堅守のアトレティコが先勝
今季のプレミアリーグで無敗を維持するなどその強さを証明し続けているリバプールだが、欧州最高峰の舞台では「2敗目」を喫することになった。現地時間18日に行われたチャンピオンズリーグ(CL)・ラウンド16の1stレグ、アトレティコ・マドリー戦。アウェイに乗り込んだリバプールは、自慢の攻撃力が鳴かず飛ばずに終わり、0-1で屈することになった。
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試合は開始早々の4分に動いた。アトレティコがコーナーキックのチャンスを得ると、最後はゴール前でMFサウール・ニゲスがプッシュし、先制。ディエゴ・シメオネ監督率いる同クラブからしてみれば、まさに理想的な立ち上がりだった。
その後は、アトレティコの真骨頂とも言える「堅守」がその強度を示し続ける展開に。リバプールはサイドバックからサイドバックへのロングフィードを使うなど、アトレティコ守備陣を大きく揺さぶりに行ったが、それをホームチームのスライドの速さが上回った。4-4-2のブロックはまさに「鉄壁」で、全体的に穴が少ない。FWサディオ・マネ、FWモハメド・サラー、FWロベルト・フィルミーノの強力3トップでも、崩し切るのは容易ではなかった。
リバプールも攻撃時は工夫を見せた。ウィングがボールを保持した際に、MFジョルジニオ・ワイナルドゥムやMFジョーダン・ヘンダーソンといったインサイドハーフの選手がハーフスペースへ走り込み、相手を引き付ける。そうすることで生まれたスペースにサイドバックが走り、チャンスを作る。29分にはそうした形からDFアンドリュー・ロバートソンにシュートが生まれていた。
プレミアリーグではそうした攻撃は威力を発揮する。たとえシュートが直接ゴールへ届かなくても、セカンドボールを拾って二次攻撃に繋げ、相手の陣形が崩れているところを突ける。ここはリバプールの強みだ。
しかしながら、アトレティコにはそれがまったく通用しない。ホームチームの守備陣はシュートアクションに対する寄せが鋭く、セカンドボールを拾われても陣形を整え直すまでの時間が非常にコンパクト。リバプールはボールを奪ってからの速攻を仕掛けようにもブロックが出来上がっている状態では何もできないので、また一からの組み立てを余儀なくされる。これまで苦戦を強いられながらも何度かゴールをこじ開けてきたリバプールだが、さすがにこの日は相手が悪かった。
アトレティコはラインの押し上げも完璧で、全体として高い集中力と意識を持っていることは明らかだった。シメオネ監督もボールが前に弾かれた瞬間に大きなリアクションで「上げろ上げろ」と指示。終始スタジアムに訪れたサポーターを煽るなど、感情を爆発させていた。その影響もあるのだろう、アトレティコの強度は90分間落ちることがなかった。
結局、リバプールはシュート数8本を放ったが、枠内に飛んだのは0本。被シュート数も6本と少ないが、アトレティコの戦い方に飲み込まれたのは事実。「完敗」とも言える内容だった。
躍動する2人
「CKから失点した。彼らにとっての最初のチャンスだ。少し運が良かった」
クラブ公式サイトによると、試合後DFフィルジル・ファン・ダイクは『BT Sport』のインタビューにこう話していたという。確かに先制点の場面は運が良かった点もあるかもしれない。ただ、オランダ人CBは「これが彼らの戦い方」とも話しており、アトレティコの勝利は先制点の時点で必然とも言えたのかもしれない。
さて、アトレティコはチーム全体としてもちろん素晴らしかったが、この日はこの二人の活躍がなければ勝利には至らなかったかもしれない。DFレナン・ロディとMFトーマス・パルティだ。
昨年の夏にフラメンゴへ去ったDFフィリペ・ルイスの後釜としてブラジルからやって来たロディはこの日、サラーとDFトレント・アレクサンダー=アーノルドの両者に仕事を与えないという重要かつ難易度の高いミッションを託された。21歳の若者が世界屈指に力を持つ二人にどのような対応を見せるか注目であったが、その仕事ぶりは見事だった。
