再開3試合目で訪れたチャンス
ラ・リーガ再開から3試合目にして、ようやく乾貴士に先発出場のチャンスが回ってきた。
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決してチーム内での序列が下がったわけではない。エイバルは、もともとあまり先発メンバーを固定せず戦ってきた。その傾向は再開後も変わらず、週2試合のペースが続く過密日程を乗り切るためには避けられない判断だっただろう。
特に乾をはじめとした前線はベテラン揃いで、トップチームに登録されているアタッカーは軒並み30歳を超えている。
シャルレス(36歳)
ファビアン・オレジャナ(34歳)
ペドロ・レオン(33歳)
乾貴士(32歳)
パブロ・デ・ブラシス(32歳)
セルジ・エンリク(30歳)
キケ・ガルシア(30歳)
キケ・ゴンザレス(30歳)
オレジャナやペドロ・レオンはいまだにラ・リーガでもトップレベルの技術を維持しているが、やはり年齢的なことも考えると無理はさせられない。特にペドロ・レオンはもともと怪我がちなため、慎重に起用していく必要がある。
このように30代のベテランたちが揃う前線のやりくりは、エイバルが過密日程でも勝ち点を積み重ねていくために不可欠なのだ。
加えてエイバルはリーグ戦再開から4試合の対戦カードが非常に厳しいクラブの1つだった。レアル・マドリード(14日)から始まり、中2日でアスレティック・ビルバオ戦(17日)、さらに中2日でヘタフェ戦(20日)が行われた。今後は中4日でバレンシア戦(25日)と続く。
連戦の合間には当然移動もあり、アウェイ→ホーム→アウェイ→ホームと試合のたびに長距離を行き来しなければならない。もちろんラ・リーガの他のクラブも似たような条件で試合をこなしているが、30代のベテランたちにとってはかなりキツく、マドリーに敗れ、ビルバオと引き分けと勝ち星に見放された状態では身体的にも精神的にも疲労回復は難しかったはずだ。
そこで再開から3戦目、ようやく乾に先発出場の機会が回ってきた。マドリー戦では終盤に途中出場、ビルバオ戦は出番なしときての、大きなチャンスだった。
「ヘタフェ戦」だから苦しんだ
ヘタフェ戦までのエイバルのアタッキングユニットの組み合わせを先発メンバー基準で振り返ると以下のようになる。
【レアル・マドリード戦(4-3-3)】
左WG:デ・ブラシス
右WG:オレジャナ
1トップ:キケ・ガルシア
【アスレティック・ビルバオ戦(4-4-2)】
左WG:オレジャナ
右WG:ペドロ・レオン
2トップ:キケ・ガルシア、セルジ・エンリク
【ヘタフェ戦(4-4-2)】
左WG:乾貴士
右WG:クリストフォロ
2トップ:シャルレス、セルジ・エンリク
再開後に2試合連続で先発出場していたのは、オレジャナとキケ・ガルシアのみ。他の選手はバランス良く順番に起用されている様子がうかがえ、ヘタフェ戦で乾に出番が与えられたのも必然的と言えるかもしれない。
だが、乾にとって「ヘタフェ戦」というのが災難だった。
ヘタフェは「アンチ・フットボール」と称されるほど、ラ・リーガの中でも異質なスタイルを貫くチームで、試合中はとにかくフィジカルコンタクトが多くなる。ファウルもカードも厭わない超アグレッシブな体当たり戦術を相手にすると、大抵はどんな試合も大味な展開になってしまうのだ。
最近は主審もヘタフェの試合では、ファウルの基準を緩くしているのではとすら感じるほど。ちょっとやそっとの接触で笛が吹かれることはなく、バチバチのぶつかり合いがピッチのいたるところで繰り広げられる。今節も例に漏れず、ノーファウルのプレーでも選手が痛むシーンが何度もあった。
前線から激しくボールを追い回し、ギリギリまで人と人の間合いを詰めてくるヘタフェのプレッシングを嫌がって、エイバルのディフェンスラインは簡単にロングボールを蹴り出してしまった。逆にヘタフェも前線へのロングボールや大きなサイドチェンジを多用して攻めてくる。
するとどうか。ボールが乾の遥か頭上を通過し続ける展開になり、“消える”時間帯も長くなってしまった。左サイドで足もとにボールを受けて巧みにキープしながら味方を使うプレーや、相変わらずの守備での献身性も見られたが、持ち味を生かしきれたとは言い難い。
対面したダミアン・スアレス――今季25試合出場で警告13枚、肉体派ヘタフェを象徴する狡猾なDFだ――とのマッチアップでも後手に回った。得意とするカットインからのフィニッシュは全く見られず、フル出場でシュート0本に終わった。
エイバルに見える希望の光
残留争いの渦中にあるエイバルにとって、チャンピオンズリーグ出場権争いをする上位のヘタフェからアウェイで勝ち点1をもぎ取れたことは大きな意味があるだろう。前半終了間際にシャルレスのゴールで追いつき、後半終盤にVARの介入でオフサイドが見破られなければペドロ・ビガスのゴールで勝ち点3を手にできていたかもしれなかった。
ベンチ入り禁止処分によりスタンドで観戦したホセ・ルイス・メンディリバル監督に代わり、タッチライン際で指揮を執ったアシスタントコーチのアンドニ・アスカルゴルタも「ボールに触れた瞬間を測定するのは非常に難しい。オフサイドラインを引いて、2分で判定を下すのも非常に難しい。ピッチ上の2人のレフェリー(主審とヘタフェゴール側の副審)はあれをゴールだと判定したが、オフサイドラインはそれを破棄するべきだと決定したんだ」とVARの介入による微妙な線引きを嘆いた。
彼の言う通り、ビガスのゴールの場面は「ミリ単位」と言えるほど細かな判定だった。実際の映像にオフサイドラインを引いて加工した画像を見せられても、自分なら「間違いなくオフサイドです」と言える自信はない。
3試合連続で勝てていない。とはいえ、希望がないわけではない。マドリー戦では相手のペースが落ちていたとはいえ、後半は試合を支配して多くのチャンスを作った。ビルバオとのダービーマッチでも2ゴールを奪ったのが妥当と言えるだけの決定機があった。
ふとした瞬間に集中力を欠いて足が止まって失点してしまう守備陣に課題があり、前線の得点力にもいくばくかの不安はある。
それでも中断前から様々な組み合わせで戦ってきたため、メンバー構成が変わってもチーム力が大きく減退するわけではないのもエイバルの強みだ。セバスティアン・クリストフォロやラファ・ソアレスといった冬に獲得した新戦力も起用にめどが立ち始めているのも大きい。
これからも過密日程が続くため、重要な局面で必ず乾にも出番が回ってくる。ヘタフェのような肉弾戦を挑んでくる相手は珍しく、今後はより持ち味を発揮しやすい環境でのプレーになるはずだ。上向きのチームとともに、乾にはワクワクが溢れる目の覚めるようなプレーと、エイバルを残留に導く活躍に期待したい。
(文:舩木渉)
【了】