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アーセナル史上「最も辛かった退団」は? ファン心を掻きむしる悲劇の記憶…【アーセナルファン座談会(2)】

「ビッグ6」の一角であるアーセナルは、プレミアリーグを代表する人気クラブの一つだ。その中でも、ここ日本では世界的に見ても頭一つ突き出た人気を誇っている。その理由はどこにあるのか? 今回はサポーター歴の異なる4人のファンにそれぞれのきっかけをうかがいつつ、アーセナルの魅力を全3回で探った。今回は第2回。(取材・文:内藤秀明)

text by 内藤秀明 photo by Getty Images

「勝ち負けだけではなくなってくるのがアーセナル」

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【写真:Getty Images】

――栄光時代を知る樋口さんは、今のアーセナルをどういう風に楽しんでいらっしゃるのでしょうか?

樋口「正直、年を重ねるごとに、一つ一つの出来事に一喜一憂する振れ幅は小さくなる面は少なからずあります(笑)。『クラブをまるごと愛する』という段階に行き着くと、もちろん勝ち負けも重要ですが、それだけではなくなってくるんです。クラブの経営面というか、お金のやりくりに関しても重要視するので、長い目で見ているという側面もありますね。

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 だから例えばアンリがバルセロナに移籍したときも、ちゃんと移籍金を残してくれましたし、クラブにこれまで多大な貢献をしてくれて、なんなら『勇退』の雰囲気もありましたし、特に悲しい気持ちにはなりませんでした。『いってらっしゃい』という気持ちでしたね。

 そういう意味では、個人的に感情的になったことでいうと、05/06シーズンにパトリック・ヴィエラがユベントスに移籍したのは辛かったですね…」

石谷「アーセナルのキャプテンでしたし、攻守両面で欠かせない選手でしたもんね。衝撃的な移籍でいうとアシュリー・コールとかはどうだったんですか?」

樋口「それも、もちろん衝撃でした……。下部組織出身で、20代前半にアーセナルで大活躍し『世界最高の左サイドバック』とまで言われつつあった中でのライバル・チェルシーへの移籍ですからね。本当に辛かったですよ」

「移籍に関してはなにがあってもおかしくない」

――ではこの流れで、ほかの皆さんの「最も辛かった退団」についてもおうかがいしていきたいと思います。一番最近ファンになられた田中さんはどうですか?

田中「僕がファン歴が短いこともあって、主力選手のショッキングな退団は…正直まだないですね」

仲田「僕はアーセナルの移籍に関しては、正直『なにがあってもおかしくない』という心構えで常にいるので、全部受け入れていますね(笑)。最近でいうと、今季開幕前のアレックス・イウォビのエバートンへの移籍も、『経営面から考えればしょうがない』と思いましたし」

――しかも3400万ポンド(約45億円)と、その前年までは伸び悩んでいた選手にしては、高額の移籍金ももらえたわけですもんね。

石谷「ちょっと意外と思われるかもしれませんが、08/09シーズンにミランに移籍したマテュー・フラミニですね。当時、アーセナルよりもミランの方が高い年棒を提示したことにより移籍したと報道されましたが、その経緯も含めてショッキングでした。

 04/05シーズンのアーセナル加入以降、決して絶対的なレギュラーではありませんでしたが、故障者が続出した際は左サイドバックまで務めて、ようやく本職の守備的MFとして覚醒しつつあったタイミングでその移籍でしたから。もっと優遇されるべき選手だと思いましたけどね。

 あとは最近でいうと、昨季終了後にユベントスへ移籍したアーロン・ラムジーですかね。あれだけ長い間チームに貢献してきた選手が最後にフリーで移籍してしまうというのは…。移籍が決まってから大活躍しはじめたので、なおさら退団が痛かったです」

――ラムジーに関しては、今となればかつての同僚、ミケル・アルテタ監督の元でどういう進化を遂げるのかも見てみたかったですよね。

石谷「同じポジションで共に戦った仲間ですし、お互いのことは熟知しているでしょうからね」

アーセナルは名試合メーカー

――では次はポジティブな話題に移して…今までアーセナルのことを応援してきて、「これぞアーセナル!」と思った瞬間、一番興奮した瞬間についておうかがいしていきたいと思います。田中さんはいかがでしょうか?

