拙守が続いたマジョルカ
久保建英はこの試合でも、暗闇に迷い込んだマジョルカを救うことができなかった。レアル・マドリード戦から中2日で臨んだビルバオ戦で、マジョルカはPKから1点を返すのが精いっぱいだった。
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中2日といっても、レアル戦は水曜21時、ビルバオ戦は土曜13時のキックオフ。試合と試合の間はわずか約62時間で、アウェイでの連戦という厳しい条件だった。マジョルカは前節から2人の変更に留めたが、試合終盤は反撃の体力も気力も残っていなかった。
対照的に、中3日だったビルバオはコンディションという意味では有利だった。前節のバルセロナ戦では控え組を多く起用し、この試合に向けて6名を変更。31節を終えて10位だが、欧州の切符への望みをつなぎたいビルバオは、残留圏へ6ポイント差と苦しむマジョルカ戦を確実に取りに来た。
マジョルカにとって最初の失点は不用意だった。ビルバオが左サイドからクロスを上げたとき、ファーに走路を変えたラウール・ガルシアの足をラゴ・ジュニオルがひっかけてしまった。ビルバオのターゲットが2人だったのに対してマジョルカは5人が待ち構えていた。クロスボールはセンターバックのアントニオ・ライージョがクリアしていて、その後ろには中盤のサルバ・セビージャもいたのだが、おそらくラゴはボールウォッチャーになっていてラウール・ガルシアの動きを視野に捉えていなかった。1トップで先発したラウール・ガルシアの巧さとラゴの拙守が重なった結果のPKだった。
中1.5日の影響
64秒、16分、19分、16分。リーグ戦再開後にマジョルカが敗れた試合で許した先制点の時間だ。反対に、引き分けたレガネス戦は9分に先制したが、試合終盤の87分に追いつかれた。バルセロナ、ビジャレアル、レアル、そしてこの日のビルバオと、力のあるクラブに前半の早い時間で先制を許してしまうと、どうしてもそこから逆転するのは難しくなってくる。1点ならまだしも、この日はそこからわずか8分後に追加点を許してしまった。
ショートコーナーのリターンを受けたウナイ・ロペスがグラウンダーでゴール前にパスを入れると、オイハン・サンセットがダイレクトでゴールに流し込んだ。ファーからニアに走りこんできたサンセットをラゴがフリーにしてしまった。ビルバオが得意とするセットプレーでは、一瞬の隙が命取りとなる。
2点ビハインドで前半を終えたマジョルカは、ハーフタイムにアンテ・ブディミルを投入し、3-5-2から4-4-2へ布陣を変更した。4-2-3-1のビルバオに対してミラーゲームを仕掛けて攻勢を強め、58分、68分と交代カードを切ってゴールを狙っている。右サイドで3人を引き付けた久保からパスを受けたアレクサンダル・トライコフスキがラウール・ガルシアの足にかかってPKを獲得。ブディミルが今季10点目のゴールを決めて、マジョルカは1点を返している。
なんとか望みをつないだマジョルカだったが、中1.5日の影響は終盤により顕著になった。センターバックのマルティン・ヴァリエントを下げてフラン・ガメスを左サイドバックに入れ、アレクサダル・セドラルをセンターバックに回したが、これが裏目に出た。後半アディショナルタイムには交代出場していたアシエル・バジャリブレにとどめを刺されている。
久保が低調に終わった理由
リーグ戦再開後5試合すべてに先発しているフィールドプレーヤーはセンターバックのヴァリエント、右サイドのアレハンドロ・ポソと久保の3人。ほとんどの選手が経験したことのない過密日程でターンオーバーが敷かれる中、久保は欠かせない存在としてピッチに立ち続けている。
ここまで久保のパフォーマンス自体は高い評価を受けていたが、ビルバオ戦は再開後の5試合ではもっとも低調なパフォーマンスに終わった。もちろん、連戦による疲労の影響がないはずはないが、それだけが理由ではないと思う。
レアル戦で両軍最多の5つのファウルを受けたことからもわかるように、ある程度ファウルを覚悟して久保を止めることがマジョルカの攻撃を封じる常套手段となっていたが、ビルバオのアプローチは違った。久保がサイドでボールを持ったとき、左サイドバックのユーリ・ベルチチェはむやみに飛び込まず、抜かれないように適切な距離を保っていた。
今季リーグで3番目に少ない失点数を誇るビルバオは、前節でもバルセロナを相手に試合終盤まで無失点に抑えている。このときは4人のDFと4人のMFがコンパクトな陣形を保ち、ブロックの中にボールが入れば素早い収縮でボールを奪い取った。マジョルカ戦ではサイドへのスライドも早く、スマートな守備でマジョルカにスペースを与えなかった。
孤立する右サイド
結果として久保はドリブルで切り込んだり、ペナルティーエリアでプレーしたりすることがあまりできなかった。この試合のタッチエリアを見てもサイドでプレーする時間が長く、特に前半は右サイドでのプレーに偏っている。
周りの久保に合わせる意識が強くなりすぎているかもしれない。久保がボールを持ったときに、スペースに飛び込む動きがほとんどない。久保は周囲の動きを見てプレーを選択できる選手なので、味方を活かすこともできれば、囮に使うこともできる。この試合でそれができていたのはポソしかいなかったので、2人がサイドに追いやられていた。
一方で、布陣を4-4-2に変更した後半は何度か攻撃の形を作ることができた。久保にはハーフスペースで受けられるブディミルやトライコフスキが必要だった。PKを獲得したシーンはまさにそれが奏功したと言えるだろう。ブディミルが先発に戻ってくるであろう次節に期待をかけるしかない。
久保は同世代の選手たちのゴールを目前で見せられている。レアル戦では20歳のヴィニシウス・ジュニオールに、この試合でも20歳のオイハン・サンセットと22歳のアシエル・ビジャリブレがゴールを決めている。主力選手の中では最年少であっても、ピッチに立つ以上は結果が求められる。
再開後まだ勝ちのないマジョルカは残留圏との勝ち点差が6ポイントに開いている。この5試合で決めた得点はサルバ・セビージャの直接FKとブディミルのPKで、流れの中からのゴールはない。同33の16位で、バルセロナから貴重な勝ち点1を掴んでいるセルタと対戦する次節で、久保はゴールに絡む活躍を見せることができるだろうか。
(文:加藤健一)
【了】