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Jリーグ 4年前

小池龍太が追いかける理想の姿。マリノス移籍までの1年、ベルギーでつかんだ新たな感覚

横浜F・マリノスに頼もしい新戦力が加入した。今季、ベルギー2部のロケレンでプレーしていた小池龍太だ。JFLからJ1までたどり着き、日本屈指のサイドバックとして欧州挑戦も果たした24歳はどんな選手なのか。ベルギーでひと皮もふた皮も剥けた昇り龍の頭の中に迫る。(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Yokohama F.Marinos, Wataru Funaki

JFLからJ1、そして海外へ

小池龍太
【写真提供:横浜F・マリノス】

 人が新しい物事に挑戦するとき、そこには必ず動機がある。28日に横浜F・マリノスへの加入が発表された小池龍太は、常に自分にとって厳しい環境に身を置くことで成長の足がかりにしてきた。

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「右サイドバックはすごく層が厚い。それが選んだ理由です。自分も争いに加わって、もっとレベルアップしていきたいですし、そこで(ポジションを)勝ち取ることでまた違う景色が見える」

 小池は昨夏、柏レイソルからベルギー2部のロケレンへ新天地を求めた。しかし、深刻な財政難に陥ったクラブが今年4月に破産宣告を受け、退団を余儀なくされる。「その後にマリノスからお話をいただいて、すごい熱量で説得していただいたので、すぐ行きたいということは伝えました」と、自身の息子の誕生日にちなんで背番号25を選んだ24歳は明かした。

 ようやくつかんだ海外挑戦のチャンス。年間を通してレギュラーとして活躍し、ベルギー2部では図抜けたクオリティをピッチ上で表現していながら、予想だにしない障害が待ち受けていた。

 小池は特殊なキャリアを歩んできた選手だ。JFAアカデミー福島出身だが、卒業時にJリーグクラブからのオファーはなく、当時JFLを戦っていたレノファ山口FCに進む。そこで主力選手としてJ3昇格、さらにJ2昇格に貢献して、徐々にプレーするカテゴリを上げていった。

 山口在籍3年目だった2016年はJ2リーグ戦全試合に出場。3年連続の昇格は逃したものの、小池の活躍は当然上位カテゴリのクラブの目に留まり、J1の強豪・柏レイソルへと引き抜かれた。

 JFLからJ1まで、全国リーグの全カテゴリを経験し、なおかつ上昇を続けた選手はそうそういない。まさに自力で這い上がってきた、叩き上げだ。

 昨年9月、ロケレンで順調に出場を重ねていた小池のもとを訪ねた時、彼は自身のキャリアについてこう語っていた。

「自分のやってきたことが間違っていないということを証明できているし、それは僕自身がこれからも続けないといけないこと。ここからどう成長していくか、ここで何を得るか、何をつかんでいくかは本当に自分しだいなので、もっと多くのことにチャレンジしないといけないと思っています」

なぜ「時間がない」のか

小池龍太
【写真:舩木渉】

 ただ、一方で小池には「時間がない」という感覚があった。海外移籍を考え始めてから、実際にその扉を開くまでに1年半かかり、「自分は若くない」と感じることが多くなったという。

「僕の感覚では、本当に時間がない。海外に挑戦しようと思ってから、最終的には1年半でベルギーに来ることができたんですけど、若い時の方が(海外クラブからの)話が来る回数も多かったし、(クラブの)レベルも高かったし、『そういうチャンスってあるんだな』と思っていたんです。

けど、24歳になって一気に変わりました。それで『時間がない』と思わされましたね。だからこそ今年活躍して、もっと早くステップアップしないと、僕が思っている理想には届かなくなるかもしれないと思っています」

 エリート街道を歩んできたわけではなく、世代別代表の経験もない。J1屈指のサイドバックと評価されるようになって日本代表への待望論もあったが、柏時代に声がかかることはなかった。

 だったら実力で認めさせてやる。「自分自身が結果を残してないから選ばれていないわけで、何も理不尽なことはない。単純に僕の能力が高ければ、誰もが僕を必要とすれば日本代表に選ばれると思うし、それを探すために海外に来た」と強い覚悟を持ってのベルギー移籍だった。

 ロケレンでは不安定なチーム事情もあって、様々なポジションで起用された。本職の右サイドバックはもちろん、右ウィングも、ある時はトップ下でも使われた。「ベルギー2部でもJ1とは1試合のタフさが違うし、1つのボールをめぐるデュエルにも日本では感じられない激しさがあるので、いい刺激になっています」と充実感を語っていた。

 もともと90分間絶えずタッチライン際を上下動することを苦にしないタフさは売りの1つだったが、それに加えて周りの力を活かすプレーにより磨きがかかった。守備のリスクを管理しつつも的確なタイミングで攻め上がり、味方選手の外側や内側を自由自在に追い越してチャンスを広げる。ボールを失えば全速力で自陣に戻り、激しく寄せて奪い返す。

