「シンプルにその瞬間を楽しむ」
一体、いつまで快進撃は続くのだろうか。2月18日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメント1回戦、対パリ・サンジェルマン戦。試合を決めたのは、またも“令和の怪物”だった。69分、アシュラフ・ハキミが右サイドから入れたグラウンダーのクロスを、ラファエウ・ゲレイロが左足ダイレクトでシュート。
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マルキーニョスがブロックしたボールは、今冬ボルシア・ドルトムントにやってきた新星FWの前にふわりと落ちた。目の前に現れた獲物を瞬時に捕まえる動物のように、すかさずアーリング・ハーランドが右足インサイドで押し込む。1-0。19歳のノルウェー代表FWは、試合後に「シュートの場面ではそんなに多くのことは考えない。シンプルにその瞬間を楽しむんだ」とコメントを残している。
75分、キリアン・エムバペに驚異的な突破を許し、折り返しをファーでネイマールにきっちり押し込まれて同点に追い付かれたが、直後の77分、またも怪物が火を噴いた。ジョバンニ・レイナからのパスを、ペナルティエリアの手前で左足で斜め前に流すようにトラップ。すかさず同じ左足で弾丸シュートを突き刺した。「シンプルにその瞬間を楽しむ」。その言葉通り、ハーランドはフィニッシュの局面で本能の赴くままにゴールを決めた。
もちろん目立っていたのはシュートの場面だけではない。何よりポストプレーが、例えば4日前のアイントラハト・フランクフルト戦の時に比べれば、見違えるように改善されていた。先制点も、元を辿ればハーランドのスムーズかつ着実なポストワークから一連の流れが生まれている。
新星ノルウェー人FWが前線で不用意にボールを失わないことで、チームはリズムを保つことができたと言えるだろう。もちろん前からアグレッシブにプレスを掛け続け、守備面でもチームに貢献した。
PSGに「攻撃をほとんど許さなかった」
大黒柱のマルコ・ロイスを負傷で欠くドルトムントは、基本的に5バックで引いてカウンターを狙った。トップ下のポジションで縦横無尽に動いてゲームを作るロイスがいないことで、かえって縦に割り切ったサッカーをすることができたと言えるだろう。そしてエムレ・ジャンが「僕たちは本当に良く守った」と振り返ったが、コンパクトでしっかりとしたブロックを構築できたからこそ、ボールを奪ってカウンターに転じることができたのだ。
ドルトムントの3トップ=ジェイドン・サンチョ、ハーランド、トルガン・アザールの間に、パリのダブルボランチ=マルコ・ヴェラッティ、イドリサ・ゲイエがポジションを取り、DFラインからボールを引き出して小気味良くパスを回す。しかし、ポゼッション・フットボールの宿命とでも言うべきか、引いた相手を崩し切るのは簡単ではない。ヴェラッティとゲイエより前になかなか進まない。
3トップの左に入ったネイマールが、中盤まで降りてきてパスを貰おうとするが、ドルトムントの守備意識は高く、ブラジル人FWにパスが入るや否や即座に王国のエースを潰しに来た。ルシアン・ファブレ監督は「我々は守備を本当によくこなした」とコメントを残している。ボールが大外を回ってサイドに流れても食らい付き、初老のスイス人指揮官は「我々は攻撃をほとんど許さなかった」と振り返る。決定的なチャンスをパリに与えたのは、ネイマールに得点を許した75分の場面だけと言って良かった。
最後の最後まで集中を切らさず、パリに勝ち切ったドルトムント。だが、まだ第1戦を終えたに過ぎない。第2戦は3月11日である。
試合後、エムレ・ジャンは次のように振り返った。
「今日はこの試合に勝つことができたけど、今は前半戦だ。まだパリでの試合が残っているけど、とてつもなく難しくなるだろうね。でも僕は、僕らが今日のようにチームとしてハードワークできれば、成し遂げることができると確信している」
「チームとしてハードワークできれば」、前線にはハーランドがいる。第1戦で2ゴールを決め、少なくともエムバペより目立っていた“令和の怪物”は、アウェイでも何かやってくれそうだ。今季のCLで早10ゴールを達成したハーランド。快進撃は、まだまだ終わりそうにない。
(取材・文:本田千尋【ドルトムント】)
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