時代の潮流に抗う2人の監督
個と組織。守備と攻撃。正統派のアプローチと、異端のアプローチ。
【今シーズンの欧州サッカーはDAZNで!
いつでもどこでも簡単視聴。1ヶ月無料お試し実施中】
フットボール界を動かしているのは、多種多様なアイディアであり、アイデンティティーである。その多様性こそが、戦術を進化させる原動力となっている。
今シーズン(編注:本書は2017年刊)に限って言えば、2つの大きなトレンドが主流を占めている。ペップ・グアルディオラが牽引する、「ポゼッション」を突き詰めようとする流れと、クロップやトーマス・トゥヘルなどが追求する「プレッシング」で活路を切り開こうとする発想だ。
これら2つのアプローチは、守備的か攻撃的かという文脈で捉えられているが、実態は微妙に異なる。ボールをつなぐ、ボールを奪うというスタンスの違いはあるにせよ、いずれも自らアクションを起こし、ゲームの主導権を握っていこうとする点では共通している。
またペップなどは、ボール・ポゼッションの原理主義者でありながら、バルセロナ伝統のプレッシングの伝導者でもあるという、相矛盾する顔を同時に持ち合わせてもいる。彼がフットボールの戦術論において、常に脚光を浴びる所以だ。
だが、このような時代の潮流に抗う監督が2人だけいる。
ジョゼ・モウリーニョとディエゴ・シメオネである。
モウリーニョに関しては、詳述するまでもないだろう。守備ラインを深く引いてカウンターを狙い、リスクを最小化する。時には自陣のゴール前に「バス」を停めることさえ厭わない。モウリーニョは、徹底的にリアリスティックなアプローチで結果を出してきた。ヨーロッパのメガクラブは、必ずしもモウリーニョのアプローチを好まないとしてもである。
他方のシメオネは、「アンチ・フットボール」と評されるような戦い方を武器に、アトレティコ・マドリーで奇跡を演じてきた。バルセロナとレアル・マドリーを退けてリーガのタイトルを奪い、二度もチャンピオンズリーグのファイナルまで駒を進めたのは、チーム予算や選手の顔ぶれを考えれば、驚異としか言いようがない。
アトレティコのフットボールの特徴は、厳密な守備のプランとインテンシティの高いプレー、そして献身的なハードワークにある。
むろんシメオネとて、引いて守ってばかりいるわけではない。アトレティコはリーガを主戦場としている以上、サポーターを喜ばせるためには、適度に攻撃も展開する必要がある。
しかしリーガの試合でも、シーズンの山場となるビッグゲームや、コパ・デル・レイなどのカップ戦、チャンピオンズリーグの大一番になると、守備的なアプローチは透徹。シメオネが率いるチームは、自陣のゴール周辺をひたすら固め、敵の攻撃の芽を容赦なく摘んだうえで、数少ないチャンスから確実に得点をもぎ取ろうとする。
また配下の選手たちは、試合を有利に運んでいくためであれば、誰の目にもはっきりとわかるようなファウルをしたり、露骨に時間稼ぎをしたりするのも厭わない。守備的な戦い方とともに、シメオネ配下のアトレティコが「アンチ・フットボール」と評される所以だ。
(文:ジョナサン・ウィルソン、田邊雅之)