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あまりにドM…無能晒したモイーズ、有能なペップ。マンCの危機に待望のラストピースがハマる

来季以降2シーズンの間、欧州カップ戦からの締め出し処分が下されたマンチェスター・シティ。激動の中で選手たちはどんなパフォーマンスを見せたのだろうか。今季のチャンピオンズリーグ決勝トーナメントに向けて、重要な選手も帰ってきた。名将ペップ・グアルディオラの腕の見せどころだ。(文:舩木渉)

text by 舩木渉 photo by Getty Images

モイーズは無能であり続ける

デイビッド・モイーズ
【写真:Getty Images】

 欧州カップ戦から2年間締め出される処分に揺れるクラブの試合が、これほどまでに波風立たず驚きのない結果に終わるとは。

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 プレミアリーグ第26節が現地19日に行われ、マンチェスター・シティはウェストハムに2-0で勝利を収めた。荒天で順延になっていた試合の代替開催ということで、期せずしてチャンピオンズリーグの裏カードとなったが、キックオフから30分後には多くの人が荘厳なアンセムの響き熱狂渦巻く欧州最高峰の戦いにチャンネルを切り替えていただろう。

 正直に言って、見どころがなさすぎた。ウェストハムはまるで勝つ気がないようなサッカーを展開し、最近強豪相手に使われる5バックでシティの攻撃を跳ね返し続けるだけ。DFがクリアしても前線に残るミカエル・アントニオを走らせるのみで、すぐにボールを失ってシティの波状攻撃を受け続ける。

 あまりにドMなサッカーで、両チームの力の差はスタッツにも現れた。ボールポゼッション率はシティが78%だったのに対し、ウェストハムは22%。総シュート数もシティが20本放った一方で、ウェストハムはわずかに3本。しかもエデルソンが守るゴールの枠内に飛んだシュートはゼロだ。

 8割近くボールを支配されることなど、そうそうない。ウェストハムが18位に低迷していることをよく表しているというべきか、デイビッド・モイーズ監督の無策ぶりを嘆くべきか。「私は選手たちが組織的に、規律を持って、彼らにとって難しい流れの中でも素晴らしい仕事をしてくれたと思っている」という指揮官の口から出た言葉の空虚さといったら…。

 確かにディフェンス面で選手たちはやれることをやっていたように思う。基本的に5バックでゴール前を固めるものの、相手の攻撃を効果的に食い止める策がないため、結局のところ最後は体を張るしかない。その点で守備陣は諦めることなく体を投げ出した。

 アルトゥール・マスアクをはじめ、アーロン・クレスウェル、アンジェロ・オグボンナ、イサ・ディオップ、ライアン・フレデリックスの5人とGKルカシュ・ファビアンスキは20本ものシュートを浴びながら、2失点に抑えたことを評価されて然るべきだ。

 糾弾されなければいけないのは、守備的に選手を並べるだけでシティの倒し方を導き出せず無能を晒したモイーズ監督だ。シティで長きにわたって愛されたパブロ・サバレタを、かつての“家”エティハド・スタジアムのピッチに立たせることくらいしか盛り上がりを作り出せなかった。

UEFAからの処分に揺れるシティだが…

 ウェストハムは現時点でリーグ戦は5試合勝利がなく、次節のリバプール戦をはじめ残り12試合のうち「ビッグ6」との対戦を5つ(リバプール、アーセナル、トッテナム、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド)も残している。

 残留圏内との勝ち点差はわずかだが、このまま迷走を続けて強豪クラブに立ち向かっていくことになればチャンピオンシップ(2部)降格は避けられそうにない。5バックで徹底的に引いても守りきれる力がないことは、シティ戦で証明された。

 過去の不正を指摘されてCLからの2年間締め出しを食らったシティの方が、よっぽど将来を憂いているはずだった。ペップ・グアルディオラ監督はマンチェスターで仕事を続けてくれるのか、サラリーの削減も避けられない中で現有戦力たちは残ってくれるのか、CL出場権がない状況で今後の補強はうまくいくのか……少し考えるだけでも、解決すべき問題が山積みなことはわかる。

