「失うものは何もない」
「個人的には変わらずエスパルスでしっかりやって東京五輪に出たいと思っていますけど、マコ(岡崎慎)にしろ、他のチームに移籍した選手なんかは、本当に『勝負の年』と考えている。そういう中での延期というのはコンディションもモチベーションも難しいのかなと。
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年齢制限の問題もあるし、代表に関してはみんなもどかしい気持ちでいっぱいだと思います。僕自身はエスパルスの新しいサッカーをモノにするのが一番の近道かなと。今季はJ2降格もなくなったし、失うものは何もないので、積極的にチャレンジするだけですね」
ピーター・クラモフスキー新監督率いる新生・清水エスパルスで、身長191cmの大型DF立田悠悟は目の色を変えてハイライン戦術の習得に取り組んでいる。2月23日のJ1開幕戦、FC東京戦では自らのミスで失点しているだけに、より確実な守備をして、攻撃の起点となることも意識しながら、3ヶ月超に及ぶ長い中断期間を過ごしているという。
そんな立田にとって、1つの試金石になったのが、3月28日に無観客で行われたジュビロ磐田との練習試合だった。同じ東京五輪代表候補の小川航基ら現時点でのベストメンバーを1試合目に揃えた磐田に対し、清水はFC東京戦から複数の選手を入れ替え、公式戦では使っていなかった3-4-3の新布陣で戦った。3バックの左には福森直也が入り、立田は2試合目に回された。
これはあくまでテスト的なメンバー構成だろうが、キャプテンを務めるDFと言えどもレギュラーが保証されているわけではない。その危機感からか、2試合目に出場した立田はキレのあるパフォーマンスを見せ、8-0の勝利に貢献。クラモフスキー監督の求めるハイラインでの守備やビルドアップの部分で多少なりとも前進を示した。
新監督の言葉に「心を打たれた」
「周りから笑われることかもしれないけど、監督は『本当に今年はチャンピオンになりたい』と言ってたし、自分はその言葉に心を打たれました。だから、今年は本気で狙いにいっていますし、このサッカーと監督を信じてやっていけばいいとチーム全員が考えていると思います。
監督が横浜F・マリノスで指導を始めた2年前の2018年はかなり苦しみましたけど、僕らはマリノスじゃない。マリノスと同じことをやっていてもいけないし、試行錯誤しながら自分たちの良さを出していけばいい。そこに個人の能力をプラスできれば、本当に総合力の高いサッカーになる。みなさんに楽しみにしていてもらえたらと思います」
立田は新たなスタイルを前向きに捉えていた。
1試合目と2試合目の合計で磐田を11-2で下し、J1の底力を示した清水。新たにチャレンジした3バックも1試合目より2試合目の方が機能し、チームとしてのバリエーションや戦い方の幅が生まれたのも確かだろう。そこも立田にとってはプラス要素。4バックでも3バックでも柔軟にこなせれば、東京五輪代表に行っても、A代表に行っても臨機応変にプレーできるようになるからだ。
立田は「3枚だったら3枚の良さがありますし、4枚には4枚の良さがある。3枚の場合は勢いよく攻めにいけるので、攻撃のシーンが多くなってくると思いますし、それを思い切って出せばいい。J1再開後は超過密日程になるので、いろいろな戦い方ができないといけないですし、誰が入っても同じようなサッカーができることを自分たちの強みにしないといけない。本当に今こそチームの力、個人の力が試されるので、この時間をうまく生かしていくことが大事だと思います」と、公式戦のないこの時期にしっかりと力を蓄える構えだ。
サッカーができる幸せを噛み締めて
J1の再開時期が定まらず浦和レッズやガンバ大阪、セレッソ大阪、サンフレッチェ広島らが6~7日以上の長期オフを取る中、新体制に移行したばかりの清水は通常通りのサイクルで練習を続けている。
平日は負荷の高いトレーニングをこなして戦術理解を深め、週末の練習試合で進化の程度をチェックしていくというやり方を、キャプテンの立田も大いに歓迎している。むしろ、そうやってハードに追い込めることを幸せに感じることもあるという。
「オーストリアにいる航也(北川=ラピッド・ウイーン)くんとは連絡を取り合ってますけど、『本当にちょっとした買い物以外、外に出ないでほしい』という感じらしくて、家で動いたりしてるみたいです。暇なのか分からないけど、結構、連絡をくれています。
そういう話を聞くと、練習できてるだけでも幸せなのかなと思うし、練習試合にしろできるのが当たり前じゃないと改めて感じさせられます。日本は恵まれている。その時間を大事にしないといけないですよね」
サッカーのできる日常に感謝しながら、来たるJ1再開に向かっていく立田。日本人屈指の高さを武器にする大型DFが足元のつなぎの力を高め、守備の安定感も引き上げることができれば、1年後に延期された東京五輪の日本代表も安心感が増す。彼には右肩上がりの軌跡を描くべく、前向きなチャレンジを続けてほしいものだ。
(取材・文:元川悦子、取材日:2020年3月21日)
【了】