田中「昨季前半戦、ホームでのノースロンドンダービー(18年12月2日)ですかね。そのシーズンに加入したルーカス・トレイラが移籍後初ゴールを決めた試合です。

 その試合でエジルはベンチにも入っていなかったんですよ。だから『エジルがいなくてもこんなに興奮できるんだ』『自分はもう完全に“エジルファン”じゃなくて“アーセナルファン”なんだ』と実感できた試合でもあるんです。

 試合の展開も、前半早いうちに先制したのにすぐに逆転されてイヤなムードが流れて、それでもピエール=エメリク・オーバメヤンのゴールで追いついて、後半から入ったアレクサンドル・ラカゼットが逆転ゴールを決めて、そしてトレイラがダメ押しゴールを決めて…。

 あの大人しい性格のトレイラがゴール後にユニフォームを脱いで喜びを爆発させていたところも、興奮ポイントの一つでしたね。ウナイ・エメリ政権におけるベストゲームの一つだと思います」

――トレイラがシャイなのは有名な話ですし、なおさらファンとしては嬉しいですよね。

仲田「14/15シーズンの第22節、アウェイでのマンチェスター・シティ戦ですね。サンティ・カソルラが大暴れして2-0で勝った試合です。個人的なことですが、当時僕は大学受験真っただ中で、センター試験を受けた直後にこの試合を観たんです。実はその試験があまりうまくいかなくて、落ち込んでいたタイミングでこの試合を観たので本当に救われましたし、そういう意味ですごく記憶に残っていますね。

 試合展開でいうと、アーセン・ヴェンゲルのアーセナルとしては珍しく引いて守ってカウンターを狙った展開で、『らしくない』戦い方で勝った試合でもありました。そういう意味では、アーセナルにとって一つの『転換期』になった試合かもしれません。そういう節目節目の試合はやっぱり記憶に残りやすいですよね」

――ヴェンゲルは攻撃的であることに重きを置く監督でしたし、本当に衝撃でしたもんね。

石谷「僕は08/09シーズンの第33節、アンドレイ・アルシャビンが4発決めて、アウェイの地でリバプールと4-4の壮絶な打ち合いを繰り広げた“伝説”の試合ですね。

 アルシャビンがアーセナルに加入して直後の試合だったのですが、『なんだこいつは』と思いましたよ(笑)。輝きを放った期間は短かったですが、彼もまたアーセナルらしいロマンあふれる選手だと思います。試合自体も息もつかせぬ展開で、アーセナルは本当に“名試合メーカー”だと思いますよ(笑)。

 特にあの頃はプレミア全体でもああいうド派手な展開の試合は多かったですし、この『伝説の4-4』をきっかけにアーセナルファンいなったという人はチラホラいらっしゃるんです。ああいうエキサイティングな試合を見せられると一気にファンになってしまいますよね」

仲田「4-4でいうと、2011/12シーズンのニューカッスル戦もそうでしたよね。前半のうちに4点決めて勝利は確実かと思いましたが、最終的には4点取り返された、悔しい敗戦ではありますが、いずれにしても派手な試合だったので、記憶には強く残ってます。

「あのストーリーにはグッときた」

樋口「僕は、最近で言うと、13/14のFA杯決勝、ウェンブリー・スタジアムで開催されたハル・シティとの一戦ですね。正直決勝の相手がハルに決まったときは『これは優勝するだろうな』と思いましたが、試合が始まると開始8分間で2失点を喫する予想外の展開で、一気に『これはやばい!!』とヒートアップしていきました。

 当時パブでほかのアーセナルファンと観ていたのですが、みんな試合前は余裕こいていたのに、途中から大声を上げて応援していましたからね(笑)。それでも前半のうちにカソルラのフリーキックで1点返して、後半にローラン・コシェルニのゴールで追いついて、延長後半にラムジーが決勝点を決め、大逆転で9シーズンぶりのタイトルを獲得しました。

 ラムジーに関しては、10年2月のストーク・シティ戦でライアン・ショウクロスにタックルを食らって大怪我を負い、そこから復活してようやく本来の力を発揮しはじめていたタイミングでした。ただ、時々見せる気の抜いたプレーや、ピンチの場面で守備に戻らないところがしばしば批判の対象にもなっていた時期でもあったんです。

 そんなラムジーが試合を通して気迫あふれるプレーを見せ、優勝を決めるゴールも奪いヒーローになる。そういうストーリーも個人的にグッとくるポイントでしたね」

(取材・文:内藤秀明)

【了】

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