 当然ながら選手たちも来季以降シティでCLに出られないことは想定外だっただろうし、目の前の試合に集中できなくなってもおかしくはない。プロサッカー選手はいわば個人事業主なので、自分の将来を心配するのは普通のことだ。

 ところがシティは監督がモイーズではなくグアルディオラだった。有能である。ウェストハム戦後に「私はクラブから解任されなければ、100%残る。そもそも私はここに残りたい。クラブとは契約以上の特別なものを結んでいると思っている」と残留を宣言し、シティへの忠誠を口にした。

 おそらくサッカーへの情熱の塊であるグアルディオラは、選手たちの前でも自らの去就について話し、問うたのではないか。「今やるべきことは何か?」と。将来の心配はあるかもしれないが、目の前の試合に全力を尽くせない者に理想の未来はやってこない。

 シティの選手たちは、トップレベルで積み重ねてきた経験からもピッチ内とピッチ外を明確に切り離す術を身につけているのだとも感じる。実際、ウェストハム戦で気の抜けたプレーをした選手は1人もいなかった。

 シュートだけが一向に入らなかったもののガブリエウ・ジェズスは久しぶりの先発起用で気を吐き、度々左サイドからペナルティエリア内まで侵入して相手ゴールを脅かした。セルヒオ・アグエロやベルナルド・シウバは相変わらずのテクニックを見せ、1ゴール1アシストを記録したケビン・デ・ブルイネの強烈な右足を止めることは誰もできなかった。

ラポルトの復帰は何よりの朗報

エメリック・ラポルト
【写真:Getty Images】

 そしてエメリック・ラポルトが完全復活に近づいたことも大きい。膝の怪我で昨年8月末からずっと離脱していた25歳のフランス代表DFは、先月末に公式戦復帰を果たすと、ウェストハム戦で2試合ぶりに先発出場した。

 シティのレジェンドで英『スカイ・スポーツ』の解説者を務める元イングランド代表DFマイカ・リチャーズ氏は「彼は左利きのセンターバックで、常にビルドアップの助けになる。カリスマ性もある。僕の考えではほぼ完璧なセンターバックだ。人々はみんなフィルジル・ファン・ダイクのことを話す。確かに彼はセンセーショナルだったが、ラポルトがフィットした日には彼も世界最高の1人さ。監督からの信頼も見られるだろうね」とラポルトを絶賛する。

「ジョン・ストーンズとニコラス・オタメンディに敬意を欠くことを言いたくはないが、ラポルトがプレーする時、(ディフェンスラインの)質が大幅に向上することがわかる。ストーンズとオタメンディが一緒にプレーすると、本当のリーダーが誰かわからないことが時々あるんだ。でもラポルトがプレーする時、本物のリーダーが誰かを見ることができる」

 ビルドアップとディフェンスの両方に武器を持つセンターバックの不在は、今季のシティがリバプールに大きな差をつけられた要因の1つと見られていた。ラポルトが復帰してきたことは、終盤戦に向けて何よりの朗報だ。グアルディオラ監督も、これで最終ラインの安定感が高まると安堵しているだろう。

 マイカ・リチャーズ氏は「最近、世界が僕たちに敵対しているように感じる」とも語った。ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)に関する違反でUEFAから厳しい処分を下されて以降、シティに対する目が厳しくなったということだ。

 しかし、「選手たちが集中するのが難しいとは思わない」とも。なぜなら「彼らは十分に強く、特徴を持っていて、ピッチでしっかりと仕事をしなければいけないことを知っている」から。ピッチ外からの影響を必要以上に心配しすぎないでいいのかもしれない。

 プレミアリーグの逆転優勝は難しくなったかもしれないが、今季のCLでの戦いは続く。今週末のレスター戦から、来週にはCLラウンド16のレアル・マドリー戦が控えている中で、ダビド・シルバの負傷の状態は気になるところ。だが、それ以上にこのタイミングでラストピースだったラポルトが帰ってきたことは終盤戦に向けて大きな後押しになりそうだ。

(文:舩木渉)

【了】

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