モイーズの失敗
アレックス・ファーガソン監督の後継者になったのはデイビッド・モイーズ。11シーズン率いたエバートンの戦績は上がったり下がったりだったが、02/03、04/05シーズンの2回年間最優秀監督に選出されている。最高順位は04/05の4位、08/09はFAカップで準優勝している。
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ファーガソンの後任として、もっと有名な監督の名も上がっていたが、プレミアリーグでの経験が豊富で同じスコットランド人ということもあり、まずまず妥当な人選とみられていた。そもそもファーガソンの後任という時点で、誰にとってもハードルが高いのは間違いないのだ。
モイーズ監督はフィジカルを重視した伝統的なブリティッシュ・スタイルで、クロスボールをメインとした攻撃が特徴だった。エバートンで活躍した空中戦に強いマルアン・フェライニの獲得はそれを裏付けている。力闘型のスタイルはユナイテッドに合っていたかもしれないが、いかんせん戦術的に古かったといわざるをえない。クロスの本数のわりに点がとれないことをモイーズ監督は嘆いていたが、ハイクロスの数に比例して得点が伸びるほどプレミアリーグは甘くなかった。
モイーズは1シーズンもたず4月に解任、コーチのライアン・ギグスが暫定監督として残り試合の指揮を執り7位に終わった。
ファン・ハールが持つ2つの顔
14/15シーズンはルイ・ファン・ハール監督が就任。大量補強も行われた。アルゼンチン代表のDFマルコス・ロホ、レアル・マドリードからアンヘル・ディ・マリア。さらにオランダ代表でファン・ハール監督の下でプレーしたダレイ・ブリント、さらにアンドレ・エレーラ、ルーク・ショー、ラダメル・ファルカオ。
補強選手の傾向も従来のユナイテッドから変化しているが、何よりモイーズからファン・ハールという監督が大きな変化だ。
アヤックス、バルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、オランダ代表などを率いてきたファン・ハールはベテランの名監督である。その指導力に定評がある一方、考え方が明確で妥協がない。そのため合わない選手も出てくる。それはある程度仕方がないとはいえ、チーム全体と合わないリスクもあった。
ユナイテッドがファン・ハールを迎えるにあたって心配なのは、簡単にいえば細かすぎるところだった。
ファン・ハールはボールを支配して勝つオランダ方式の典型である。ユナイテッドに来る直前に行われた2014年ワールドカップでは、オランダ代表を率いて少し違った面もみせていたが本質的には変わらない。ファン・ハールがやりたいサッカーは同じで、実現するためのディテールも決まっている。
例えば、左側のセンターバックは左利きでなければならない。バルサでは左利きのフランク・デ・ブールを補強した。パスのアングルと奥行きの点で有利だからだ。オランダ式の攻撃サッカーを実現するためのボールの受け方、パスの出し方、動き方など、細かいディテールがある。論理性はファン・ハールの大きな特徴だ。
もう1つの特徴は非常に熱心だということ。高い目標を掲げ、そのためのロジックが緻密で、なおかつ異常に熱心な監督が来るとチームはどうなるか。合わない、ついていけない選手が必ず出てくる。
「監督交代は致命的だった」
「私にとってスターとはチームである」(ファン・ハール)
この信条は多くの監督と同じだろう。ファーガソンもそうだった。ただ、ファン・ハールの場合は、彼のロジックに忠実な選手でないとチームに貢献できないので、ファン・ハールの流儀に適応できない選手は結果的にプレーできない。
ユナイテッドで7シーズンプレーしたラファエウは、ファン・ハール監督が就任した次のシーズンにはリヨンへ移籍した。
「僕を好きでないのは知っている。監督交代は僕にとって致命的だった」(ラファエウ)
ディ・マリアも1シーズンでパリ・サンジェルマンへ去った。「適応するのは無理だった」と話している。
ファン・ハール監督のユナイテッドは14/15シーズンで4位。2年目も大量補強を行った。メンフィス・デパイ、アントニー・マルシアル、モルガン・シュネデルラン、セルヒオ・ロメロなどを獲った。2シーズンでメンバーが刷新されたといっていい。FAカップは12年ぶりに優勝したが、リーグは5位。CLはグループステージ敗退、ELもベスト16までだった。期待と不安の両方があったファン・ハール監督も2シーズンで終了となってしまった。
モイーズからファン・ハールへ、まるで違うタイプの監督を据えてどちらも上手くいかず。ユナイテッドは迷走していた。
(文:西部謙司)
【了】