ボールを保持するが遅攻にこだわりはない
後半のアディショナルタイムに入ってなお、ボールを失った直後に奪い返しに行く姿勢=ゲーゲンプレッシングが徹底されていたところに、この試合に対するRBライプツィヒの意識の高さが現れていた。コンラート・ライマーが獲得した58分のPKで殊勲の決勝弾を決めたティモ・ヴェルナーは、試合後に「何より重要だったのはPKの後で、僕たちが最後の局面で守備に固執したことだった」とコメントを残している。
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2月19日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメント1回戦、対トッテナム・ホットスパー戦。完全アウェイと化した北ロンドンの地で、昨季CL準優勝チームとの対戦で輝きを放ったのは、レッドブルサッカーのDNAだった。
今季からライプツィヒを率いるユリアン・ナーゲルスマン監督は、極端なまでに縦一辺倒のカウンター型だったチームにポゼッション型を導入したが、その要諦は敵陣で綺麗にパスを繋ぐことではないようだ。
自分たちでボールを保持して主導権を握ろうとするが、ボール奪取後に必ずしもゲームを落ち着かせ、遅攻にこだわるわけではない。16分の場面のようにトッテナムが前がかりになり、自陣でボールを奪った時に敵陣にスペースがある時は、カウンター主体の旧スタイルを彷彿とさせる少ないタッチ数で縦に速く攻め込んだ。
呼び起されたDNA
[4-4-2]でブロックを敷いて自陣に構えるスパーズに対して、センターFWのパトリック・シックのポストプレーを軸に、ヴェルナーを左か中央でフィニッシャーとして活かすべく連動性で崩しにかかることもあったが、やはりワンタッチ、ツータッチでの素早いパス回しが基本になっていた。主体性はあるが、決して敵陣で繋ぎ続けることに満足するという自己陶酔には陥らない。
もちろんCLの決勝トーナメントというテンションが異様な試合が、選手たちの緊張と集中を一層高め、さらにアップ・テンポのサッカーに繋がった側面もあるだろう。後半戦に入って、国内リーグのブンデスリーガでは、ライプツィヒのポゼッション型は必ずしも上手くいっていない。
しかし、日常とは異なるイングランドの地で、ホーム&アウェイ方式とは言え、一発勝負に近いCLの決勝トーナメントという超高密度の空間は、改めてライプツィヒの選手たちの中に染み付いたレッドブルのDNAを呼び起こしたようだ。つまり、猛牛のように突進するプレッシングと、それに続くファウルを厭わない強度の高い1対1の守備、そして冒頭に記したゲーゲンプレッシングである。
ポゼッションにこだわらない采配
トッテナムが最後までリズムを掴むことができなかったのは、こうしたレッドブルのDNAにとことん苦しめられたからだろう。ヴェルナーが言及したように、トッテナムがマイボールにしても即座に切り替えて、飢えたハイエナの群れのように「守備に固執」して襲いかかってくる。加えてハリー・ケインやソン・フンミンを欠いたことで、トッテナムの選手たちには、強力なプレスを掛けられた時の逃げ道が少なかった。
1点リードした後の75分以降、ナーゲルスマン監督はカウンター型に切り替える。5バックで自陣に引いて、専守防衛に徹した。77分にシックに代えてユスフ・ポウルセンを、83分にはライマーに代えてエミル・ホシュベリを投入。4年前にブンデスに昇格した直後の快進撃を支えた、縦に特化した選手たちをピッチに送り込んだ。この戦術変更からも、32歳の青年監督が敵陣でパスを繋ぐためにポゼッション型にこだわっていないことが分かる。
そして試合終了の笛が鳴るまで、ヴェルナーたちは強度の高い「守備に固執」し続けた。そうやって最後まで主導権を渡さなかったライプツィヒが、ひとまず1stレグを制することになったのである。
(文:本田千尋)
【了】