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キ・ソンヨンは久保建英の最高の相棒になるか。日韓の2大スターがマジョルカを1部残留に導く

先月25日、ラ・リーガのマジョルカは元韓国代表MFキ・ソンヨンとの契約締結を発表した。3度のFIFAワールドカップ出場歴を持つ31歳のベテランは、残留争い中の新天地に何をもたらすだろうか。そしてマジョルカに所属する日本の至宝・久保建英との関係はいかなるものか。日韓の2大スターが1部残留の救世主となるかもしれない。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

韓国リーグ復帰を模索するも…

キ・ソンヨン
【写真:Getty Images】

 また1人、アジア人スターがスペインリーグに参戦する。ラ・リーガでは史上7人目の韓国人選手だ。1部で残留争い中のマジョルカは先月25日、元韓国代表MFキ・ソンヨンとの短期契約を発表した。同クラブには日本代表MF久保建英も所属している。

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 背番号10を与えられた経験豊富な31歳のMFは、今年1月31日に双方合意のもとでニューカッスル・ユナイテッドとの契約を解除していた。そのためマジョルカ加入にあたって移籍金は発生していない。とはいえ今季はニューカッスルで173分間しか公式戦のピッチに立っておらず、試合勘などに不安は残る。

 マジョルカ加入までの経緯も複雑だった。キ・ソンヨンは昨年12月から母国・韓国のKリーグ復帰に向けて古巣のFCソウルと交渉を重ねていたが条件面で折り合わず。プレミアリーグ時代に受け取っていた高額な給与がネックになり、大幅な減俸提示に難色を示したという。Kリーグの最高年俸は15億ウォン(約1億5000万円)程度で、FCソウルからキ・ソンヨンに提示されたのはそれ以下の額だったようだ。

 その後、昨季王者の全北現代モータースも韓国屈指のスター獲得に乗り出した。しかし、今度は2009年に選手自身がFCソウルからスコットランドの名門セルティックへ移籍した時に交わしていた契約条件が大きな障害になったという。

 キ・ソンヨンは当時、セルティックがFCソウルに支払った移籍金240万ユーロ(約2億9000万円)の一部を直接受け取ることになっていた。その額は100万ユーロ(約1億2000万円)にのぼるとされ、代わりにKリーグ復帰の際はFCソウルと優先的に交渉することと、他クラブと契約する際は10年前に受け取った額の倍にあたる200万ユーロ(約2億4000万円)を違約金としてFCソウルに支払わなければならないことがわかったのである。

 中国や中東とのクラブとも接触し、北米MLSの複数クラブとも交渉したが条件面で折り合いがつかず。キ・ソンヨン本人は「条件が良くなくとも、選手に心を込めて話をすることができる部分もある。僕にはそういったものが全く感じられなかった。僕のことを本当に欲しがっていないようだった」と、古巣FCソウルへの恨み節を残して再び渡った。その行き先はマジョルカ島だった。

プレミア通算187試合出場の経験値

 現在ラ・リーガで18位に沈み、1年で2部降格の危機に瀕しているマジョルカにとっては貴重な戦力になるだろう。キ・ソンヨンが最も得意とするセントラルMFのポジションはガーナ代表のイドリス・ババと、今月36歳になる大ベテランのサルバ・セビージャに頼らざるを得ない状況が続いていた。選手層の薄さはマジョルカの課題だが、特に中盤の力量不足は顕著だった。

 イドリス・ババは対人の強さが際立つものの、展開力には期待できずビルドアップの面で貢献度が低い。視野が狭く、ポジショニングの悪さや試合ごとのプレーの波もある。サルバ・セビージャは年齢の影響もあって毎試合90分間のプレーを続けることは難しく、スピードやアジリティの不足から守備面で後手を踏む場面も散見されていた。どちらかといえばトップ下気質のプレーヤーのため、ビルドアップで試合のテンポを作るような能力はあまり高くない。

 一方、キ・ソンヨンは大柄なセントラルMFとしてイングランドで8シーズンにわたって活躍してきた実績を持つ。スウォンジーやサンダーランド、ニューカッスルでプレミアリーグ通算187試合出場15得点11アシストという成績を残している。

