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Jリーグ 5年前

「Jリーグは無観客でやるべき」。感染症対策の権威に聞くコロナウイルス問題。「政府は間違いを認めない」【インタビュー前編】

感染症対策の権威であり、大型客船ダイヤモンド・プリンセス号に乗り込み、早い段階から新型コロナウイルスに対する警鐘を鳴らし続けてきた神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授は、国内外のサッカーに関しても造詣が深い。YouTubeどころか、まだ国際映像も一般的ではなかった1980年代のユーゴスラビア代表に注目し、サフェット・スシッチ(元ボスニア・ヘルツェゴビナ代表監督)のプレーが好きだったというから、筋金入りである。言うまでもなくスシッチはイビツァ・オシムが「パリ・サンジェルマンで最高の選手」と讃え、1990年のイタリアW杯を戦う上で中心に据えた選手(その役割はトーナメントが進むにつれて新鋭のストイコビッチとともに担うことになるのだが)である。いまだ収束の見えないパンデミックが世界中で猛威を振るう中、Jリーグ再開に向けての提言を前後編で訊いた。今回は前編。(本インタビューは当初、緊急事態宣言が出される前の4月2日に行われ、その後、メールによる質問等でアップデートしている)【取材・文:木村元彦】

text by 木村元彦 photo by Getty Images

Jリーガーが感染したという理由でJリーグが延期というのは間違い

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【写真:編集部】

――村井チェアマンが、Jリーグ再開の無期限延期を発表しました。いつまでという先が見えないだけにスタジアムでこそ醸成されてきたサポーター文化がこのままでは潰えてしまうのではないかという危惧も叫ばれています。

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岩田「今の段階で言うと、我々が従来持っていた密着する文化というのはサッカーに限らず全部もう絶えているわけですよ。ゴール裏の応援は密集した中で展開されるし、チャントだって大きな声をあげて選手を鼓舞するから意味があります。試合後もイギリスだったらパブで飲んだり、日本なら居酒屋で試合を振り返るというのが、サッカー観戦の一つの醍醐味でもあった。

しかし、現在は感染を避けるためにソーシャルディスタンスといって、人と人の間を2メートル離れなきゃいけないという事態になっています。近づく、集団を作る、密集する、我々が培ってきた文化の多くはそういうものから成り立っていたのが、今はそれが全部アウトになっている。スタジアムに駆けつけるサポーター文化が絶えるというのは今後の感染の行く末にかかっていると思うのでまだわからないですけど、少なくとも現段階ではそういったものが、できなくなっているのは事実ですね」

――Jリーグでも一番最初に開幕を前提にしてスタジアム内における接触や、あるいは声援についての自粛を呼びかけていたチーム、ヴィッセル神戸に所属の酒井高徳から気の毒なことに陽性反応が出てしまった。今、JリーグやJFAの方から、岩田さんに問い合わせやアドバイスを求めてくるという動きはないですか。

岩田「それはないですね。僕の知る限り、Jリーグは賀来(満夫・東北医科薬科大学特任教授)先生たちがアドバイザーになっていらっしゃっていて、専門家の意見を聞いているので、基本的には僕と考え方はそんなに大きくは変わらないと思います。

それから酒井高徳の件ですが、まずそれはJリーグの開催の是非を議論する前提にはなりません。なぜならば、Jリーガーが感染したということと、Jリーグによって感染したというのは問題が別です。Jリーガーが感染したという理由でJリーグが延期というのは間違いです。世界中で、おそらく百万人を超える人々が感染している中で、こういう人は感染しないという人は存在しないわけです。普通に社会生活を送ろうと思っていても感染してしまうわけで、酒井高徳は非常に気の毒な被害者であり、もちろん責められるいわれもない。

そして、それは別にサッカーがもたらしたリスクではないので、サッカーのアクティビティを下げる形で反映させるのは間違いなのです。もちろん、感染したJリーガーが試合に出られないのは当然ですし、周囲の濃厚接触者がモニターされなきゃいけないのも当然なんですけど、それとこれとは話が別です」

