革新的な戦術によって完全勝利を収めたアトレティコ
週中のUEFAチャンピオンズリーグ、週末のリーグ戦が中断、もしくは中止というかつてない状況下で、選手、監督はいったい何をし、何を考えているのだろうか。自宅でもできる数々のトレーニング動画をSNSに上げ、あるいは過去の名勝負数え歌を解説するのも確かに悪いアイデアではない。
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しかし、真のプロフェッショナルであれば、リーグ戦再開後の潮流を予測し、どう身を処すべきなのか、自身、もしくはチームの戦略を練りに練っているはず……というのが、皮肉でもなんでもなく筆者の見立てである。
例えばヨーロッパの再開時はどのようなシチュエーションであるかと言えば、CLに無敵を誇ったあのリバプールはもはやいない、という厳然たる事実がまずある。プレミアリーグでは依然、最強の座にいることに変わりはないものの、ヨーロッパの頂上トーナメントにおいて、少なからず陰りを見せたことは揺るぎようがない現実であろう。
我が世の春を謳歌し続けていたユルゲン・クロップ=リバプールの戦術コンセプトは、相手のボールホルダーに対して4-3-2-1の4列のスロープを作り、タッチライン際に追い込んでボールを中に入れさせない、というものだった。ピッチの奥行を意識しにくいフットボーラーの盲点を利用し、まるで“お化け煙突”が立ちはだかっているような錯覚に陥らせる別名“クロップ魔法陣”のカラクリは、2月発売の別冊『フットボール戦術批評』で公開したとおりだ。
その魔法陣をディエゴ・シメオネ =アトレティコ・マドリーが、CLのラウンド16で早くも見破ってしまうとは、さすがにこちらも予想はしていなかった。シメオネがクロップのパッションを上回った……といった感情的な凌駕などでは毛頭なく、クロップのコンセプトを逆手に取り、“ゲーゲンプレッシング2・0”と呼ぶにふさわしい革新的な戦術による完全な勝利は、アナリストの心をそれこそ揺さぶるものであった。
では、1stレグ、2ndレグを合わせて計210分のいわば“似た者同士”の死闘でいったい何が起こっていたのだろうか。
(文:庄司悟)
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庄司悟(しょうじ・さとる)
1952年1月20日生まれ。1974年の西ドイツW杯を現地で観戦し、1975年に渡独。ケルン体育大学サッカー専門科を経て、ドイツのデータ配信会社『IMPIRE』(現在はSportec Solutionsに社名を変更し、ブンデスリーガ公式データ、VARを担当)と提携。ゴールラインテクノロジー、トラッキングシステム、GPSの技術をもとに分析活動を開始
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