バイエルン戦へ募る不安要素
2ヶ月前とは大きく変わったフットボールの世界で勝ち続ける難しさを感じているに違いない。
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ボルシア・ドルトムントは、23日に行われたアウェイでのヴォルフスブルク戦を2-0で制した。これでブンデスリーガ再開初戦から2連勝を飾ったことになる。
ホームで宿敵シャルケに勝ち、アウェイではチャンピオンズリーグ出場権争い真っ只中のヴォルフスブルクを下した。2つとも重要かつ困難な試合だったことに疑いはないが、次のカードはそれ以上の意味を持つ一戦になるだろう。
普段なら本拠地ジグナル・イドゥナ・パルクを埋める8万人の情熱的な後押しなしに、バイエルン・ミュンヘンに挑むのだ。ホームアドバンテージのなくなった現状において、純粋にピッチ上での強さのみが試される。
リーグ戦再開後はともに2連勝で、2位ドルトムントと首位バイエルンの勝ち点差は4ポイント。残り7試合というタイミングでの激突は、まさに今季の優勝争いを占う天王山だ。ドルトムントが勝てば首位に1ポイント差まで迫り、バイエルンが勝てば2位との勝ち点差は7ポイントまで開く。
ヴォルフスブルク戦を終えてからバイエルン戦までのインターバルは、わずか2日間しかない。通常のシーズン中でも過酷な日程で、少しでも道を誤れば優勝争いから脱落しかねない一戦に臨む難しさは推して知るべしだ。
現状を整理すると、ドルトムントにとってはネガティヴな要素とポジティブな要素がそれぞれ浮かんでくる。
まずバイエルン戦に向けてネガティヴなのは、負傷者の多さだろう。エムレ・ジャンが復帰し、ジェイドン・サンチョも本調子を取り戻しつつあるが、アクセル・ヴィツェルはいまだ離脱中で、ダン・アクセル・ザガドゥも今季中の復帰は困難。さらにマルコ・ロイスも今季中の復帰が絶望的とも伝えられている。
そんな状況で、ヴォルフスブルク戦ではディフェンスラインの柱、マッツ・フンメルスが前半のみでベンチに下がった。その原因は慢性的なアキレス腱の痛みにあるとミヒャエル・ツォルクSD(スポーツディレクター)のコメントを、独誌『キッカー』などが伝えている。
「チームドクターと話をした。マッツはアキレス腱に違和感がある。彼が火曜日(バイエルン戦)にプレーできることを願っている」
好調の前線。再開後は2試合で6得点
トレーニング中から痛みを抱えながら出場を続けていたフンメルスに関して、ドルトムントを率いるルシアン・ファブレ監督も試合後に「バイエルン戦に出場できるかは何とも言えない」と語った。中2日でどれだけ痛みを取り除けるか、医療スタッフの腕が試されることになりそうだ。
ヴォルフスブルク戦の後半はエムレ・ジャンが3バックの中央に入って奮闘したが、前半とは打って変わって押し込まれる時間帯が長くなった。ヴィツェルも起用できない状況で、仮にエムレ・ジャン、トーマス・ディレイニー、マフムード・ダフードという中央のトライアングルになった場合、攻守に隙のないバイエルン相手に耐え切れる保証は一切ない。
こうした不安要素がある一方で、シャルケ戦とヴォルフスブルク戦を通じてポジティブな印象を残したのは攻撃陣だ。ドルトムントの前線ではアーリング・ブラウト・ハーランドを中心に多彩な2列目のアタッカーや両ウィングバックが絡んでいき、2試合で6得点を奪っている。
さらに交代枠が3人から5人に増えたことで試合中に組み合わせをどんどん入れ替えることができ、タイプの違う選手たちの組み合わせでいくつかのユニットができていきそうだ。もはや代役不在のハーランドに依存しかねない恐れはあるものの、90分間の中で試合の流れに応じて2列目の選手たちの並びを変えることで相手のディフェンスに的を絞らせない。
今季リーグ戦で11得点6アシストのロイスを欠いているのは痛いが、サンチョが万全の状態を取り戻せば問題ない。今後3-4-2-1の「2」はサンチョ、トルガン・アザール、ユリアン・ブラントの3人を中心に回していくことになりそうだ。
再開後の2試合はアザールとブラントのコンビが2試合連続で先発出場している。前者は2試合で1得点2アシスト、後者はシャルケ戦で2アシストを記録した。2人ともハーランドと相性が良く、幅広い役割をこなしている。
ファブレ監督の「偽10番」とは
ブラントは自身に課された役割について、ヴォルフスブルク戦前日にドルトムント公式YouTubeチャンネルで配信された『マッチデー・マガジン』の中で次のように説明している。
