全得点に絡む活躍で勝利に貢献
ピッチを縦横無尽に走り回る193cm、85kgのFWオルンガ。そのスピードは、明らかに尋常ならざるものがあった。約20年にわたり、柏レイソルを取材してきた知人の地元紙記者に言わせると「完全に異質ですよね。特にあの初速、“にゅっ”と出てくるスピードは、多くのJリーグの選手は経験したことはないはず。多分、どのチームも1回対戦するまでは、なかなか対応ができないと思いますよ」と胸を張った。良質な外国人が数多く在席してきたクラブを見続けてきた目から見ても別格ということらしい。
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さらに驚いたのは、柏を長年支えてきたベテランMF大谷秀和の試合後のコメント。ケニア代表FWの驚異的なプレーについて聞くと「まだ30%くらいじゃないですか? コンディションが整ってきたらもっとやれるはず」とこともなげに答えた。酸いも甘いも経験してきた人格者だけに、多少のリップサービスをしてくれた可能性もあるが、それでもこの日が特別の出来という訳ではなく、シーズンが進めば、もっともっとできるということは強く伝わってきた。
柏攻撃陣のクオリティーの高さがにじみ出た試合だった。13分にオルンガが右サイドで起点を作りパスを出すと、中央でフリーのFW江坂任がドリブルからシュートを決めて先制。その7分後には後ろからのボールに対し、凄まじいスピードで走りこんだ背番号14が、飛び出した北海道コンサドーレ札幌GKク・ソンユンより先にボールに触れて抜き去り、右足で追加点を挙げた。
2-0で後半に入ると、58分にまたもケニア代表FWが起点となり江坂が決めて3点目。とどめは爆速FWが65分、またもスルーパスを相手GKより先に収めて4点目を挙げた。終盤に札幌が地力を見せて2点を奪われたが、J1復帰初戦は4-2の快勝だった。
オルンガには「勤勉さがある」
オルンガの持つ、圧倒的な能力の被害者となってしまったとも言えるク・ソンユン。韓国代表にも選ばれ、J屈指のGKである名手が、背番号14の凄みを語ってくれた。
「スピード以外も持っている能力はすごかった」と切り出すと、「スピード、シュート力、決定力、連係、すべて持っている能力が高かったですね。いい選手ですね。間違いないです」と、実際に戦ったからこそ分かる総合力の高さに言及した。
「身体能力、あのサイズでスピードがあって、体の強さを活かして点を取れるというのはものすごく能力が高いです。実際リーガでもやっていた選手だから力があるのは分かっていたけど」と、改めて太鼓判を押したのは大谷だ。
「本人の努力もあって日本とレイソルのサッカーにフィットしたのが去年だったと思う。文化の違いとか、食事の違いとか、だいぶ苦労したとは思いますけど、そこを馴染んできたことで、自分の能力をチームの戦術の中で発揮できるようになった。もっともっと彼は良くなると思いますね」とピッチ内外で努力を怠らない人間性にも強みがあることを明かした。
DF鎌田次郎も「ケニア代表でやっているだけあるので、ただ攻撃していればいいとか、そういうプレーヤーではないですね」と口をそろえた。
この試合、193cm、85kgの大きな体で最前線の中央にどっしり構えていただけかというと、そうではない。状況を見て左右に流れて起点を作り、空いた中央のスペースを江坂らが使うという場面が散見した。
「決して動けない選手ではないので。本人が賢い選手ですからスペースを見つけながら、今プレーしていると思います。サイドにスペースがあれば流れるし、なければ真ん中にいるし。走るのを苦にしない選手なので、味方としてもすごく頼もしいです」と大谷。
さらに自分がボールをロストした時もすぐに守備に入るだけでなく、他の選手が空けたスペースを埋めることなども積極的に行っていた。「勤勉さがあるのでチームや後ろの選手が助かること多いです」と背番号2のベテランDFも続けた。
それは相手CKでの守備でも現れていた。札幌のエースで190cmのFWジェイに、マンツーマンでオルンガがついていた。「札幌は武器がセットプレーなのはスカウティング済みだったので。たまに大きい選手がいるときはミカ(オルンガ)がマンツーでつくのは何度かやったことはあるかなという感じです」と鎌田。
外国人FWが任されるタスクとしては、連係などで難しい部分もありそうだが、「そういうところも性格的にまめというかまじめですし、言ったらやってくれるしコミュニケーションも取れるので」。守備に必要な細かな連係や集中力の持続など、そういう面でも、このストライカーは難なくこなせる力があるのだろう。
ケニア代表FWの存在がリーグの強化に
開幕戦で2得点。多少は浮かれる雰囲気もあるかと思ったが、ケニア代表FWは「まずハードワークですね。全試合いいパフォーマンスができるように私は心がけています。出場機会が与えられたら、それを続けながら得点に絡むようなプレーをしたいです。やはり自分というよりもチームのことを考えながらやっていきたい」ときっぱり。
「個人よりもチームを最優先していかないといけないと思うので、私はその中でベストを尽くしていこうと思っています。自分が点を取らないといけないFWとしての役割もありますが、でもそれだけでなくチームの勝利が大事だと思うので、時には攻撃だけでなくチームのために自分も守備をしないといけない。
自分を犠牲にしながらでもチームが勝てるための過程もあると思うので、そこを意識して個人の栄光よりもチームの勝利を大事にしたい」とフォア・ザ・チームの姿勢を繰り返した。
圧倒的な能力を持ち、かつ精神面での充実も見られる25歳のストライカー。昨季終了後には当然のように欧州復帰が噂されたが、柏でのプレーを続けている。現在のJリーグでは、規格外の大きさとスピードを持ち、総合力も高いオルンガのような選手は、ほぼいない。それだけにプレーで観客を喜ばせるのはもちろん、彼の存在がリーグの強化につながる側面もあるはずだ。
「J1というのはすごくレベルの高いリーグだと思いますし、J2と違ってより優れている相手、優れているチームと戦わないといけない。自分の力も今まで以上に上げていかないといけないと思うし、ゲームそのもののレベルも高いけども、今後は私のプレーによってリーグ全体のレベルも上げていきたいなと思います」。
その言葉を信じ、できるだけ長く日本でプレーしてもらいたい。そう思わせるだけの存在だった。
(取材・文:下河原基弘)
【了】