覇権を争うマンチェスターの両雄
2011/12シーズン、プレミアリーグの優勝争いは、マンチェスターの2クラブによって繰り広げられた。マンチェスター・シティは開幕から14戦無敗とスタートダッシュに成功して首位を走ったが、後半に失速。28節のスウォンジー戦に敗れ、マンチェスター・ユナイテッドに首位の座を譲った。
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シティはそれでも終盤に巻き返しを見せ、36節のマンチェスター・ダービーを1-0で制して首位に再浮上した。最終節を残して両者は勝ち点86で並び、シティが得失点差+63で、+55のユナイテッドをわずかに上回って首位に立っている。
シティは最終節でクイーンズ・パーク・レンジャース(QPR)と対戦した。QPRは1試合を残して残留ギリギリの17位につけており、18位のボルトンとの勝ち点差は2ポイント。得失点差で9上回っていることも加味すれば、QPRは事実上、引き分け以上で残留が決まるという状態だった。
マンチェスター・シティはQPR戦に4-4-1-1の布陣で臨んでいる。中盤にはヤヤ・トゥーレとガレス・バリーが並び、このシーズンに加入したセルヒオ・アグエロを最前線に、カルロス・テベスをセカンドストライカーに配置した。サミル・ナスリは左、ダビド・シルバは右がスタートポジションだったが、流動的に動き回って攻撃の起点となっていた。
引き分けでもいいQPRは自陣に4-4-2のブロックを敷いた。シティは立ち上がりから攻め立てたが、なかなかゴールに結びつかない。すると、同時刻で行われた最終節でユナイテッドが20分にウェイン・ルーニーがゴールを決め、ライバルにプレッシャーをかけた。
ハーフスペースの攻略
9年が経った今、改めてこの試合を見て感じるのはシルバの巧さだった。スペイン代表をユーロ連覇へ導いたシルバは、シャビやアンドレス・イニエスタとスペイン代表で見せていたような華麗なサッカーの一端を、シティでも見せている。
シルバはこの試合のはじめからハーフスペースにポジションをとっている。シルバは右サイドだけでなく、左でも同じようなポジションを取り、ペナルティーエリアの隅周辺を浮遊してチャンスメイクを図っていた。
先制点が生まれたのは39分。サバレタのクロスは相手に跳ね返されたが、自ら拾ってハーフスペースにいたシルバにボールを下げる。サイドバックがサバレタに、サイドハーフがシルバに対峙したことで、QPRのサイドバックとセンターバックの間に大きなスペースが生まれた。
これを突いたのがヤヤ・トゥーレだった。フリーでシルバのパスを受けると、ツータッチでカットインしたサバレタにパスを送る。QPRの左サイドバックを務めるタイエ・タイウォに対し、トゥーレとサバレタという1対2の状況が生まれ、サバレタが抜け出した。ゴール前に侵入したサバレタが放ったシュートはGKの手に当たったが、ボールはポストに当たってゴールへと収まっている。
歴史に刻まれる大逆転劇
左太ももを痛めていたトゥーレはハーフタイムを待たずにピッチを後にした。前半を1-0とリードして終えたシティだったが、後半早々にミスから失点。何でもないハイボールのクリアを、センターバックのジョリオン・レスコットが目測を誤って後ろにそらしてしまう。これを拾ったQPRのジブリル・シセがゴールを決め、試合は振り出しに戻った。
54分、ボールのないところでカルロス・テベスを肘打ちしたジョーイ・バートンが一発退場となり、シティは思いがけない形で数的優位になった。しかし、QPRはアルマン・トラオレの左からのクロスに、ジェイミー・マッキーがダイビングヘッドで合わせてゴールネットを揺らす。シティは35分を残していたが、10人のQPRに2-1とリードを許してしまった。
QPRは10人全員がディフェンシブサードに引きこもった。スペースを埋められたシティは、ナスリやシルバが積極的にミドルレンジからゴールを狙ったが、ゴール前に停められたバスに阻まれ続けた。シティは次第に強引な攻撃が増え、ゴールをこじ開けることができない焦りがプレーに表出していた。
試合は90分が経過し、5分のアディショナルタイムが計上された。この時点でシティは絶望の淵に立たされている。ユナイテッドは1点のリードを保ったまま試合を終えようとしていた。しかし、追加タイムが2分を過ぎたところで、シルバが蹴った18本目のCKをジェコが頭で決めてシティが同点に追いつく。さらにその2分後に劇的なゴールが決まる。
セルヒオ・アグエロが中央から縦パスを入れる。ペナルティーアークで受けたマリオ・バロテッリは倒れながらも右サイドにボールをはたく。これに走り込んだアグエロは相手を1人かわし、2人のDFとGKの届かないゴールのニアサイドにシュートを突き刺した。
ビッグクラブへの第一歩
5分間のアディショナルタイムで、マンチェスター・シティは地獄から天国へ這い上がった。優勝を意味するタイムアップのホイッスルが鳴った瞬間、GKジョー・ハートはボールを高く蹴り上げて喜びを爆発させ、48000人の観衆はピッチへとなだれ込んだ。
ユナイテッドも先制点を守り抜いて勝利したが、シティが得失点差で上回り、44年ぶりのリーグ優勝を決めた。プレミアリーグは16季続けてリバプールを除くビッグ4が制していたが、5クラブ目の優勝クラブが誕生した。
シティは09/10シーズン途中に監督に就任したロベルト・マンチーニの下、毎年のように巨額な資金を移籍市場に投下して戦力を強化してきた。10年夏にはヤヤ・トゥーレ、マリオ・バロテッリ、ダビド・シルバを、翌夏にはセルヒオ・アグエロ、サミル・ナスリ、ガエル・クリシーを獲得した。初のプレミアリーグ優勝は、大型補強が実を結んだことによってもたらされたものだった。
シティはその後、マヌエル・ペジェグリーニ監督の下で13/14シーズンに、ジョゼップ・グアルディオラ監督の下で17/18シーズンから連覇を達成している。今やビッグ6の中心となるクラブの一つになっている。11/12シーズンの奇跡の優勝を9年後に振り返ってみると、名実ともにシティがビッグクラブになる一歩目だったように見えた。
(文:加藤健一)
【了】