「僕はそういう言い方を聞いたことはなかったんだけど、彼(ファブレ監督)は『偽10番』という言い方を好むね。僕に与えられているのは…何て表現すればいいかな…僕たちは1トップと2人の『ウィンガー』で戦っていて、その2人にはインサイドに入っていくことが求められている。彼はそれを『偽10番』と呼ぶんだけど、実際の僕には試合の中でかなりの自由があるんだ。
守備でしっかりとポジションを取ることと、組織的な守備に参加しなければならないから、どこにでも好きなように行っていいわけではなかった。でも、攻撃面に関しては僕がやりたいことがだいたいできる。(本当に楽しそうに見えたけど?)もちろん! 制限されているのは大嫌いだからね。
ゲームプランには従わなければいけないけれど、監督は左に、右に、前に、後ろにと自由に動く自由を与えてくれているし、今は監督がタッチライン際で何を言っているかも聞こえる。とてもやりやすいし、本当に助けられているよ」
今季からドルトムントに加入したブラントは、シーズン開幕当初4-2-3-1のセントラルMFを務めることが多かった。しかし、冬の移籍市場でエムレ・ジャンが加入し、後半戦でヴィツェルとのコンビが確立されるとブラントのポジションは1列前にスライドする。
その後しばらくはトップ下や左ウィングを任され、3-4-2-1が導入された2月以降はハーランドの背後を支える「2」の一角に入ることが多くなった。ポジションを守る必要があるセントラルMFより、自由度の高い動きが可能な「偽10番」を任されたことでプレーの躍動感も高まってきた。
シャルケ戦やヴォルフスブルク戦でも縦横無尽に動き回り、少ないタッチでボールに関わりながらゴール前に進出していくプレーは非常に目立っていた。守備でも与えられたタスクをサボらずこなすブラントは、いまやドルトムントにおける攻守のキーマンの1人になっている。
ゲッツェが構想外になったワケ
一方で、今季限りでの退団が濃厚なゲッツェにはファブレ監督から直接「構想外」が伝えられた。指揮官が痛みを伴ったエピソードをヴォルフスブルク戦前の記者会見で明かしている。
「我々は現在3-4-3(3-4-2-1)でプレーしている。私はゲッツェに『君にとって理想的なシステムではない』と、ハッキリ伝えた。本当のことを言わなくてはいけない」
残酷かもしれないが、これは紛れもない事実だろう。昨季は「偽9番」としてリーグ戦7得点を挙げて復活を印象付けたゲッツェが、なぜ出番を減らしているのか。それは「偽10番」として、あるいは「ウィンガー」としての適性を欠いているからだ。
4-2-3-1のトップ下や1トップとして、つまり典型的な「10番」ポジションに限ればスペシャルな特徴を持っている。一方で中央にもサイドにも進出してスピードや運動量が求められる3-4-3の2列目、「偽10番」をこなすには、ブラントやサンチョのような身体的なタフさが足りていない。
その現実を突きつけられた今、ゲッツェに考えられる起用法はハーランドの控えとして流れを変えたい時間帯に1トップに入るくらい。ヴォルフスブルク戦で全ての交代カードを切り終わった後、86分にベンチで中継カメラに抜かれた背番号10が憮然とした表情で首を振る姿はピッチ上の選手たちの躍動感と対照的だった。
今のドルトムントは、ハーランドにゴールを決めさせることが攻撃におけるファーストオプションになる。強さと巧さを兼ね備えた19歳の怪物ストライカーは、スルーパスに抜け出しても、クロスに合わせてもゴールネットを揺らせる稀有な能力を有している。
そのうえで両ウィングバックのアクラフ・ハキミやラファエウ・ゲレイロは高精度クロスでアシスト源になるだけでなく、ハーランドの恩恵を受けて自らゴールを奪う回数を増やしている。そして彼らが輝けるのは、ピッチをところ狭しと動き回ってゲームを作るブラントやサンチョ、アザールといった「偽10番」の献身があってこそだ。
守備時の基本ポジションは「ウィンガー」的で、押し込まれれば5-4-1のサイドプレーヤーとして振る舞う。攻撃時にはインサイド気味のポジションから全体のバランスを見つつも自由に動いて「10番」として決定的な場面に絡んでいく。これがファブレ監督なりに編み出した「偽10番」の考え方と言えるのではないだろうか。当然かなりのプレー強度とインテリジェンスが求められるものの、5人交代が可能になった今はより一層力を発揮しやすい環境が整ってもいる。
2ヶ月のブランクが空いてもドルトムントのチームとしての機能性が失われていないことは、シャルケ戦やヴォルフスブルク戦で改めて証明された。優勝争いの天王山、バイエルン戦ではハーランドを孤立させることなく2列目のアタッカーたちがいかに輝けるかがドルトムント勝利への鍵になる。
(文:舩木渉)
【了】