20分で2人が負傷交代
世の業を全て背負ったかのような、極めて必然的な大敗だったと言えるだろう。
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100日ぶりのプレミアリーグ再開に世界中のファンが歓喜したであろう日に、アーセナルのファンだけは「100日経ってもアーセナルはアーセナルなのだ」と頭を抱えたに違いない。
現地17日にプレミアリーグの延期分2試合が開催され、アーセナルはマンチェスター・シティに0-3で敗れた。また勝てなかった。公式戦ではシティに7連敗。リーグ戦だけで見ても、アーセナルがシティに最後に勝ったのは2015年12月だ。
でも、今回の敗戦はこれまでのものと質が違う。とにかく「運」がなさすぎた。アーセナルを率いるミケル・アルテタ監督は、試合後にこう語る。
「グラニト(・ジャカ)が負傷し、プランを少しばかり変更しなければならなかった最初のところから、全てが間違っていた。今日は起こりうる全てのアクシデントが起こってしまった。我々に残されている試合で、同じようなことが起こらないことを祈る」
アーセナルに関わる誰もが、アルテタ監督に同意するだろう。序盤から想定外続きで、シティに対抗する手立てを講じる余裕は一切なかった。
まず開始2分で味方と交錯したジャカが右足首を痛めてしまう。なんとか立ち上がって直後のセットプレーの守備には参加したが、プレー続行は不可能となり、5分でダニ・セバージョスとの交代を余儀なくされた。
その後は安定したビルドアップで試合の主導権を握ったシティに、アーセナルもまずまずの守備で対応する。特に中央でダビド・シルバやケビン・デ・ブライネにできるだけいい形でボールが渡らないよう、慎重に守れていた。
ところが再びアーセナルをアクシデントが襲う。20分、センターバックのパブロ・マリが左サイドを突破してきたカイル・ウォーカーを懸命に追いかけたところで左足を痛めて立ち止まってしまった。結局、プレーに戻ることはできずダビド・ルイスとの交代を強いられた。
これはアルテタ監督にとってもかなりの大打撃だったに違いない。せっかくベンチ入り選手の数が9人まで拡大され、最大5人まで交代が許されるのに、20分までに2枚のカードを切らざるをえなかった。
後半開始早々に退場者
しかも、最大5人まで投入できても、交代のタイミングはハーフタイムを除いて3回まで(つまり最大4回ある)と定められているのに、20分で2回分を消費してしまったのだ。もしハーフタイムに選手交代を行わなければ、後半に交代カードを切れるのは一度だけ。
過密日程なども考慮して全ての枠を使い切りたければ、一気に3枚替えに踏み切るしかなく、段階的な戦術変更などできなくなってしまった。怪我人発生のリスクをいつも以上に考えなければならない、選手交代により慎重な判断が求められるシチュエーションでもあった。
2人の負傷交代でペースを乱されながらも、アーセナルはGKベルント・レノの好セーブ連発にも助けられ、なんとか前半を0-0で終えられそうな雰囲気が漂い始めた。その時だった。
前半アディショナルタイムの47分、あの男がやらかした。デ・ブライネがアーセナルの左サイドからアーリークロスをペナルティエリア内に送ると、ワンバウンドしたボールを途中から左センターバックに入っていたダビド・ルイスがまさかのクリアミスを犯し、後ろに逸らしてしまう。
そのミスをダビド・ルイスの背後からペナルティエリアに侵入していたラヒーム・スターリングが見逃さず、至近距離からレノが懸命に守ってきたゴールを撃ち抜いた。それほど難しくないように見えたクロス処理のミスから、ついにゴールを許してしまった。
後半に入ると、再びダビド・ルイスがクローズアップされることになる。
49分、シティはGKエデルソンのロングキックで一気に前線へ展開すると、リヤド・マフレズにボールが渡る。ペナルティエリア手前で一気にスピードを上げたアルジェリア代表FWに振り切られそうになったダビド・ルイスは、思わず右手をかけてしまった。
マフレズが倒れたのは、ペナルティエリアの中。もちろん主審は笛を吹いてシティにPKを与え、ダビド・ルイスにはレッドカード一発退場が宣告された。このPKはデ・ブライネが落ち着いて決め、シティのリードが2点に広がる。アーセナルはさらに数的不利となり、敗色濃厚となった。
「彼はドレッシングルームで話をした。とても正直で率直な男だ。自分の感情をみんなに説明していたよ。私のダビドに関する意見は変わらない。私がこのクラブに加わってから、彼がチームのために、私のために何をしてきたか。今夜のパフォーマンスだけで、私の考えが変わることはない」
アルテタ監督はブラジル代表のベテランDFに対する信頼を強調したが、今季2度目の一発退場、しかもチェルシー戦とシティ戦という重要な試合を壊してしまった事実は非常に重い。貴重な左利きだったパブロ・マリが負傷し、ダビド・ルイスもしばらく出場停止となれば、センターバックのやりくりは一層苦しくなる。
退場した本人も「チームはとてもうまくやっていた。特に10人になってからね。監督も選手たちも素晴らしかった。今日の負けは僕のせいだ」と唇を噛んだ。まもなく満了を迎える契約の延長交渉は進んでおらず将来は不透明だが、「僕はここにいたい」と改めて残留を望む姿勢を示している。
心配なのは…
シティ戦の後半はキーラン・ティアニーを左サイドから中央に移し、ブカヨ・サカを左サイドバックにして乗り切ろうとしたが、最終盤に3失点目を喫した。10人になった後の68分にアレクサンドル・ラカゼットやエインズリー・メイトランド=ナイルズ、リース・ネルソンの3人を同時投入したものの、数的不利な状況では焼け石に水だった。
29試合消化時点で、9位アーセナルの勝ち点は「40」だ。来季のチャンピオンズリーグ出場権獲得に向けてシティに勝利したかったが、4位チェルシーとの勝ち点差は8ポイントのまま変わらない。土壇場の大逆転は極めて困難な状況にある。
アルテタ監督は就任以降、着実にアーセナルを立て直してきたが、彼自身がどうしようもないアクシデントばかりが起こった。そもそも本来なら3月に開催されるはずだった試合が、2度の延期を経て、新型コロナウイルス大流行ののちに後味の悪すぎるプレミアリーグ再開初戦となってしまった。
そして最後に、この試合ではシティにも負傷者が出たことにも触れておきたい。もしかするとジャカやパブロ・マリよりも深刻かもしれない。重要な一戦で先発起用のチャンスをもらった若手センターバック、エリック・ガルシアが80分に飛び出してきたGKエデルソンと衝突してピッチに倒れた。
頭を打って全く動かなくなったので、一時的に意識を失っていたかもしれない。試合は約10分間中断し、担架で運び出された19歳のDFは、そのまま病院へと搬送された。周囲の選手たちもかなりのショックを受けた様子がうかがえた。
ペップ・グアルディオラ監督も「恐ろしい出来事だった」と振り返りつつ、「エリックのことをとても心配している。意識はあるが、頭を蹴られるのはどんな時も危険なので、今夜検査を受ける」と明かした。
プレミアリーグで徐々に出場機会を増やしつつあった期待の若手センターバックが、しっかりと検査をして何も問題ない事を確認し、多少の時間がかかったとしても無事に復帰してくれることを祈りたい。
(文:舩木渉)
【了】