無双の3シーズン
ジョゼップ・グアルディオラ監督の2年目、2009/10シーズンもバルセロナの「一人勝ち」状態は続いた。UEFAスーパーカップ、スーペルコパ、クラブワールドカップ、そしてリーガ・エスパニョーラ2連覇とタイトルを獲りまくる。唯一、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)連覇は逃した。
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準決勝で対戦したインテルにアウェイで1-3、ホームは1-0で勝利したが合計2-3でジョゼ・モウリーニョ監督のインテルに屈している。インテルは深く引いて守備を固め、カウンターアタックで初戦をものにしたのが大きかった。
「ボールを70%程度支配できれば、試合の80%には勝てる」
これはヨハン・クライフが監督の時代からのバルサの教義だが、100%勝てると言っていないのがバルサらしい。思うようにボールを支配しても20%ぐらいは負ける試合もあることを自覚している。インテルに負けた準決勝は、その20%だったといえる。
ただ、本当は少し違っていると思う。10/11シーズンはリーガもCLも優勝するが、11/12は再びCL準決勝でチェルシーに敗退していて、スコアは2年前のインテル戦と同じく合計3-2だった。このころのバルサのボール支配力は抜群で70%を超えることもあり、インテルやチェルシーに対してもボール支配はできていた。しかし、勝てていない。トータルでは8割以上勝てるとしても、インテルやチェルシーのクラスの強豪相手では、そこまで勝率は高くなかった。CL準決勝あたりで20%の負けが出る。
強力なカウンターアタックを仕掛けてくる相手に対して、バルサの選手たちは「アンチ・フットボールだ」と非難していた。しかし、それはあまりにも一方的な見方と言わざるをえない。バルサは勝つためにボールが必要なチームだが、そうでないチームもあるのだ。ボールを放棄したからといって試合を諦めたことにはならず、攻撃する力がありながら守備に徹するのは卑怯というより、たんに戦い方が違うにすぎない。
ただ、バルサに対抗する手段が堅守速攻しかなかったのも事実だった。ある程度、運だのみにならざるをえない。それ以外の方法で対抗できるようになるまでに、ヨーロッパの居並ぶビッグクラブでも4年かかった。
メッシ依存の始まり
ペップの下での鮮やかな4シーズンの最後は11/12シーズンだった。
CLではマンチェスター・ユナイテッドとの二度の決勝を制し、敵将アレックス・ファーガソンに「彼らは一晩中パスを回し続けられる」と感嘆された。11/12のCLではチェルシーに不覚をとったものの、スーペルコパ、UEFAスーパーカップ、クラブワールドカップとタイトルを獲り続けていた。しかし、主力選手に病気、怪我が続発した影響もあってリーガ4連覇を逃し、グアルディオラ監督が退任する。
グアルディオラ監督はバルサの伝統を踏襲しながら、クライフの構想を拡大して新しいバルサを開拓していった。偽9番、偽SBに偽CB、3-4-3の復活など、さまざまな新手を繰り出していった。ただ、そこにはその後に通じる問題点もすでに表れていた。リオネル・メッシへの依存と共存だ。
バルサはグアルディオラ監督の2年目にズラタン・イブラヒモビッチを獲得している。CFにズラタンを据え、メッシを右ウイングに戻す予定だった。しかし、結局はメッシのファルソ・ヌエベを復活させ、不満を溜めたイブラヒモビッチをグアルディオラが制御できなくなって放出に至っている。
11/12シーズンにはセスク・ファブレガスを獲得、メッシと縦関係の2トップあるいはダブル偽9番を試したが、こちらもメッシ依存から脱却する決定打にはなっていない。そもそもメッシほどのスーパースターに依存するなというほうが無理である。
とはいえ、あまりにも大きな存在感ゆえに特別扱いされ、周囲の才能が吸い取られてしまう。メッシのソロ・プレーを侵害しないため、守備負担を軽減するため、シュートチャンスを譲るため、周囲にはなにがしかの負荷がかかる。それが一定限度を超えると金属疲労を起こして崩壊がはじまる。それを避けるためには、適宜にチームを組み替える必要があった。
今日まで続くメッシとのつき合い方は、すでにペップの時代に始まっていた。バルセロナは世界でも唯一といえる哲学とプレースタイルを伝統芸能の域にまで高めたクラブだが、その育成機関で育て上げた天才によって、自らのアイデンティティを脅かされるまでに至るのだ。それはもう少し後の話になるのだが。
無効化された勝利の法則
グアルディオラ退任に伴い、アシスタントを務めていたフランセスク・ビラノバが後任に就いた。ところが、ビラノバ監督は重病を患い12月に離脱を余儀なくされ、ジョルディ・ロウラがケア・テイカーとなる。この12/13シーズン、ヨーロッパのライバルたちはようやくバルサ攻略法を見つけ始めている。
CLラウンド16で対戦したACミランは、右のハーフスペースから動くメッシに対して、早めにCBが前へ出て防ぐ手段を採った。ライバルのレアル・マドリードも同様の対策を採っていた。しかし、より決定的だったのはメッシ対策ではない。
準決勝で対戦したバイエルン・ミュンヘンは第1戦4-0、第2戦3-0、合計7-0と完全にバルサをノックアウトしてみせた。これまでもバルサが敗れることはあったが、いずれもカウンターで勝利を盗まれるような負け方にすぎず、不運な20%の日と片づけることもできた。だが、バイエルン戦の0-7はそういう種類の負け方ではない。
バルサのポゼッションに続くハイプレスに対して、バイエルンはバルサのようなパスワークで対抗してみせた。バルサのプレスは空転し、バイエルンの鋭いカウンターを食らい続け、やがて疲弊してボール支配さえ握られた。ポゼッションとハイプレスの循環というバルサの勝利の法則がはじめて無効化されたといっていい。
4年間続いた、ヨーロッパのバルサ包囲網はようやく痛烈な対抗策を示し、ここから別の局面に移行することになった。
(文:西部謙司)
【了】