前半早々に退場者。ユベントスが数的優位に
新型コロナウイルス感染拡大の影響でリーグ戦やカップ戦の中断を余儀なくされ、一時は「シーズン打ち切り」との報道も出ていたイタリアの地に、ようやく“カルチョ”が戻ってきた。セリエAよりも先に再開の火蓋を切ったのは、コッパ・イタリア準決勝2ndレグ、ユベントス対ミランのカードだ。
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中断前に行われた1stレグの結果は1-1。そのため、アウェイのミランは決勝進出のために最低でも1点が必要という状況だった。しかし、この日の同チームはFWズラタン・イブラヒモビッチ、FWサム・カスティジェホ、DFテオ・エルナンデスの3人の主力が出場停止。ベストメンバー組めぬ中、どのようにしてユベントスに挑むのかはこの日の大きなポイントとなっていた。
試合は立ち上がりからユベントスがボールを支配する予想通りの展開に。パスをテンポよく回しながらミラン守備陣を左右へ動かし、ゴール前ではダイレクトパスを巧みに織り交ぜて得点を奪おうとしていた。2分にはFWドウグラス・コスタがDF2人を交わしシュートを放つなど、ユベントスの試合の入り方は見事だった。
その後もホームチームはミランを攻守両面で圧倒。自陣への侵入すら許さない、完璧な対応で試合の主導権を掌握した。アウェイチームは必死に耐えていたが、いつ失点してもおかしくない状況であったことは確かだ。
そんなミランを更なる試練が待ち受けていた。13分、DFアンドレア・コンティがペナルティエリア内でハンド。PKキッカーを務めたFWクリスティアーノ・ロナウドがこれを失敗したものの、直後のプレーでFWアンテ・レビッチが危険なファウルを犯し一発退場に。ミランは最低でも1点が必要な中、残り70分以上を10人で戦わなければならなくなったのだ。
こうなると、ミランは言わずもがな苦しい。ユベントス相手に点を許したくないが、それでも決勝進出のために1点は取らなければならない。さらに、この日は前線のターゲットマンであるイブラヒモビッチも不在。ボールを奪っても、預け所が定まらない。ステファノ・ピオーリ監督に突きつけられた現実は、あまりにも厳しかった。
カギはディバラ。中盤の役割も重要に
一方でユベントスは、相手に退場者が出たこともあって余裕感のあるプレーを継続。1stレグでアウェイゴールを持ち帰ったことも大きく、C・ロナウドがPKを失敗したとはいえ、焦る気配はまったくなかった。
攻撃のカギはFWパウロ・ディバラが握っていたと言えるだろう。スタートポジションは右ウイングだが、試合の流れの中でサイドに張る機会はそこまで多くなく、より中央寄りのプレーを意識し、C・ロナウドやD・コスタなどと絶妙な距離感を保ちながらミラン守備陣を翻弄していた。
ディバラが力を発揮するためには、インサイドハーフのMFブレーズ・マテュイディとMFロドリゴ・ベンタンクールの働きも重要だった。それがよくわかるシーンが32分だ。
D・コスタが左サイドでボールを持つと、マテュイディがサイドバックとセンターバックのギャップへ走り込む。そこをカバーしようとMFフランク・ケシエが最終ラインまで落ちると、今度はもともとケシエのいたペナルティエリア手前にディバラが移動。完全フリーな状況を作り出したのだ。
残念ながらD・コスタのパスがズレて大きなチャンスとなるまでには至らなかったが、しっかりとボールが渡っていれば可能性が十分といったシーンだった。しばらくゲームを行ってこなかった中でも、こうした連係を自然に発揮できるあたりにレベルの高さを感じることができると言えるだろう。
その後もユベントスはディバラを中心に攻撃を展開。アルゼンチン代表FWは足の振りが早いコントロールショットやゴールに向かっていくクロスなど、多彩なパターンでミランの守備陣を困惑させた。サイドバックからパスを引き出す際にはスプリントも果敢に繰り出すなど、コンディションも良さそうだ。
また、そのディバラを後方で支えるマテュイディ、ベンタンクールのインサイドハーフコンビも見事な働きぶりを継続。攻守の切り替えを素早く行い、ミランの攻撃の芽を確実に潰した。背番号10にも劣らぬ存在感だったと言える。
ちなみにデータサイト『Who Scored』ではディバラに「7.9」、ベンタンクールに「7.5」、マテュイディに「6.6」というレーティングが付けられている。
ミランは耐えたが…
ただ、ユベントスは最後まで点を奪うことができなかった。「選手たちは何週間もソファーに座っていたわけだから、フィジカルとメンタルの状態を完璧にするのは簡単なことではない」(クラブ公式サイトより)とマウリツィオ・サッリ監督が試合後にコメントした通り、後半は疲労の影響もあってチーム全体の勢いが落ちていたのだ。
ミランもGKジャンルイジ・ドンナルンマとDFアレッシオ・ロマニョーリを中心に手堅い守備を展開し、ユベントスの攻撃に必死に耐えた。当然、何度かピンチは迎えていたが、10人になりながら強力なユベントスの攻撃陣を「0」に抑えたのは大きな評価を得るに値するだろう。
しかし、ユベントスに最後まで余裕感があったのも紛れもない事実。攻撃陣は不完全燃焼に終わったとはいえ、守備は大崩れせず、得点を許す気配は一切感じられなかった。
そもそもミランはカウンターの精度があまり良くなく、ユベントスにとって怖い存在ではなかった。守備に追われる中で全体のラインも必然的に下がり、ゴールまでの距離はどんどん離れる。また、後半にはFWラファエル・レオンらが投入されたが、流れを変えられるほどの脅威ではない。選手の層を含め、ユベントスを崩し切るイメージが湧かなかったと言える。
だが、結果論にはなってしまうが、試合を決定づけたのはやはりあの退場だったと言えるだろう。一人少なくなったことにより、ユベントスがより落ち着いてプレーできるようになったのは明らかで、同時にミランも攻撃の核を失い打つ手がほとんどなくなった。
そういった意味で考えると、DFレオナルド・ボヌッチが「スタートは良かった」(クラブ公式サイトより)と振り返った通り、ミランを圧倒したあの試合への入り方で勝負はあっただろう。繰り返し結果論にはなるが、押し込んで押し込んでがあったからこその「退場」という結果、と言えるのではないだろうか。
ユベントスはインテル対ナポリの勝者とファイナルで激突することになる。果たして2017/18シーズン以来となるコッパ・イタリア優勝を果たすことはできるか。
(文:小澤祐作)
【了】