デ・ヘアの凡ミスで試合開始
ここ最近好調を維持するマンチェスター・ユナイテッドにとって、現地時間1日に行われたプレミアリーグ第28節、エバートン戦は是が非でも勝利が欲しい一戦となった。このゲームの前日にチャンピオンズリーグ(CL)出場圏内の4位・チェルシーがボーンマスに2-2で引き分けたため、ユナイテッドは勝ち点3を積み上げることができれば、チェルシーとのポイント差を「1」にまで縮めることができたからだ。
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しかし、結果は1-1。敵地での戦いで勝ち点1を拾えたのはそこまで悪くないが、なんとも後味の悪いドローになってしまった感は否めない。もっとも、この日のユナイテッドは試合への入り方が「最悪」だった。
2分、DFハリー・マグワイアからのバックパスを受けたGKダビド・デ・ヘアがボールをキープ。しばらくして右足でクリアしようとしたものの、このボールが寄せに来たFWドミニク・キャルバート=ルーウィンに当たってそのままゴールへ。ユナイテッドはまさかの形で先制点を献上してしまった。
決して擁護できない守護神の凡ミスでリードを奪われたユナイテッドは、その後もエバートンに対して苦戦。名将カルロ・アンチェロッティ監督就任後、好調を維持するFWリシャルリソンとキャルバート=ルーウィンの2トップが果敢に背後を狙ってきており、そこへシンプルなロングボールを送られては最終ラインが深い位置まで下げられる。エバートンは1点を取って勢いに乗っており、セカンドボールに対する反応も非常に素早かった。
ただ、エバートンにも隙がなかったわけではない。特に気になったのが、被カウンター時の最終ラインと中盤の間のエリアによる曖昧な対応。味方同士の距離感も微妙で、マークに付けていない場面も散見されており、実際に何度かMFネマニャ・マティッチにそのスペースへ侵入されシュートを許していた。ユナイテッドにとっては、そこをいかに的確に突けるかが、同点のカギとなっていた。
すると31分、DFジブディル・シディベのパスミスを敵陣内で拾ったマティッチがワンタッチでMFブルーノ・フェルナンデスへ。ボールを受けた背番号18は前を向くと迷わずミドルシュートを放ち、これがゴールネットに突き刺さった。
シディベのFWセオ・ウォルコットへのパスがズレたのは致命的であり、B・フェルナンデスの動きに対してMFトム・デイヴィスの反応も間に合わなかった。結局突かれたのはペナルティエリア手前のスペース。ミスによるものだが、エバートンにとっては痛すぎる同点弾献上となった。
エバートンが猛攻も…
前半45分間のスタッツは支配率37%:63%、シュート数4本:8本となっており、アウェイのユナイテッドがエバートンを上回る数字を残している。デ・ヘアの凡ミスで先制ゴールを許したが、その後は見事に立て直した印象が強かった。エバートンのウィークポイントを突いての同点弾も、素晴らしかったと言えるだろう。この時点でユナイテッドが逆転する可能性も、十分高かった。
しかし、後半は一転してエバートンペースで試合が進むことになる。特にやり方を大きく変えてきた印象はなかったが、全体のゴールへ向かう姿勢がより強まり、手数をかけないスピーディーな攻めでユナイテッドに襲い掛かったのである。
56分にはMFギルフィ・シグルドソンがポスト直撃のフリーキックを放つ。57分にはシディベが右サイドを駆け上がりクロス。これは相手に当たってコーナーキックとなったが、その直後にシディベがサポーターを煽るなど、会場のボルテージも一気に上がる。エバートンの勝ち越しムードが漂っていた。
ただ、ユナイテッドはマグワイアを中心にエバートンの猛攻に耐える。反対にカウンターからチャンスを作るなど、相手にリズムを与えぬよう、歯を食いしばりながらプレーしていた。4-4-2のフォーメーションを用いる相手に対し左右に揺さぶられるとさすがに苦しかったが、単純なロングボール、または縦パスに対しては素早く身体を寄せるなど、疲労の溜まってくる中でも冷静さを保った。
そして、試合は終盤までわからない激しい攻防戦に突入。球際の激しさはより一層増し、どちらに勝敗が転んでもおかしくない展開になった。
89分にはB・フェルナンデスがシュート、そのこぼれ球に途中出場のFWオディオン・イガロが反応しシュートを放つなどユナイテッドが決定機を連続して作ったが、エバートンはGKジョーダン・ピックフォード渾身のセーブで何とか失点を免れる。両チームのサポーターにとっては心臓に悪い時間が長く続いたが、結局試合は1-1のままATへ突入した。
だが、ドラマはここで終わらなかった。最後の最後にあのシーンが生まれたのである。
オフサイドの判定は正しかったのか?
91分、MFベルナルジのロングボールにリシャルリソンが反応し、落としたボールにシグルドソンが飛び込みシュート。GKデ・ヘアの弾いたボールをキャルバート=ルーウィンが押し込んでエバートンが劇的な勝ち越し弾を挙げた。
と、思いきやVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)により判定はノーゴール。キャルバート=ルーウィンがシュートを放った瞬間にシグルドソンがオフサイドポジションにいたとして、ゴールが認められなかったのである。
しかし、この判定が正しかったのかどうかは意見が分かれるところだ。ただ、この場合のオフサイド判定は少々厳しいような気もする。その理由をここから述べたいと思う。
まず抑えておきたいのはシグルドソンが明らかにオフサイドポジションにいたこと。そして、キャルバート=ルーウィンのシュートに対し触れてはいないことである。そのため、競技規則にある「味方選手がパスした、または、触れたボールをプレーする、または、触れることによってプレーを妨害する」にはまったく当てはまらない。
そのため、今回のケースに該当すると思われるのが「明らかに相手競技者の視線を遮ることによって、相手競技者がボールをプレーする、または、プレーする可能性を妨げる」。「自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える。または、相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動を取る」だろう。
まず「相手の視線を遮る」に関してだが、キャルバート=ルーウィンがシュートを放った時点でシグルドソンはゴール前に「座って」おり、GKデ・ヘアの視線を遮ってはいない。実際、リプレイを見ても守護神の視線はしっかりとボールを追うことができている。そのため、この点でオフサイドを取るのは難しいと言えるだろう。
問題は「自分の近くにあるボールを明らかにプレーしようと試みており、この行動が相手競技者に影響を与える。または、相手競技者がボールをプレーする可能性に影響を与えるような明らかな行動を取る」の方だろう。確かに、シグルドソンはキャルバート=ルーウィンのシュートに対して触れぬよう両足を引いている。この動きが「ボールへの関与」と取られても、おかしくはないのかもしれない。
だが、ポイントはそこではない。その動きがデ・ヘアに「影響」を与えたかどうかだ。
競技規則にもある通り、オフサイドの基準となるのはボールに「関与したかどうか」よりもそれが相手に「影響を与えたかどうか」になる。今回のケースで見ると、キャルバート=ルーウィンのシュートがマグワイアに当たってコースが変わっており、デ・ヘアの身体自体もボールの反対方向へと傾いている。この時点でシュートをストップするのは「無理」と言えるだろう。
そのため、シグルドソンの位置、足を引いた動きがデ・ヘアに直接的な「影響」を与えたかと言えば、答えは「ノー」である。ボールには触れておらず、視界も遮っておらず、影響も与えていない。これでオフサイドの判定となるのは少々厳しいのではないか。
なお、試合はこのまま1-1で終了。見ごたえのあるゲームだったが、最後の判定を含め、後味の悪いドローとなってしまったのは何とも残念である。
(文:小澤祐作)
【了】