サンプドリアは一矢報いるも…
リーグ戦再開後2連敗と残留争いに苦しむサンプドリアが、11位のボローニャをホームに迎えたこの一戦。DF吉田麻也はベンチスタート、DF冨安健洋はいつも通り右サイドバックとして先発に名を連ねている。
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試合の序盤はお互いに慎重な姿勢を見せていた。両者ともに球際の激しさはあったが、なかなか決定機を掴むには至らず。25分あたりまで膠着状態が続いていた。
しかし、徐々にペースはサンプドリアに傾く。ボールを保持するボローニャに対し、ホームチームはハイプレスで相手の攻撃の勢いを阻止。マイボールへと移ると、素早く縦にパスを送って敵陣深い位置まで侵入した。34分には浮き球のパスに抜け出したFWアントニオ・ラ・グミナが決定機を迎えている。
後半に入ってもサンプドリアが押し込む展開は変わらず。カウンターだけでなくボールを的確に繋いだ攻めも繰り出すなど、敵陣でプレーする時間を増やしていた。64分にはMFロナウド・ヴィエイラがシュート。勢いは十分だった。
しかし、シニシャ・ミハイロビッチ監督が送り込んだ一人の選手により、試合は大きく動き出す。それが、FWムサ・バロウだった。
今冬、アタランタからレンタルという形でボローニャに加入したガンビア代表FWは、72分に味方が得たPKを冷静に沈めると、その3分後には持ち味のテクニックとスピードを活かして左サイドを突破。最後はFWリッカルド・オルソリーニの得点をお膳立てするなど、出場から間もなくしてチームに2点をもたらしたのだ。まさに、切り札としての役割を果たした。
一方、2点を奪われたサンプドリアは88分にFWフェデリコ・ボナッツォーリが1点を返すものの、同点弾を奪うには至らず。リーグ戦3試合連続で1-2のスコアで敗れる結果となった。
勝利したボローニャは11位をキープ。対して3連敗となったサンプドリアは17位に。依然として厳しい状況が続いている。
右サイドを活性化させたサムライ
5試合ぶりの勝利を手に入れたボローニャにおけるこの日のヒーローは、やはりバロウだろう。短い出場時間でチームに2点をもたらしたパフォーマンスは見事だったと言える。しかし、この日右サイドバックでフル出場を果たした冨安も、その若きFWに劣らぬ存在感を放った。
背番号14は試合開始から間もなくしてドリブルで敵陣深い位置まで侵入するなど、積極果敢なプレーを披露。20分のコーナーキックの場面ではボールに飛び込んで味方のチャンスに結び付けるなど、前節のユベントス戦による疲労の影響を感じさせない素晴らしいゲームへの入りを見せた。
攻撃のリズムを生む縦へのパスも非常に効果的だった。44分の場面ではドリブルで内側に侵入し、相手のSBを中へ引きつけたところで大外のオルソリーニへパス。そこからFKのチャンスを得ている。さらに56分には、オルソリーニが下がって相手のSBを誘導し、左CBの脇を空ける。そのスペースへMFロベルト・ソリアーノが走り込むと、冨安はそこを見逃さず鋭い縦パスを送り込んだ。
上記したことからも分かる通り、とにかくオルソリーニと冨安の連係が良く、ボローニャの右サイドからの攻撃は非常にスムーズだった。この日、同チームは計12本のシュートを放っているが、その内の33%は右サイドから生まれたもの。これは左サイドよりも高い数字だ。冨安自身のポジションはそこまで高くなかったものの、オルソリーニらを活かす最終ラインからのビルドアップの貢献度は絶大と言ってもいいだろう。
もちろん守備面での貢献度も高かった。この日、冨安が対峙したのはポーランド代表MFのカロル・リネティであったが、同選手に仕事を与えた場面はほとんどなかったと言っていいだろう。ポジショニングと読みの鋭さも冴えており、29分には良いランニングを見せたDF二コラ・ムッルを見逃さず、DFオマール・コリーからのパスをカット。非常に集中していたのは、プレーからも十分に伝わった。
とくに秀逸だったのは61分のカウンター対応だ。
パスミスが原因でボールを失ったボローニャは、相手のR・ヴィエイラに中央突破を許す。この時サンプドリアは前線に4枚、ボローニャは最終ライン3枚となっていた。
冨安は、まず左サイドから中央へ斜めのランニングを見せたラ・グミナを警戒して中へ絞る。そうすることで左サイドのリネティが空き、R・ヴィエイラはそこへパスを出したのだが、冨安はその瞬間にうまく身体を回転させ、中央から今度は左サイドへランニング。見事にリネティのシュートをブロックし、味方をピンチから救い出した。予測、動き出し、判断力のすべてが揃った素晴らしいディフェンスであったと言える。
データサイト『Who Scored』によると、この日の冨安はシュート数1本、パス成功率82%、タックル成功数1回、空中戦勝利数3回、ドリブル突破数は全体で2番目に多い3回を記録。レーティングも「7.2」と申し分ない。今やローマ、ミランからの関心が噂される冨安であるが、セリエA屈指のその実力を存分に見せつけたと言えるはずだ。
吉田は立場が厳しいか…
一方の吉田麻也であるが、リーグ再開後は厳しい戦いが続いている。前節のローマ戦では相手のエースであるFWエディン・ジェコに力の差を見せつけられ、現地紙などでは最低評価を受けていた。個人としてはもちろん、味方との守備連係においても不安を残している。
そして、冨安との日本人対決が期待されたボローニャ戦は先発落ち。過密日程によるローテーションとは考えにくく、直近のパフォーマンスを見ても序列が下がったと見てもおかしくはない。
この日はDFロレンツォ・トネッリが負傷したことで74分から出場。日本人DF対決が実現することとなったが、その直後にオルソリーニにゴールを奪われている。右サイドを2人で守っていながらバロウに簡単に突破を許した味方選手も問題であったが、吉田も失点に絡んでしまったのは事実。指揮官の期待に応えたとは言い難い。
先述した通り、守備における連係面はなんとも心配なところ。CBのコンビを組むことが多いコリーらとのバランスは決して良くなく、局面局面で1対1の状況を強いられることが多いなど、個人頼りのディフェンスとなっている。まだ加入して間もないとはいえ、このあたりが伸びてこなければ、スタメンに定着することは当然だが、難しい。
現在のサンプドリアは、チーム全体として守備が緩い。最終ラインも中盤の選手も簡単に飛び出してスペースを空け、そこをケアできぬまま押し込まれてしまう場面がこの日も何度かあった。その軟弱な守備を吉田一人が変えるのは酷な話で、重なる失点は当然ながら彼だけの責任ではない。しかし、やはりどこかで違いを見せなければ、とくに守備への評価が厳しいイタリアで生き抜くことは不可能となる。
ボローニャ戦では先発落ちしたが、この日はCBのトネッリが負傷、さらに過密日程が続くということで、今後も吉田に出番は必ず訪れる。現在は評価を落としている日本代表DFであるが、ここからの巻き返しに期待したい。
(文:小澤祐作)
【了】