森保ジャパンでも存在感抜群
新型コロナウィルスの感染拡大によって、東京都、神奈川県、大阪府などに緊急事態宣言が発令された。東京都に隣接する埼玉県も対象地域に含まれており、同地に本拠を置く浦和レッズは緊急事態宣言が出る前の今月5日から活動休止に入っていた。当面はこの状態が続くという。
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「新型コロナウィルスの問題は1人ひとりが真剣に向き合わないと終わらないことだと思います」と34歳のエースFW興梠慎三もコメントを発表したが、21歳の若い橋岡大樹はそれをしみじみ感じながら自宅待機しているはず。
浦和のアカデミー育ちの人間として、宇賀神友弥が発信した「浦和レッズがない生活はとても退屈だと思いますが、みんなでこの危機的状況を乗りきりましょう」という言葉も胸に刻みつつ、公式戦再開を待ちわびているだろう。
浦和のトップチーム昇格した2018年にいきなりJ1リーグ戦で25試合出場1得点という実績を残した若きッFは、2019年にさらなる飛躍を遂げた。U-20ワールドカップはケガで出場できなかったものの、森保一監督には高く評価され、U-22日本代表の一員として10月のブラジル遠征や11月のU-23コロンビア代表戦に参戦。12月にはEAFF E-1サッカー選手権でA代表デビューも果たした。
完敗を喫した韓国戦でも橋岡は献身的な動きと力強い守備を披露し、東京五輪メンバー入りに大きく前進したと見られた。
2019年のJ1での出場実績は負傷で長期離脱した分、18試合出場2得点と前年を下回ったが、10月6日の清水エスパルス戦のように自らの働きでチームを勝たせられる選手へと変貌を遂げた。
「清水戦では0-1で負けている状況で興梠選手の同点弾をアシストし、自分が決勝点を決められた。自分が2得点に絡んでいるので強く印象に残っていますし、今のところ史上最高のゲームと位置づけています」と本人も言葉に力を込める。
目標に掲げるのは「優勝」と…
東京五輪イヤーとなるはずの2020年は「レッズのJ1制覇と自身の二桁アシスト」を目標に掲げ、シーズンに突入。2月21日のJ1開幕戦・湘南ベルマーレ戦でもさっそくフル出場し、勝利に貢献した。その矢先に新型コロナウィルスの感染が広がり公式戦が延期を余儀なくされたのは本人も悔しかっただろうが、目標設定は変わっていない。4度のJリーグ再開延期という混乱が続く中、橋岡自身もブレることなく前だけを見据えているつもりだ。
「チームとしてはもちろん優勝しかないですね。今はチーム全体が本当に1つの方向を見ています。今年は攻撃的なサッカーをやるという大槻(毅)監督についていこうと士気が高まってるし、レオナルド選手も加わって決定力もアップした。(興梠)慎三さんも含めて点の取れる選手がいるのは心強いです。
自分が二桁アシストという目標を達成できれば、ゴールに関わる回数が多くなる。チームが勝利できる確率も上がってくると思うんです。これまで以上にサイド攻撃のバリエーションを増やせれば理想的。そこをテーマに掲げています」
昨季まではサイドバックやウイングバックがメインだった橋岡だが、活動休止前の3月のトレーニングでは4バックの中央に入ってセンターバックとして実戦形式のメニューをこなす場面も見られた。U-20日本代表ではセンターバックを務める機会も多かったが、公式戦再開後の超過密日程を踏まえると、浦和でも今後そういう場面が増えるかもしれない。
センターバックに関しては、鈴木大輔と岩波拓也が2月21日の湘南戦でコンビを組んでいた。それ以外にもマウリシオやトーマス・デンもいて、2018年ロシアワールドカップ日本代表の槙野智章でさえもレギュラーをつかめていない。
守備のユーテリティーとしての価値
サバイバルは熾烈だが、今後のスケジュールを考えると使える選手は多いほどいい。今季は中断期間が3ヶ月を超える見通しで、コンディション調整は想像を絶するほど難しくなる。30代の鈴木や槙野がケガで離脱するリスクも考えられるだけに、やはり万能型の橋岡があらゆる役割を高いレベルでこなしてくれれば、大槻監督も非常に心強いだろう。
「自分のストロングポイントは運動量と守備。そこは自信を持っています」
こう強調する橋岡が守備陣をリードする存在になってくれれば、チームの若返りや活性化はさらに進む。そして彼自身も1年延期された東京五輪出場により近づいていくだろう。U-20ワールドカップを棒に振った彼にとって、東京五輪は自身初の世代別代表での世界大会になる。
本来であれば、今年その舞台に立って、秋以降はA代表として2022年カタールワールドカップアジア最終予選に参戦するというのが理想的なシナリオだったが、五輪が1年ズレ込んだことで五輪とワールドカップ予選の日程が重なってくる。そこで、橋岡をどう使うのか、どちらを優先させるのかは、指揮を執る森保監督の思惑次第ということになる。
本人は「どんな状況にも柔軟に対応したい」と意気込んでいるはず。実際、A代表の最終ラインは高齢化が進んでるだけに、冨安健洋と同世代の若いユーティリティプレーヤーがほしいのは確か。橋岡には大きなチャンスが広がっている。それをつかめるか否かは、波乱続きの2020年をどう過ごすのかにかかっている。
これまで内田篤人や酒井宏樹という優れたタレントが担ってきた日本の右サイドに新風を吹かせる存在になることを強く願いたい。
(取材・文:元川悦子、取材日:2020年2月14日)
【了】