盤に新たなエナジーを注入している。
トーマス・パーティには片手で抑え込まれてしまうなどフィジカル面の不足はあるものの、以前に比べれば守備への積極性は飛躍的に向上した。そして、独特なボールの持ち方、体の向き、身のこなし、パスコースの確保、プレーの連続性、正確なテクニックなど実にバルサの選手らしい特徴を備えている。
半径の小さなターンでボールのスピードを殺さないよう前を向き、メッシやルイス・スアレスへ的確にパスを配っていく姿も様になってきた。ボールを持っていない状態でも、常に近い距離で局所的に数的優位を作って周りの選手をサポートできるポジションを探し、特にメッシを気持ちよくプレーさせるための“通り道”になろうとしているように見受けられる。
「僕たちはまだ勝てる」
セティエン監督もアトレティコ戦後の記者会見の中で「リキはポジションと我々が求めることを非常によく理解している」と、リキ・プッチの戦術理解能力の高さを称賛した。
「彼はすでに非常に高いレベルにある。我々は彼の全てを見てきた。彼は我々が要求した全てのことに対し、意志と質をもって、集中して取り組んでいた。それが継続していくやり方なのは明らかだろう。(いいプレーが見られたのは)すでに3試合連続だ。我々は明日彼がどうなっているか見なければならない。彼のパフォーマンスを嬉しく思う。クラブやファンもそうだろう。素晴らしい選手だよ」
リキ・プッチは昨季からトップチームの公式戦に出場していたが、チャンスをもらえたのはごくわずかな時間で、スポット的な起用にとどまっていた。今季も前半戦はほとんどBチームで過ごしていた。ところが後半戦、特に長期の中断が明けた6月になってからは継続的にチャンスを与えられている。
トップリーグのプレッシャーにも慣れてきたようだ。これまで以上の激しさで寄せられても臆することなく立ち向かい、相手を背負った状態でもボールを受けて、捌いて、受けて、捌いてとリズムを失わなくなってきた。
体格に恵まれなくとも世界のトップクラスに上り詰めることができるというのは、大先輩のイニエスタやシャビが身を以て証明してきた。リキ・プッチも徐々にではあるが、バルサの将来をけん引するクラックへの階段を着実に登っている。
アトレティコと引き分けたバルサは優勝争いから一歩後退してしまった。それでも「キケ・セティエンとエデル・サラビアが僕が小さい頃から待ち望んでくれたチャンスを与えてくれた。カンプ・ノウでのアトレティコ戦に先発できたのは非常に重要だった」とリキ・プッチは試合後に指揮官らへの感謝を述べた。
そして「僕たちはかなり頭を使って、落ち着いてプレーしている。たくさんのものを失ってしまったかもしれないけど、これからもっと多くの試合に勝っていくつもりだ。現時点ではリーグタイトルを失ったわけじゃない。僕たちはまだ勝てる」と、逆転優勝への望みを捨てていない。
ネガティヴな要素ばかりで諦めムードすら漂う中、新進気鋭のメガクラック候補はまだ諦めていない。バルサの遺伝子を色濃く受け継いだ次世代の旗頭が、ここから中心となってチームを高みへと導ければ、それすなわちワールドクラスへの大きな飛躍の端緒となるだろう。
もはやリキ・プッチこそが今のバルサにとって唯一の希望なのかもしれない。
(文:舩木渉)
【了】