今、一番怖いのはコロナウイルスよりも人間です

岩田「むしろJリーグを進めるかどうかの最大のポイントは観客の方にあります。なぜなら観客の方がはるかにリスクが高い。青空の中でサッカーをするというのは、感染リスクとしてはかなり低い行為です。それでも試合で感染する人は出てくるかもしれませんが、密集状態、密閉状態で言えば、サッカーをしている方が電車に乗るよりもリスクは低いわけで、サッカーをするのが許されないのだったら、電車に乗ることも許されてはならない。

問題点はやはり観客で、個人的に僕は無観客試合でやるべきだと思っています。客席を空けるとかの対策は1カ月前だったらOKだったと思いますが、特に東京と大阪であれだけ感染が広がっている中では、ちょっと許容できないリスクだと思いますね。観客は例えアウェーの人が移動しなかったとしても、あるいはスタジアムの中では距離が保たれていても、スタジアムに行くまでがすでに密集なわけですよ。大体、電車に乗っている時などもサポーターで埋め尽くされている。

試合そのものは大したリスクではないのですけど、興業とした場合、特にサッカーは何万人もの人が集まるわけで、東京、大阪では許容できない。東京、大阪が許容できないということはJ1においての多くは許容できないわけです」

――スタジアムへの導線を考えた場合に三密になるケースはかなりありますね。

岩田「無観客試合にしても試合はダゾーンで見られるわけですよ。いろいろ不満はあるかもしれないけども、生命リスクと天秤にかければサッカーを見られるだけでも幸福じゃないかという考え方が当然できるわけで、これが未来永劫続くとなると耐えられないと思いますが、少なくとも今年、あるいは来年、再来年といった期限で我慢の時期があるのはある程度やむを得ないのではと思っています」

――最近復刊された『感染症は実在しない』(インターナショナル新書)を興味深く読んだのですが、構造構成主義で、現象はあるけれども、病気というものは存在するのかどうかという問いですね。感染があるか、ないかを検査結果のみのデジタルで捉えるとゾーニングも失敗する。今回の状況に当てはまっていると思いました。現在、新型コロナウイルスを巡る報道でも何が問題なのかはともすると見逃されていると。

岩田「かなり見逃されていますよ。問題の実態をちゃんと把握していない人の方がはるかに多い。私の意見では今、一番怖いのはコロナウイルスよりも人間です。我々が戦うべき敵は人間ではないはずです。だから人間を戦いの対象にしてはダメで、例えば武漢の中国人は敵ではない。あの人たちはむしろウイルス感染の被害者です。

人間は大体、恐怖に駆られるとやることは一緒で、もちろん自分は助かりたいし、怖いことは避けたいと思うわけですが、すぐに評論家になって感染者を叩く。食事をしたり、電車に乗ったりするのは、自然なことで別に悪辣なふるまいではない。悪ならば、それは当然禁止しておくべきです。禁止していないにもかかわらず、それで感染が起きるとみんなでよってたかって袋叩きにする。

しかし、同じ活動をしても感染していない人は叩かれていないわけです。つまり、起きた結果に対して怒られているわけです。京都産業大学で感染が広がったときも、学生はすごく軽率なことをした、と多くの人が怒っていますけど、(京産大に誹謗中傷の電話やメールが寄せられた。『感染した学生の住所を教えろ』という声が届き、また一般学生たちも飲食店の入店を断られたり、アルバイトをクビになった)それならば小学校、中学校、高校だけでなく大学も閉じるべきでした。

大学のアクティビティをオープンにしておいて、感染が起きると責めるのは酷いダブルスタンダードです。JFAの田嶋会長も気の毒に感染されましたが(4月2日に退院)、絶対感染しない、という人はいない。すべての人が罹患する可能性があるわけですから、同じプロセスを経ていてもその結果だけを見てバッシングする、謝罪させる、というのはおかしいのです」

政府は絶対検証はしないですよ

――今の事態を見て現在はどんな調査をされていますか。

岩田「僕は今、小中高を休校にして感染が抑制されたかを解析しています。結局、この病気は重症化しやすいのは1歳未満なんです。広げるのは20代と30代。だから小中高を閉じても的外れなんです」

