ライバルと外国資本
1998/99シーズンのトレブル(3冠)達成後もマンチェスター・ユナイテッドは強かったが、ライバルもパワーアップしてきていた。
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2001/02シーズン、プレミアリーグをアーセナルが獲る。02/03はユナイテッドがリオ・ファーディナンドの補強も奏功して覇権を奪い返すが、03/04はアーセナルが無敗優勝を成し遂げる。ユナイテッドとアーセナルはライバルとして火花を散らし、アレックス・ファーガソンとアーセン・ベンゲルの両監督も鋭く対立していた。
二強体制のプレミアリーグにチェルシーが台頭してきたのが04/05シーズンである。2003年にロシア人のロマン・アブラモビッチがオーナーとなり、未曾有の大補強を続けていた。03/04のUEFAチャンピオンズリーグでFCポルトを率いて優勝したジョゼ・モウリーニョ監督を引き抜き、アーセナルとユナイテッドを制してプレミアリーグ優勝を果たす。
05年5月、米国人マルコム・グレイザーの一族がユナイテッドの筆頭株主になった。このとき、オールドファンを中心に大規模な反対運動が起きている。
プレミアリーグが経済的な成功を収め、外国人選手の流入が始まり、1995年のボスマン判決が拍車をかけた。やがて外国人監督が流入し、この時期には外国資本が入ってきてクラブの経営権を握るようになっていった。チェルシーはその先駆けで、ユナイテッドが続いたという流れになる。やがてマンチェスター・シティは中東資本によって長い低迷から飛躍する。
強化の決め手になるのは編成であり、補強だ。そして補強にはお金がかかる。市場がグローバル化すれば、選手の年俸や補強資金は上がり、莫大な投資が必要だ。そういうわけで最終的にはクラブの財力がものをいう。グローバル化の先頭を走ってきたプレミアリーグにとって外国資本流入は必然だった。
ピンポイントの補強
マンチェスター・ユナイテッドも補強によって栄光を築いてきたが、21世紀までのそれはピンポイントにとどまっている。エリック・カントナはクラブの歴史を変える存在だったが、その後の躍進を支えたのはホーム・グロウンと呼ばれるユース出身のデイビッド・ベッカム、ライアン・ギグス、ガリー・ネビル、ポール・スコールズたちだった。
2001年、フアン・セバスチャン・ベロンを当時プレミア史上最高額の移籍金2810万ポンドでラツィオから獲得している。グルーバル化の流れに乗った形だ。
ところが、ベロンの獲得はユナイテッド史上最大級の失策といわれる結果に終わった。セリエAで大活躍したベロンは当時世界最高クラスのプレーメーカーだ。あれだけの名手なので、全く何もできなかったわけではない。ただ、小さな食い違いやミスに自らフラストレーションを溜めて崩れていった印象があった。
同じシーズンに獲得したルート・ファン・ニステルローイは大活躍している。CLでデニス・ローの持っていた得点記録を塗り替えた。ユナイテッドが外国人選手の獲得に失敗続きだったわけではない。ただ、“フレンチ・コネクション”をフル活用したアーセナル、豊富な資金であっというまに多国籍軍を作り上げたチェルシーと比べると、グルーバル化の流れに乗り切れていなかったかもしれない。
モチベーターだったファーガソン
イングランドの監督はリクルーターとモチベーターという2つの能力が重視されてきた。
ファーガソン監督は優れたモチベーターで、チームを一枚岩に結束させる手腕に定評があった。妥協のない勝負師であり、監督就任時にはチームに蔓延していた飲酒習慣を断ち切ることから始めている。選手を激しく叱責する“ヘアドライアー・トリートメント”(髪の毛が逆立つほどの説教)が有名になったように、厳格なリーダーとして知られていた。
リクルーターとしても若手の発掘や燻っている才能の開花に手腕を発揮した。一方で、突出した存在を許さず、年俸のスキーム制を敷くなど周囲と格差を広げすぎないようにしていた。カントナだけはアンタッチャブルだったようだが、特別扱いの選手は作らなかった。それがユナイテッドの強さを形成した半面、存在が大きくなった選手がチームを去る現象が続くことにもつながった。
2003年にファーガソン監督と衝突したベッカムがレアル・マドリードへ移籍。06年には起用法をめぐって監督と対立したというファン・ニステルローイがレアルへ。ユナイテッドで成長したクリスティアーノ・ロナウドも09年にはやはりレアルへ移籍した。
どうしても敗れなかった壁
ただ、エースが入れ替わりながらもファーガソンの言う「ユナイテッドというバス」は、お構いなしに走り続けた。2001年からの10シーズン、アーセナルやチェルシーと競いながらもプレミアリーグで5回優勝している。07/08はチェルシーとのプレミア対決の決勝をPK戦で制してCL優勝も成し遂げた。
補強はベロンのような外れもあれば、ディミタール・ベルバトフのような微妙なケース、大当たりしたロナウドもあった。歴代GKはペーター・シュマイケルからファビアン・バルテーズ、エドウィン・ファン・デルサールと外国人補強で安定していて、DFも大きな外れはない。技巧派のアタッカーを取り込むのが難しかったようで、その後の香川真司やフアン・マタ、アンヘル・ディ・マリアも成功していない。これはユナイテッドの体質と関係があり、そこに変化をつけたくて補強したのだろうが、結果的に消化できていない。
ただ、伝統のハードワーク、フィジカルの強さをベースにしたユナイテッドは、補強の当たり外れはあっても一貫して強かった。CLでも07/08の優勝後も2度ファイナルへ進出している。しかし、いずれもバルセロナに敗れた。栄華の絶頂にあって、どうしても破れない壁が存在していた。
(文:西部謙司)
【了】