熾烈を極める個人タイトルの行方
リバプールの優勝はまもなく決まる。実に30シーズンぶりの、イングランド1部リーグがプレミアリーグと改称されてからは初の戴冠だ。
【今シーズンのプレミアリーグはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
マンチェスター・シティは出場停止処分を科されるに違いない。粉飾決済の疑いは濃厚だ。4位以内で終わっても、チャンピオンズリーグ出場権は剥奪される。
ただ、チャンピンズリーグとヨーロッパリーグの出場権、残留・降格争いは最終節までもつれるケースも考えられ、個人タイトルの行方も熱を帯びてきた。
【得点ランキング】(現地時間6月21日現在)
・1位 19点
ジェイミー・ヴァーディー(レスター)
・2位 17点
ピエール=エメリク・オーバメヤン(アーセナル)
・3位 16点
セルヒオ・アグエロ(シティ)
モハメド・サラー(リバプール)
ダニー・イングス(サウサンプトン)
・6位 14点
サディオ・マネ(リバプール)
マーカス・ラッシュフォード(ユナイテッド)
ラウール・ヒメネス(ウォルバーハンプトン)
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う3か月の中断で、各選手のコンディションはリセットされた。30代のヴァーディーとアグエロは体力を取り戻し、ラシュフォードは疲労骨折した腰部が全快。したがって、ヴァーディーがこのまま逃げ切る可能性もあれば、ラシュフォードの大逆転もありうる。
だが、各クラブの状況を踏まえると、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグの出場権獲得というプレッシャーがなく、ハイレベルのサポート役を数多くそろえるサラー、マネのリバプール勢が有利ではないだろうか。
リバプールが達成しうる記録は…
冒頭でも述べたように、リーグ優勝は既成事実といって差し支えない。残念ながらチャンピオンズリーグ、FAカップでも姿を消しているため、サラーとマネの得点王獲得に合わせたメンバー構成が可能だ。さらに、3つの記録更新もクラブにとって大きなモチベーションになる。現在の記録保持者は以下のとおりだ。
【最多勝】32勝
シティ(17/18、18/19)
【最多勝ち点】100ポイント
シティ(17/18)
【ホーム最多勝】18勝
チェルシー(05/06)
ユナイテッド(10/11)
シティ(10/11、18/19)
現在、リバプールは27勝だ。残り8試合で6勝。最多勝の更新は視野に入っている。ホームも15戦無敗。本拠アンフィールドではクリスタルパレス戦、アストンビラ戦、バーンリー戦、チェルシー戦が残っている。4戦全勝でこの部門でもトップに立つ。また、獲得ポイントも現時点で82。残り9試合で18ポイント以上を稼げば三桁に届く。新記録達成が見えてきた。サラーとマネの力が必要になる。
ヴァーディーはトレーニングマッチで精彩を欠いていたという。オーバメヤンはアーセナルの不振に歩調を合わせる危険が濃厚で、アグエロが所属するシティのターゲットはチャンピオンズリーグだ。得点王の流れも、リバプールに傾きつつある。
最強GKは誰だ?