――しかし、こういう検証は発令した政府がやるべきではないですか。

岩田「政府は絶対検証はしないですよ。間違いを認めないからです。仮に適切じゃなかったとしても、最善は尽くしたとかの結論になってしまう。僕がクルーズ船に入った時も中の感染対策がメチャクチャだったと報告しましたが、700人の感染者が出たにも関わらず、しっかりやっていたということになってしまった。

サッカーの世界はシンプルで結果がすぐ出るので、例えば10何連敗していたら、いくら監督が、自分たちはしっかりと戦っていると言っても誰も信用してくれない。しかし、今回の感染症の場合は、アウトカムが明確じゃないから、それが問題なのです。

例えば感染者を100万人未満、死者は50人以内に抑えるとか、数字で設定すると、具体的に判定されてしまうわけです。だから役人、政治家は絶対にそれは言わない。彼らが言うのは全力でやりますとか、頑張ります、そういう空虚な空々しい言葉しか言わない。失敗をしてもそれを認めずに真摯に向き合わない。サッカーをやらせちゃダメですよ、ああいう人たちは」

――4月7日の記者会見で安倍首相は、ようやく『8割の移動を減らし、2週間で患者を減らす』とアウトカムを明示しました。(この質問は緊急事態宣言後の4月9日に送らせていただいた)

岩田「はい、日本感染対策史上初めてのことです。ちょっと感動しました。あれは首相のというより、誰かライターのスピーチだと思いますが、覚悟を感じましたね。もっとも、多くの官僚は『あんなこと言ってうまくいかなかったらどうするんだ』と苦々しく感じていると思いますが。ああ言っておけば、万一うまくいかなかったとしても、その方法は『うまくいかない』として、例えばより強力なロックダウンの動機づけにできます」

――しかし、東京オリンピック・パラリンピックについてはすでに2021年7月に開会式まで設定して開催の意向を発信しています。

岩田「僕も東京オリンピックは開催できるんですか? とよく聞かれたんですけど、やるためには2つの条件が必要だと言ってきました。それは日本の中で新型コロナウイルスの感染症が7月までに沈静化すること、これはやってやれないことはない。しかし、同時にほかの国も沈静化していないといけないわけです。

日本人だけでオリンピックをやるのではなく、ヨーロッパからもアフリカからもオセアニアからも南米からも選手が来ないといけない。外から人が呼べないオリンピックなんてありえないわけです。これから可哀想なのは、アフリカですよ。近々で沈静化するのはまず無理な状態です。

特にオリンピックという大会はコロナウイルスとメチャメチャ相性が悪いんです。感染拡大のために絶対に避けなければいけない三密がありますね。密閉空間、密集場所、密接場面のこと。サッカーはまだオープンエアなのでマシなんですが、卓球、バドミントンとか室内での競技、これらは公正を期すために風さえ通らないようにしてプレーをする。あと密接というか密着する格闘技、レスリング、柔道、空手、テコンドー、これらの競技は感染予防を考えるとまったく向いていない。

だから、そもそもオリンピック競技は三密を考えると向いていないのです。その上、世界中から人を呼んで変則的な日程と場所でいろいろな種目をやる。個人的には、中止にしてもかまわなかったと思います。そもそもが五輪憲章の精神が見えない。真夏の日本でやるという時点で、スポーツのクオリティのことなど考えていないというのが、わかってしまいます」

【後編はこちら】

(取材・文:木村元彦)

▽岩田健太郎(いわた・けんたろう)

神戸大学都市安全研究センター感染症リスクコミュニケーション分野教授、同大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授、同大学医学部附属病院感染症内科診療科長・国際診療部長。1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現・島根大学医学部)卒業後、米国ニューヨーク市のコロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院、同市ベスイスラエル・メディカルセンターなどを経て2008年から神戸大学。著書に『抗菌祖の考え方』(中外医学社)など。マンチェスター・ユナイテッド、ヴィッセル神戸のファンで、好きな選手はアンドレス・イニエスタ。


『サッカーと感染症 Withコロナ時代のサッカー行動マニュアル』

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長期で感染症と付き合わざるをえない時代に突入した今、サッカーも新しい形になっていく必要がある。この本では大のサッカーフリークでもある感染症の第一人者・岩田健太郎教授が、独自のフットボール異論を世に問う。

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【了】

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