モウリーニョのプラン通りの前半
「世界最高峰のリーグ」と称されるプレミアリーグも、新型コロナウイルス感染拡大の影響による約3ヶ月の中断期間を経て戻ってきた。この再開を心待ちにしていたファンも多いはずで、ここからしばらくは“寝不足になる日常”が続くと言えるだろう。
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さて、プレミアリーグと言えば、やはりビッグ6同士の対決は毎回盛り上がる。今季はとくにチャンピオンズリーグ(CL)出場権争いが白熱しており、現時点でどのチームが大舞台への切符を掴むのか、予想するのが難しい。優勝はリバプールでほぼ間違いないが、CL権争いに関しては最後の最後まで激しいバトルが続くと見ていいだろう。
現地時間19日には、そのCL出場権争いを繰り広げるチーム同士が激突。トッテナムがホームにマンチェスター・ユナイテッドを迎えたのである。
トッテナムはFWハリー・ケインやFWソン・フンミンらが怪我から復帰。彼らを先発で起用し、トップ下にMFエリック・ラメラを置いた4-2-3-1のフォーメーションで試合に臨んだ。
対するユナイテッドもフォーメーションは4-2-3-1。FWアントニー・マルシャルを最前線に置き、左にはFWマーカス・ラッシュフォード、右にFWダニエル・ジェームズ、トップ下に好調のMFブルーノ・フェルナンデスを配置している。
試合は立ち上がりからお互いに慎重な姿勢を見せていたが、プラン通りに時間を進めたのはトッテナムと言えるだろう。守備時は4-4-2のような形になり、各レーンをしっかりと埋めてユナイテッドのビルドアップを阻止。自陣に侵入してきたところでプレッシャーの強度を高め、確実にボールを刈り取ってうまくカウンターに繋げていた。
一方ユナイテッドはボールこそ保持できるものの、なかなか攻撃のスピードが上がらず、GKウーゴ・ロリスを襲うまでには至らず。オフェンスの核となるB・フェルナンデスは低い位置まで下りてボールを引き取り、そこから何本か鋭い縦パスを送り込んだが、トッテナムの集中したインテンシティの高いプレーを前に無力化されてしまった。
すると27分に先制弾が誕生。カウンターからFWステフェン・ベルフワインが自慢のスピードに乗ったドリブルを繰り出し、DFハリー・マグワイアを置き去りにすると右足でシュート。これがGKダビド・デ・ヘアの手を弾いてゴールへ吸い込まれた。
守備から入り、カウンターで仕留める。ジョゼ・モウリーニョ監督のプラン通りに先制ゴールを奪ったトッテナムは、その後もユナイテッドに決定的なチャンスを与えず、前半を1-0で締めた。45分間で支配率は36%と低かったが、シュート数はユナイテッドを上回る6本。それで1点を奪ったのだから、トッテナムにとっては非常に満足いく前半だったと言えるのではないか。
ポグバ投入で流れに変化
後半の立ち上がりも、試合の展開に大きな変化はなかった。トッテナムは守備への意識を高く保っており、ユナイテッドは相手のブロックを前に苦戦。1-0のスコアが動くことはなかった。
しかし、オーレ・グンナー・スールシャールの交代策により、試合は一方的な展開となる。流れを変えたのは背番号6、MFポール・ポグバであった。
63分にピッチに立ったフランス代表戦士は、出場から間もなくして持ち味を発揮。いきなりシュートを放ち、守備では敵陣深い位置でスライディングタックルを仕掛けてボールを奪うなど、積極的なプレーでチーム全体を鼓舞した。
64分にはポグバ→B・フェルナンデスとパスがつながり、最後はマルシャルに決定機。これはMFエリック・ダイアーのブロックに阻まれたが、前半にはなかったスピーディーな展開が、ユナイテッドに芽生えていたのは明らかだった。
B・フェルナンデス、ポグバとボールを持てる選手が大きく躍動したことで、トッテナムは予想以上に自陣深い位置へ押し込まれた。必然的にカウンターの開始位置は低くなり、ケインは前線で孤立。トップ下のラメラはややボールを持ちすぎてしまう傾向にあり、攻撃を加速させるには至らずと、前半とは違って効果的な攻めを繰り出すことが難しくなっていた。もはや守備陣の頑張りに懸けるしかない。トッテナムには、どこかそんな雰囲気が漂っていた。
しかし、81分。ポグバが鮮やかな個人技で右サイドを突破すると、ペナルティエリア内でダイアーがたまらずファウルで阻止。このPKをB・フェルナンデスが沈めて、試合は振り出しに戻った。
トッテナムの勝ち点3奪取の可能性は、この時点で「0」に近かったと言える。先述した通りケインは孤立し、ラメラに代わってピッチに入ったMFジェドソン・フェルナンデスとソン・フンミンらの連係は、決して良くはなかった。ユナイテッド守備陣の奮闘ももちろんあるが、何よりトッテナムの攻撃に得点の匂いを感じることができなかったのである。モウリーニョ監督の表情も、険しかった。
事実、トッテナムは後半シュートわずか4本しか放つことができていない。枠内シュートに関しては0本である。モウリーニョ監督には1点を守り切って…という考えがあったはずだが、現実はそう甘くはなかった。
それでも、守備陣が耐えて1-1で試合は終了。再開初戦で難しいゲームにはなったが、勝ち点1を拾うことができたのは大きかったのではないか。
背番号6の存在は今後も不可欠に
さて、後半はトッテナムを大いに苦しめたユナイテッドであるが、この日のヒーローはポグバで間違いないだろう。もちろんB・フェルナンデスも素晴らしいパフォーマンスであったが、短い出場時間の中であれだけ流れを変えることができたのは、見事という他ない。
ポグバが先発したMFフレッジやMFスコット・マクトミネイらと違ったのは、縦への推進力だろうか。スタメンに名を連ねた二人は再開初戦で少し慎重になっていたのか、ボールを奪ってもシンプルに横へ、あるいは近くの選手にパスを出すシーンが目立った。もちろん、大きなミスもなく随所で力は見せていたが、守備を固めたトッテナムに対してそれが効果的なプレーであったかというと、決してそうではなかった。
対して、ポグバはボールを持つとシンプルに放すのではなく、抜群のコントロールを活かして相手DFをしっかりと剥がしてくれる。守備に重心を置くトッテナムからすると個で剥がされることは致命傷となるが、フランス代表MFはそれを簡単にやってのけ、ホームチームを苦しめたのだ。
チームを救ったPK奪取のシーンは、まさにそうした姿勢があったからこそ生まれたものだ。プレースタイルが異なるためすべての面で比較することは難しいが、仕掛けの上手さや積極性はマクトミネイやフレッジにはなかったものであると言える。
ポグバは約30分間の出場だったが、ドリブル成功数2回を記録。これはチーム内トップの成績である。パス本数は18本と少なかったが、成功率は94%を記録と、安定感は申し分なかった。
スールシャール監督もポグバへの称賛を送っている。
「ポールは世界でも最高の選手の一人だし、彼が戻ってきたことは素晴らしいことだ。彼に出場時間を与えるのは良いことだし、彼も次に向けてさらにフィットしたプレーができるよう、努力するはずだ」(クラブ公式サイトより)
この試合のパフォーマンスを見る限りは、ポグバの身体の状態も良さそうだ。新型コロナウイルス感染拡大の影響による中断前は期待に応えられず批判の的となっていた同選手だが、やはりユナイテッドには必要な存在ということを改めて認識した。この状態を維持し、残り数試合で赤い悪魔を更なる高みへ導くことはできるか。
(文:小澤祐作)
【了】