 基礎技術のレベルも非常に高く、トップスピードや激しいプレッシャーを受けてもブレることなくボールを扱える。トップ下を経験したことで、マリノスのサイドバックに求められるような中央寄りでのプレーの感覚もつかんでいるはずだ。

ベルギーで変わったプレーへの意識

小池龍太 天野純
【写真:舩木渉】

 ロケレンでも共にプレーして同じタイミングでマリノスへ戻ってきた天野純も「一緒にやってみて、どの監督でも使われるタイプなんだろうなとすごく感じます。後ろにいてくれて、自分を自由にさせてくれる。だから自分の力を発揮しやすい。本当に助かるし、やりやすいです」と小池の魅力を語っていた。

「まず自分が今のチームメイトを信頼する。そこから信頼を得られると思うし、必要とされると思います。やらなければいけないことを100%でこなしたうえで、近くにいる選手が僕がいることによって少しでも助かればいいなとは思っています。

そういう小さな積み重ねで、気づかないところかもしれないけど、チームを助けつつ結果も見せられれば絶対に必要な選手にもなれるし、見えないところでもやり続けられるのは僕の長所だと思っています」

 昨年9月に小池は自身のプレースタイルについて、そう語っていた。チーム全体を見渡しながら、黒子的な役割を果たせる貴重なサイドバックはベルギーでより結果にこだわるようにもなった。

「単純なもので、結果を残せば日本よりも大きい視野で世界が見えるのが欧州だと思うし、僕も結果にこだわりたい。そういう一心で、日本の時よりもサイドでボール受けたらより多く1対1を仕掛けるし、点を決めるためにゴール前にも行くし、チームを勝たせるために日本の時より1kmでも2kmでも多く走る。

そういったところでピッチに立っている11人の誰よりも目立とうという一心でやることが多い。これまでの僕にあまりなかった感覚です。日本ではバランスを意識することが多かったですけど、ベルギーに来てその割合は少なくなって、自分が評価されるための結果にすごくフォーカスするようになったかなと思います」

 ベルギー2部ではリーグ戦27試合に出場して2得点という成績だった。数字の見た目よりもチームへの貢献度はずっと高い。

 昨季のJ1を制したマリノスでは松原健や前貴之らとのハイレベルなポジション争いに身を置くことになるが、もともと持っていたバランス感覚と、ベルギーで磨かれた結果にこだわる献身性をミックスさせて大きく成長した姿を見られるはずだ。戦術理解さえスムーズに進めば、一気に不動の地位を築いてもおかしくない実力を秘めている。

追いかけ続ける理想の姿

小池龍太
【写真提供:横浜F・マリノス】

 そして、欧州挑戦は1年で終わってしまったが、マリノスへの移籍は決してステップダウンではない。選手としての理想の姿を追いかける上で必然的に巡り合った大きなチャンスだ。

「海外で1シーズン終えたことは自分にとってもプラス材料だと思いますし、いろいろな経験をして、自信を持って悔いなく1シーズンを終えられた。その経験を見せなければ何のために海外へ行ったのかわからなくなってしまうと思うので、今後の自分のプレーでいろいろな経験だったり、海外へ行った意義を見せられればいいと思っています」と小池はマリノスでの新たな挑戦に向けた強い思いを口にした。

 何をモチベーションに、何のためにプレーするかは人それぞれ。稀有な形でキャリアを切り拓いてきた小池は、独特の見方でサッカーを捉えながら、マリノスでも夢を追いかけ続ける。ベルギーで抱いていた向上心や、そこで語っていた夢、選手としての理想の姿は今でも変わっていないはずだ。昨年9月に話を聞いた時、彼がまっすぐ前を見て残した言葉は今も強く印象に残っている。

「曖昧なものですけど、頑張っていれば評価してくれる人がいるし、報われる。僕はそれを信じているからこそ、頑張り続けられるし、それが別に報われなくてもいいとも思っているんです。でも、頑張らなかったら報われないし、頑張ってきたから今こうなっていると思うし、それは続けるべきだと思います」

「別に誰かに似たいとか、どういう選手みたいなキャリアを歩みたいとかはないです。でも、僕みたいなキャリアを歩んでいきたいと思ってくれる、目標を持ってくれる子供たちや、アマチュアの選手たちの見本になりたいというのが僕の理想ですかね。

今まで他の選手が成し遂げなかったことを僕はしてきているし、JFLから海外まで来て、もっと上のステージに行って、『頑張れば小池みたいになれる』『小池みたいになりたいから頑張る』と言われるような、その手本になるべき選手に、最終的に引退するときになっていたい。そのために人間としてもサッカー選手としても、目標とされる選手でありたいし、もっと成長しないといけないと思っています」

(取材・文:舩木渉)

【了】

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