とにかくサラーやアレクサンダー=アーノルドに対する寄せの速さ、的確さ、そして距離感がどれも絶妙。単純な1対1でもほとんど負けず、コースの消し方も完璧で、左サイドに安心感を与えた。リバプールの武器の一つであるアレクサンダー=アーノルドのクロスが威力を発揮しなかったのも、ロディの働きが大きいと見ていいだろう。
ボールにガツンと当たりに行くのではなく、まずは縦や斜めのコースを消す。そうすることで相手にボールを下げさせ、相手を遅攻へと追いやる。とくにアーリークロスを狙ってくるアレクサンダー=アーノルドに対しての効果は抜群で、イングランド人DFは何度か中を確認しながらもボールを下げざるを得ないという状況を作られた。
サラーに対しての守備も冷静で、この日はドリブル突破を一度も許さなかった。先にコースへ入ることでエリアへの侵入を阻むなど、隙がなかったと言える。この日、ロディは全体でトップとなる6回のタックル成功数を繰り出し、インターセプトも2回記録。UEFA公式のMOMにも選出されるなど、その輝きは確かだった。
そしてパルティ。中盤底で先発したガーナ人MFは、攻守のバランスを整え、中央へ侵入してくる敵を捕まえ、ボールキープ力を発揮してチームに落ち着きを与えるなど、様々なタスクをこなした。豊富な運動量を駆使し、様々なエリアに顔を出すなど、ロディ同様輝きを放った選手の一人と言えるだろう。
派手さはなかったが、試合の中でしっかりとマークの受け渡しを確認し、常に首を振るなど状況のアップデートを繰り返し行っていたパルティ。そのため一つひとつのプレーに無駄がなく、常に的確かつ素早いアクションを起こすことができていた。同じく中盤底でプレーしたサウールとの関係性も抜群で、中央エリアはほとんど割られることはなかった。
パルティはこの日、タックル成功数5回、ドリブル成功数2回、空中戦勝利数3回、シュート数3本を繰り出すなど攻守両面で絶大な貢献度を誇った。目立たずとも、リバプールの選手を困らせたのは確かだ。
リーグ戦の不調は「関係ない」
この試合に向け、アトレティコの下馬評は低かった。ここ最近のリーグ戦で結果を残せておらず、主力にけが人も多い。そして相手は国内リーグで無敗を維持するリバプールだ。それも無理はない。
さらに、昨日アップしたアトレティコ対リバプールのプレビューに、「アトレティコには1点を奪えれば守り切れる強さはある」と書いた際も、「今のアトレティコがリバプールに勝つのは無理」「今のアトレティコは堅守ではない」といったネガティブなコメントが来ていたが、実際に試合はその通りの展開になった。
確かにアトレティコはリーグ戦で不調だったが、この試合に向けて材料は揃っていたとも言える。今季のリーグ戦で複数失点は4試合しかなく、ホームでは一度しか複数失点を喫していない。攻撃力は確かに低く、守備陣もパフォーマンスが悪い時はあるが、リーグ戦でわずか4回しか負けていないのも事実。引き分けが10回あり、勝ち切れない試合が多いのは確かだが、このようなチームがボールを保持される展開で守りを固め、ワンチャンスを生かせれば勝利に近づくことができるのは当たり前だ。
力の劣るクラブとリーグで戦う際のアトレティコは、攻守両面で歯車が噛み合わないといったことも多々あるが、リバプールのような強敵にはやはり本来の実力を見せる。だからこそユルゲン・クロップ監督は前日会見で「リーグ戦の調子は関係ない」と話したのだろう。
そもそも、「リーグ戦で不調だから勝てない」といった安易な考え方はCLには通用しない。決勝トーナメントのような一発勝負に強いクラブもあれば、リバプールを下したナポリのようにリーグ戦とはまったく違った顔を見せるクラブもある。リーグ戦とCLを=で結びつける考え方は改めるべき。この試合でアトレティコがそれを証明してくれたと言えるだろう。
と、ここまでの話は結果論と言えば結果論だが、アトレティコの勝利は必然だったとも考えられなくはない。次なる舞台はアンフィールドだが、果たしてシメオネ監督率いるチームはどのようなパフォーマンスを見せるか。引き続き注目だ。
(文:小澤祐作)
【了】