 身長189cmの体格を生かした守備だけでなく、国際Aマッチ113試合出場を誇る韓国代表でセットプレーのキッカーを務めていた右足の精度も抜群。ゲームメイク力に長け、配球の緩急で試合のテンポを作ることもできる。

 マジョルカは大半の試合で劣勢に追い込まれるが、その中でもビルドアップが安定せず効果的な攻撃に繋げられない傾向がある。攻守にバランスのとれたキ・ソンヨンがセントラルMFに入ることでディフェンスラインから前線への組み立てのルートが整理されるはず。

 アントニオ・ライージョとマルティン・ヴァリエントによる不動のセンターバックコンビから、中盤のキ・ソンヨンやダニ・ロドリゲス(あるいはアレイシ・フェバス)、最前線のブディミルまでのセンターラインに1本の芯が通ることによってチーム全体のバランスが整っていけば理想的だ。

ビルドアップが安定すれば…

久保建英
【写真:Getty Images】

 新たな背番号10の影響力は、前線の選手たちにも恩恵をもたらす。もちろん右サイドでの起用がメインの久保にとっても、キ・ソンヨンの存在は大きな後押しになるだろう。中盤からの配球が安定して両サイドやトップ下の選手に効果的なパスが入るようになれば、ゴールを生み出せるクオリティを備えた選手たちが揃っている。

 前線で孤軍奮闘して9得点を挙げているクロアチア人FWアンテ・ブディミルのシュートチャンスや、クチョ・エルナンデスや久保が決定機に絡む回数も増えていくだろう。キ・ソンヨンの武器である正確無比な中長距離のパスを起点にしたカウンターも威力を発揮するに違いない。

 押し込まれてボールが自陣と敵陣を頻繁に行き来する強度の高い展開になった時、ロンドン五輪銅メダリストのベテランがチームを落ち着かせることで、前線のアタッカー陣が試合から消えがちになって攻撃の道筋を見出せなくなる課題も徐々に解決に向かうのではないだろうか。そうなれば1部残留を目指して勝ち点を積み重ねていくにあたって、チーム屈指のクオリティを備える日韓代表コンビがマジョルカの救世主になれるかもしれない。

久保建英とキ・ソンヨン

久保建英 キ・ソンヨン
【写真:Getty Images】

 キ・ソンヨン自身も地元メディアに対し「久保とは互いに理解し合えると思う」と語り、そのうえで「久保は非常に才能溢れる選手で、日本ではファンが彼の試合を追っていると思う。彼と共にチームがより良くなるよう貢献できることを願っている」と共闘への意欲を示した。

 彼ら2人は英語でコミュニケーションを取れることも大きい。久保はクラブ公式ツイッターなどで公開されている記者会見の中で「英語で、例えば『今日、風強かったんですよ』とか、『このチームはどんな感じなの?』ということを、俺だけじゃなくて他の選手にも聞いていましたけど、自分も共通の知り合いがいたりするので、そういうところで早く打ち解けられたかなと思います」と同じアジア出身との関係性について明かした。

 韓国を離れる際は古巣への恨み節も口を衝いて出たが、マジョルカとの契約直後のインタビューではキ・ソンヨンが「何人かの選手は英語を話すことができるし、僕自身もスペイン語を勉強していければと思っている」と高いモチベーションで新天地に順応しようとしていることもうかがえた。

「まずはチームを助けること。それが僕の最優先事項だ。このユニフォームやエンブレムはたくさんのものを僕にくれた。僕はチームのために全てを捧げたい」

 プレミアリーグで居場所を失った今、おそらくマジョルカで結果を残せなければ、キ・ソンヨンの欧州での挑戦は終わりを迎えることになるだろう。だが、10年以上前の契約に縛られて自由に母国リーグへ帰ることもできない現実も突きつけられた。3度のワールドカップ出場経験を持つ男は、自身初のスペインリーグで捲土重来を期し、最も困難な状況に飛び込む覚悟を決めたのである。

 現地7日に予定されているエイバル戦は、ちょうどセントラルMFの主力だったサルバ・セビージャが出場停止になる。キ・ソンヨンのラ・リーガデビューはあるか。そして久保と共存しての勝利を果たせるかに注目していきたい。

(文:舩木渉)

【了】

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