B・シウバが語る「フットボールの怖さ」
いくらなんでも早すぎる。誰も満足していない。
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2月中旬にギブアップするとは、マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督も考えていなかったはずだ。25節を終えた時点で首位リバプールとは22ポイント差の2位。リーグ3連覇の夢は消え、ディフェンディング・チャンピオンは引き立て役と化している。なんという屈辱か。
「決定機を外してばかりいるとか、守備陣にけが人が続出したとかではなく、ありとあらゆる要素がネガティブに動いていった。なにかと不利にはたらいたVARも含め、われわれがきっちりプレーしていれば、リバプールに大差をつけられることはなかったと思う」
「30回もチャンスを創ったのに、2点しか決められなかった試合があった。わずか2回のチャンスで2点を決めるクラブもある。それがフットボールの怖さなんだ。われわれは試合の終盤に失点し、リバプールは点を取ってケリをつける。こうした積み重ねが22ポイントものビハインドにつながった。総得点ではシティがトップだけど、もう6回も負けている」
優勝戦線から早々と撤退した理由を、ベルナルド・シウバが語った。言い訳がましくないことがせめてもの救いであり、超一流のプライドだ。
最終ラインの整備が復活の条件
しかし、DF陣の負傷者続出は大きすぎるダメージだった。エメリック・ラポルトを欠いた途端に、最終ラインからつなげなくなった。ジョン・ストーンズはマッチフィットネスが整えられず、ニコラス・オタメンディにロングフィードは期待できない。フェルナンジーニョはよくやっているものの、適性はアンカーだ。CBに求められる対人能力は持っていない。
さらに、左サイドバックもバンジャマン・メンディは負傷を繰り返し、オレクサンドル・ジンチェンコは線が細い。また、経済的な理由により、グアルディオラ監督がリクエストした補強が見送られた事実も、3連覇を逸した大きな原因といえるだろう。
したがってシティが復活するには、最終ラインの整備から着手すべきだ。現時点で計算できるCBはラポルトだけだ。ストーンズは一時の好調が嘘のような低迷を続け、グアルディオラ監督の信頼を損ねている。「アーセナルが狙っている」「古巣エバートン復帰」との情報は憶測の域を出ていないものの、シティにおける優先順位は明らかに下降した。オタメンディと左サイドバックも前述したとおりだ。最終ラインの強化こそが、復活の第一条件といって差し支えない。
宿敵リバプールはジョー・ゴメスが昨シーズン前半のパフォーマンスを取り戻し、トレント=アレクサンダー・アーノルド、フィルジル・ファンダイク、アンドリュー・ロバートソンとともに堅陣を築いて失点15。対するシティでほぼフル稼働したDFはカイル・ウォーカーただひとりで失点29。このデータも、今シーズンのプレミアリーグを象徴している。
ペップらしからぬ弱気な発言
ここまでシティの敗因と復活の条件を探ってきた。しかしいま、彼らを取り巻く環境が目まぐるしく変化している。グアルディオラ監督は、2月13日に放映された『BBC』(英国公共放送)のある番組でこう語った。
「レアル・マドリー戦(UEFAチャンピオンズリーグ・ラウンド16)に負ければ解任されるかもしれない」
この一年、「望まれるかぎりはシティに留まる」と言い続けてきたにもかかわらず、テンションが急速に落ちたような印象だ。プレミアリーグ3連覇が潰えたとはいえ、チャンピオンズリーグ制覇はシティの夢であり、グアルディオラ監督のモチベーションを十分に刺激していたはずだった。ところが、彼らしからぬ弱気な発言。いったい、なにが心境の変化をもたらしたのだろうか。
もちろん、着任後たった4年でイングランド国内のタイトルをすべて獲得したグアルディオラ監督を、シティの幹部が手放すとは思えない。フアン・ソリアーノ副会長と強化担当部長のチキ・ベギリスタインは、バルセロナで同じ釜の飯を食った間柄だ。彼らはグアルディオラ監督をよく知り、グアルディオラ監督も彼らの心情を深く理解している。
ただ、解任ではなく辞任ならありうるのだろうか。グアルディオラ監督にすればたった4年ではなく、〈もう4年も〉という感覚なのかもしれない。つねに勝利を、しかも内容が伴った完璧な勝利を求め続けられることに、心身ともに疲労したとも考えられる。
サー・アレックス・ファーガソン(元マンチェスター・ユナイテッド監督)も4年周期説を唱え、そのサイクルごとに刺激的な変化を図っていたが、彼の最盛期と現代では監督にかかるプレッシャーが比較にならない。経営側やスポンサーの無理な注文から少しの間だけ逃れたい、とグアルディオラ監督が願っていたとしても不思議ではないだろう。
もはや抜け殻。サイクルは終焉へ
そしてさらなる悲劇が、予想もしていない展開が待っていた。
バレンタインデイの深夜、UEFAはシティに厳罰を下した。「ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)に重大な違反を犯したため、来シーズンから2年間、チャンピオズリーグから除外し、3000万ユーロ(約36億円)の罰金を科す」
この一件に関し、シティも公式HPで見解を述べている。
「今回の論拠はUEFAが始め、起訴し、判断したものです。われわれは早急に公平な審判を求め、スポーツ仲裁裁判所への上訴を準備いたします」
至極当然の行動ではあるものの、シティがFFPの嫌疑をかけられたのは二度目であり、彼らの財力を忌み嫌う勢力はUEFA上層部と親しい。現時点で処分の軽減は考えづらく、シティの運営は大幅な方針の変更を余儀なくされそうだ。
今シーズン、トップ4で終えても意味はない。来シーズン、プレミアリーグを奪還してもチャンピオンズリーグには出場できない。トップランクのCBと左サイドバックにオファーを届けても笑われるだけだ。
来年の6月末日で契約が切れるレロイ・ザネあたりは、今シーズン終了後に移籍する公算が大きくなってきた。ザネに同調する者も現れるだろう。チャンピオンズリーグの放映権を失うため、他の主力を売却して経済的ダメージを補わざるをえなくなる。移籍市場における競争力も地滑り的に落ちていく。
こうした状況下で、今シーズンのプレミアリーグを、チャンピオンズリーグを満足に闘い抜けるはずがない。もはや抜け殻。シティに全力ファイトを望むのはあまりにも酷な状況だ。グアルディオラ監督との契約も2021年6月末日まで……。サイクルの終焉が足早に迫ってきた。
(文:粕谷秀樹)
【了】