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Jリーグ 5年前

酒蔵力が浦和レッズの“聖地”である理由。岡野雅行が退団セレモニーで語ったその思い【聖地の浦和レッズ論・後編】

浦和レッズを嫉妬してしまう要因は、その莫大な年間予算だけではない。実はスタジアム以外に〝聖地〞を持っているという理由もある。酒蔵力浦和本店は「浦和レッズサポーターのサポーター」として名高い。言うまでもなく今井俊博店長もレッズと苦楽をともにしてきた。そんな男から特濃の〝浦和レッズ論〞に耳を傾けた3/6発売の『フットボール批評issue27』から一部抜粋し、前後編で先行公開する。今回は後編。(文:吉沢康一)

text by 吉沢康一 photo by football critique

「このままチームがなかったら、ぜひ力で…」

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【写真:フットボール批評編集部】

 バイトから社員になると、週3回の仕込み作業もするようになった。休みは週1。長期休暇は取らずに、貯めて海外遠征時に使った。2006年はドイツワールドカップ、2007年はACLでイラン、2008年はクウェートに出かけて行った。

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 もっとも、今井は力に入社後、埼玉スタジアムで浦和レッズの試合を見たのはたった2回しかない。うち1試合は福田正博の引退記念試合で、もう1試合は力の常連客が急逝し、遺族から供養になるので行ってもらいたいとチケットを託されたリーグ戦だった。

 つまり公式戦は1試合しか見ていない。リーグ優勝も天皇杯優勝もACL優勝のときも、今井の姿は埼スタではなく、力にあった。

「お店からスタジアム、スタジアムからお店」というサイクルとの別れだった。その代わり、自宅が駒場に近いこともあり、ユースやレディース、高校の試合は観にいくようにしている。そこで馴染みのサポーターや常連客と会うので、今井がスタジアムに来ていないと気がつく者は意外に少ないのだという。

 そして、力に入社して7年を迎える直前に今井は本店の店長に大抜擢されるのだった。

「今日でこのユニフォームは着れませんが、これからが始まりだと思っています。だからこれからもまだサッカーを続けて行きたいと思っています。とはいっても、まだチームは決まってないんですけど。このままチームがなかったら、ぜひ力でアルバイトさせてください」

 2008年のリーグ最終戦後に行われた退団セレモニーでの岡野雅行の挨拶に埼スタは沸いた。翌年、岡野は香港のTSWペガサスに移籍して、契約満了となる2月6日までプレーし、同年7月31日からは当時JFLだったガイナーレ鳥取に活躍の舞台を移した。その直前となる2009年7月16日に本店の一日店長を務めることになった。

 岡野の挨拶は、自然に出た言葉だった。だが、その言葉は今は亡き力社長の神宮字明夫のハートに突き刺さっていた。神宮字は岡野の言葉を粋に感じた。公の場でそんなことを言ってくれるなら、ぜひとも実現させようじゃないか。サポーターが喜ぶなら岡野を呼ぼう。神宮字は酒造メーカーを巻き込み、岡野に一日店長のオファーを出すと、岡野もそれを快諾してくれた。

 当然、このイベントは大盛況となり、多くのメディアで取り上げられた。そこには岡野の傍らで目立たぬようにサポートをする今井がいた。今井にとってもこのイベントは感慨深いものだった。

「当時、自分は副店長だったんです。本店は2年くらい店長が不在で、『そろそろ店長をやってみろ』って言われていたんです。そんなタイミングで岡野さんが一日店長をしてくださって、自分はその後に店長になりました。だから岡野店長の後に今井ですね。社長がそういうシナリオを作ってくれたんです」

 このイベントを境に「日本一のフットボール酒場」力では、今井が「顔役」、つまり店長を名乗るようになった。

(文:吉沢康一)

FootballCritic28

『フットボール批評issue27』


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<書籍概要>
プレーモデルから経営哲学、はたまた人間形成まで、ありとあらゆる“洋物”のフットボールメソッドが溢れ返るここ日本に、独自のフットボール論が醸成されていないと言えば実はそうでもない。
例えば27年目を迎えるJリーグ自体、“完熟”の域には達していないまでも、“成熟”の二文字がチラつくレベルに昇華している。
“洋物”への過度な依存は、“和物”の金言をフォーカスする作業を怠っているからにすぎない。
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経営、バンディエラ、キャリアメーク、データ、サポーターなどさまざなま分野に、それこそ秀でた国産のフットボール論は転がっている。
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