シティの核となっていたフェルナンジーニョ
ところが今季の試合をつぶさに見ていくと、この“ゲーム支配”の構造が大きく崩れていることに気付かされる。
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実はシティはシティで当然彼ら特有の構造を持っており、先ほどの5レーンからのインナーラップという必殺パターンにしても発動条件が諸々あったりする。それが大外のWGがスペースのある状況で前向きに相手SBに向かって仕掛ける瞬間であり、シティではこれが攻撃のスイッチとなっている。
守る側からこの状況を見ると、1対1を仕掛けられているSBの視野はボールに集中せざるをえない。DFはドリブルを仕掛けられている状況では首を振れないのである。この瞬間を目ざとく逃さないのがSBの背後を駆け抜けるシティのIHで、特にデブライネはこの瞬間を見極めるセンスが天才的。逆に言うと、いくらデブライネでも大外のWGが相手SBの注意を惹きつける状況を作ってくれないと、インナーラップは効果を発揮しないということでもあるのだが……。
一方で仕掛けるほうのWGもWGで、そもそも仕掛けられる状況でボールをもらえるかどうかという発動条件がある。シティのサイド攻撃の特徴は、相手の守備が整い、これ以上ボールサイドを深追いしても無理だと判断した場合、即座にボールを下げてやり直すところにある。これも無駄なボールロストからカウンターを食らう回数を減らすための〝ゲーム支配構造〞の一つだといえるだろう。
この下げられたボールを受けるのが5レーンの後ろで待機するアンカーのフェルナンジーニョで、彼の強みはここから逆サイドへ手数をかけずスムーズにボールを循環させられる能力である。
この逆サイドへの循環が速ければ速いほど、守る側のスライドが遅れ、その分逆サイドで待っているWGの前には仕掛けるスペース(時間的優位)が生まれる。これがWGが仕掛けられる構造であり、シティの攻撃スイッチになっている。
仮にもしフェルナンジーニョがマンマークで消されている場合は、CBのラポルト、ストーンズまで下げ、そこから必殺の対角パス一本でサイドを変えられるという二段構成も盤石だった。
負傷者続出…崩れた時間的優位性
ところがだ。今季はシーズン開幕早々の段階でラポルト、ストーンズが相次いで戦線離脱という緊急事態に陥り、フェルナンジーニョとオタメンディで急造CBを組む苦しい台所事情になってしまった。
こうなるとまずアンカーの位置にフェルナンジーニョが不在となるが、こういうときのために補強したアンカーのロドリはまだ完全にフィットし切れておらず、ギュンドアンはロングレンジの展開を得意としていない。そしてラポルトであれば一発でサイドを変えられる場面でも、オタメンディだと5mの横パスをつなぐのが精いっぱいという状況である。
その結果何が起きたか。これまでであれば1本のパスで逆サイドまで到達していたパスが2、3本と増えた。サイドチェンジにしても蹴るまでに2、3タッチと余計なタッチがかさむ場面が散見され、最終的に逆サイドのWGにボールが届くころには相手の横スライドが間に合っている状態に。これでWGが優位性を持って仕掛けられる時間的優位がまず崩れてしまっている。
次にWGが後ろ向きの苦しい状況でボールをもらう回数が増えた分、インナーラップのチャンスは削られ、この状況下で単純に上げるクロスに対して相手の守備陣形は崩れていない(位置的優位性の消失)のだ。ゆえに跳ね返されたセカンドボールから一定の確率で相手のカウンターが発生してしまう。
本来であればこの状況下において最も重要な働きをしていたのがアンカーにいるときのフェルナンジーニョで、彼は相手のカウンターが発動するその初手を潰してしまう名人であった。驚異的な守備範囲の広さとボール奪取能力でボールを敵陣で奪い返してしまうか、悪くてもカウンターの加速を止めて相手に横パスやバックパスを強いて時間を作ることができる。
つまり、シティが作るゲーム構造ではアンカーの位置(フェルナンジーニョ)こそが守備のファーストラインだったのだ。ここで相手のカウンターに対しプレッシャーをかけて遅らせている間に前線がプレスバックしてきて第二波(つまり前線が守備のセカンドライン)として守備網に加わる。カウンターチャンスのはずだった相手チームは気付けば前後から包囲されており、苦し紛れのロングボールを蹴らされて第3ラインのCBがこれを楽々回収というのがシティ本来の守備構造である。
(文:龍岡歩)
【了】