熾烈を極めるのが最多クリーンシートだ。
・1位 11試合
ディーン・ヘンダーソン(シェフィールド)
ニック・ポープ(バーンリー)
アリソン(リバプール)
・4位 10試合
マーティン・ドゥブラフカ(ニューカッスル)
エデルソン(シティ)
キャスパー・シュマイケル(レスター)
ビセンテ・グアイタ(クリスタルパレス)
・8位 9試合
ベン・フォスター(ワトフォード)
ルイ・パトリシオ(ウォルバーハンプトン)
現地時間6月21日現在のトップ8には、新旧のイングランド代表が3人も顔を連ねている。ヘンダーソンは試合を重ねるごとに安定感を増し、ポープは反射神経がとくに鋭い。そして元イングランド代表のフォスターは、奇跡的なセーブで幾多のピンチを防いできた。もし彼がいなかったら、いまごろワトフォードはすでに降格が決まっていたかもしれない。
14/15シーズン、シティに所属していた当時のジョー・ハート(現バーンリー)以降、イングランド人は最多クリーンシートとは縁がなかった。DF陣の力量から判断すると、今シーズンもアリソンが最有力だ。2シーズン連続で、GKとして胸を張れる称号を得る確率は非常に高い。だが、シェフィールドは30節終了時点で失点28。リバプールの21に次ぐ好データだ。ヘンダーソンにもチャンスはある。
納得しがたい記録と途轍もない記録
プレミアリーグには納得できない公式記録もある。
DFの最多得点者は、なぜかアシュリー・ヤング(現インテル・ミラノ)の48点だ。しかし、アストンビラにおける30点、ユナイテッド初年度の6点が含まれている、デビュー当時に在籍していたワトフォードの3点も加わり、合計39点。MF、あるいはFWとして出場しているにもかかわらず、だ。ヤングはアシスト記録でもDF最多の69となっているが、こちらもMFやFWとして出場した試合のデータが加算されている。
ヤングに罪はない。しかし、プレミアリーグはこうした事実に但し書きを加え、あらぬ誤解を招かないようにするべきだ。DF全体なら最多得点はジョン・テリー(元チェルシー)の41点であり、アシストはレイトン・ベインズ(エバートン)の53が最高値だ。
そして近い将来、ベインズの記録を破るとすればリバプールの両サイドバックを置いて他にない。アンドリュー・ロバートソンは27、トレント・アレクサンダー=アーノルドは25。両選手のアシスト能力を踏まえると、2021/22シーズンの終盤には記録更新となりそうだ。
ちなみに歴代最多のアシスト数は、ユナイテッドで一世を風靡したライアン・ギグスの162だ。現役最多はシティのダビド・シルバで90。彼は今シーズン限りでプレミアリーグを去り、84で現役2位につけるジェームズ・ミルナー(リバプール)も34歳になった。デブライネも昨シーズンの長期欠場が響き、まだ62アシストだ。ギグスの162は、途轍もない記録である。
なお、今シーズンのアシストランキングはシティのケビン・デブライネが16でトップ。4差でリバプールのA・アーノルドが2位につけている。しかし、残り9試合で4差は小さくない。デブライネ有利、とみた。
切ないデヘアの記録
さて、ありがたくない公式記録もある。
例えばbig chances missed。決定機に何度ミスったか、である。
歴代最多は126回。アグエロがダントツだった。2位ロメル・ルカク(現インテル・ミラノ)の86を大きく引き離している。今シーズンも12回でトップ10入り。クロスバーやポストに5回も嫌われていた。さらにシティはガブリエウ・ジェズスの18回、ラヒーム・スターリングの14回を含め、実に65回も決定機を逸している。リバプールは52回。ジョゼップ・グアルディオラ監督のチームは、詰めが甘かったということか。
errors leading to goal――失点につながるミスもしっかり記録されている。
ユナイテッドのダビド・デヘアは3回。ドゥブラフカの4回に続く2位に登場してしまった。ちょっと切ない。
ユナイテッド入団から一昨シーズンまでの7年間ではわずか6回。ところが昨シーズンだけで4回。この2シーズンは7回も信じがたいミスを犯している。キャッチング、キックともに不安定だ。いくつかの好守も見せているとはいえ、最多クリーンシート(18回)を記録した17/18シーズンのパフォーマンスを取り戻せてはいない。チャンピオンズリーグ出場権奪還を狙うユナイテッドにとって、デヘアの復調はキーファクターだ。
さぁ、いよいよプレミアリーグが再開した。新型コロナウイルスにより、通常とは異なるシチュエーションを強いられるが、そんなシーズンにタイトルを獲れたら、一生の想い出になるに違いない。感染のリスクを覚悟して闘う彼らに、心からのリスペクトを──。
(文:粕谷秀樹)
【了】