アーセナルの人員整理
新型コロナウイルスの感染拡大は収束の気配すら感じられないが、世界中が対策を講じている。不安を煽るだけのワイドショー、「感染は自己責任」という非常識すぎる発言で物議を醸す女子柔道メダリストに惑わされず、われわれも日々の暮らしでうがい、手洗い、消毒、換気など、できるかぎりのディフェンスをしなくてはならない。
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アーセナルのミケル・アルテタ監督も新型コロナウイルスに冒された。すでに快方に向かっており、「暖かいサポートに感謝します。いま、われわれは前例のない困難に直面していますが、みなさんとともに乗り越えましょう」とSNSで発信した。プレミアリーグ再開の日を待ちながら、監督就任からこんにちまでを振り返り、来シーズンにも想いを馳せているに違いない。
英国のメディアが指摘し、前回のコラム(アーセナルが整理すべきポジションは? マンUは守護神を見切る? ビッグ6の命運を握る夏の補強プラン【粕谷秀樹のプレミア一刀両断】)で筆者もレポートしたように、アルテタ監督が着手すべき最大の案件はセンターバックの整理だ。
このポジションはレギュラーふたり、バックアッパーが2~3名で、上限は5名が妥当と考えられる。しかし、現時点でダビド・ルイス、パブロ・マリ、スコドラン・ムスタフィ、ソクラティス・パパスタスプーロス、ロブ・ホールディング、カラム・チェンバーズと計6名。ローン移籍しているコンスタンティノス・マブロパノス(ニュルンベルク)、ウィリアム・サリバ(サンテティエンヌ)を含めると計8名も抱えている。どう考えても人員過多だ。
CBのターゲットは…
しかもレベルが高くない。ムスタフィ、ソクラティス、ホールディング、チェンバーズ、マブロパノスは上位チームでレギュラー、いや、ベンチ入りすら難しく、FAカップのポーツマス戦で好パフォーマンスを披露したマリは未知数だ。1試合で消えていった選手は掃いて捨てるほどいる。D・ルイスもポカが少なくなく、各方面で「いずれはワールドクラスに!」と絶賛されるサリバも、プレミアリーグは一度も闘っていない。
したがって、是が非でも即戦力を補強する必要がある。移籍を示唆したソクラティス、ミスをしても反省しないムスタフィ、定位置を約束されないと不満分子になるD・ルイスを放出、換金の対象とし、彼らに代わるトップランクの選手を2~3人、獲得しなくてはならない。
現在、アーセナルのターゲットといわれているのはナポリのカリドゥ・クリバリ、ライプツィヒのダヨ・ウパメカノだ。前者はメガクラブすべてが欲する超一流で、市場での競争はなかなかハードだ。後者とは相思相愛といわれているものの、21歳のCBにはチェルシーやレアル・マドリードなど、経済力でアーセナルをまさるクラブが接触を図ろうとしている。
プレミア所属の補強候補
ここはプラン変更した方が得策だ。競合が多い交渉相手を避け、知名度よりも実績で、プレミアリーグを熟知する選手の獲得を優先すべきである。
例えばマンチェスター・シティのジョン・ストーンズ。度重なる負傷でフォームを崩し、ジョゼップ・グアルディオラ監督の信頼をすっかり損ねてしまった。クラブ内の序列も下がる一方だ。しかし、CBとしての能力は水準以上。精度の高いフィードをアルテタ監督(昨年末までシティのアシスタントコーチ)も評価しており、適切なオファーを届けさえすれば交渉は順調に進む公算が大きい。ロンドンは、マンチェスターより住みやすい。
バーンリーのジェームズ・ターコウスキも悪くない選択だ。シュートブロックはリーグ屈指。フィードの精度も申し分ない。集中力も研ぎ澄まされ、D・ルイスやソクラティス、ムスタフィが犯すような凡ミスは極めて少ない。
さらに、ポゼッションの起点となるルイス・ダンク(ブライトン)、ネイサン・アケー(ボーンマス)、ビッグクラブがこぞってスカウトを派遣するベン・ゴッドフリー(ノーリッジ)など、補強の視点をプレミアリーグに絞った方がいい。ダイレクターを務めるエドゥのコネクションでブラジル系ばかり補強するのではなく、プレミアリーグのプレー強度にすでにフィットしているタイプを選んだ方が時間の無駄も省ける。諸外国からイングランドへ──は、環境適応能力にも一抹の不安がある。
日本代表CBの可能性
さて、筆者の推奨株がひとりだけいる。プレミアリーグは未経験で、世界のビッグネームでもない。ただ、この男のポテンシャルをもってすれば、アーセナルでも定位置を確保できるのではないだろうか。イタリアからイングランドという環境の変化にも、即座に対応できるのではないだろうか。
ボローニャの富安健洋だ。偽右サイドバックとして、守備的戦術の論陣が絶えないセリエAでも、「試合を重ねるごとに対人守備の安定感が増してきた」と高く評価されている。元来、ボールコントロールが柔軟で、スピードもある。188cmの長身を利したエアバトルの強さには定評があり、ビルドアップにも積極的に関与する。富安は世界基準に近いDFといって差し支えなく、アーセナルが獲得を真剣に考慮すべき人材のひとりだ。
D・ルイスやソクラティス、ムスタフィが主力では不安すぎる。新シーズンのCBはストーンズを中心に、タルコウスキ、ダンク、富安などで構成する。レフティを欲しているのならアケも有力だ。
はるか先を行くライバルとの差を少しでも詰めたいのなら、CBは完全刷新が必要だ。現有勢力に気を遣っていると、いつまで経っても前に進めない。トップランクに値しない選手は、名門アーセナルを去るべきだ。ノースロンドンの強豪には、真の実力者と、野心の塊のような若者こそがふさわしい。
(文:粕谷秀樹)
【了】